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変異世界の異邦人《インターステラー》  作者: IK_N
第十幕『ノウイング』編
69/75

069.星間飛行

 ノアンの件がめでたく解決し、途中となっていたロジェとの約束を果たした暁は優雅に昼食を食べた後に自分の部屋へと戻ろうとしていた。


「待て」


 暁が呼び止められたのではない、呼び止めたのだ。今しがた廊下ですれ違った防衛隊員は暁の言葉に振り返った。


「風早さん? どうかしましたか」

「その手に持っているのは?」


 暁は防衛隊員が手に持っている何かを目ざとく発見した。それは写真……というよりもブロマイドだった。


「え? これですか?」


 防衛隊員がきょとんとした表情で差し出したそのブロマイドを暁は四白眼で穴が開くほど凝視した。


「これは……セシルさんの写真のように思われるが」

「そうですよ。カレーフェスの時の。あれ? ご存知、ないのですか?」

「ご存知ないぞ。これは一体なんだ。アイドルみたいな格好して俺にも向けたことのない太陽のような笑顔をしているが?」

「アイドルみたいな、というかアイドルですからね」

「詳しく説明しろ、今俺は冷静さを欠こうとしている」


 防衛隊員の話によると、セシルはカレーフェスで毎回アイドルとしてステージで歌を披露しているらしかった。アイドルとしてのグッズも会場で販売し、貴重な防衛隊の活動資金となっているらしい。以前はカレーフェス限定だった彼女の活躍の場は最近どんどんと増えていっているという話だ。当然のように防衛隊員の中にもセシルのファンがいて、ファンクラブなるものまで存在しているらしい。


「知らなかった、そんなの……」

「あんまり知られたくなかったんですかね。いつもの彼女からしたらまったくキャラが違いますし」


 暁はカレーフェスの前にセシルの荷物運びを手伝ったときの会話を思い出した。


『確かにその方が賢明ですね。私にとっても都合がいいですし』


 この都合がいいというのは、暁にアイドルとしての姿を見せずに済むという意味だったのではないか。それに侵入者が出たという無線通信の前に聞こえてきたあの会場の喧騒。暁の中でパズルのピースがぴたりとはまった。


「風早さん、ここに居ましたか」


 噂をすれば影である。暁を探していたのかセシルが声をかけてきた。


「セシルさん! ちょうど話したいことが」

「ええ、私もです。依頼したいことがあるので至急霧羽さんの所へ」

「これは一体?」

「はい?」


 ブロマイドを見たセシルは一瞬固まり、静かに目を閉じた。数秒無言でいたが、目を開けて口を開く。


「詳しい話は霧羽さんのところへ行くまでに話します」


 暁はセシルの提案に同意し、2人は歩きはじめた。早速暁は先ほどのブロマイドに関して物申した。


「セシルさん。あんな露出の多い格好で人前に出るのは止めたほうがいい。ああいう格好は俺だけに見せるべきだ」

「……なぜ風早さんにそんなことを言われなければならないのか分かりませんが……あの活動は防衛隊の資金集めとしても必要ですから止めませんよ」

「なぜアイドル活動なんて? セシルさんは確かに誰もが振り返るような美貌を持っているし、聞いたことはないが歌も上手いだろうと容易に想像がつく。だが」

「でも、向いていない。そう言いたいんですよね」

「……端的に言うとそうだ」

「正直私も感じています。元々防衛隊の中でなんとか自分の存在価値を出そうとやりはじめたことですから。ですが……今や他コミューンからも私を目当てに来る人もいるんです。今更止められません」


 セシルの決意は固いように見えた。


「わかった。だが、これから衣装は俺のチェックを通すようにしてくれ。それと君のマネージャーを紹介してほしい。病院送りにした後、『後任は俺に任せる』と遺書を書かせる」

「どうしてそういう話になるんですか……」


 セシルが呆れ気味に言う頃には、2人は霧羽のところに到着していた。扉を開けると、いつものように難しい顔をした霧羽が椅子に腰かけている。


「今回は何かな。来年のセシルさんの衣装デザインの依頼か?」

「また訳のわからんことを……いいからさっさと座れ」


 霧羽の話は「タグ付けされた魔甲虫の動きがかつての岐阜県飛騨市辺りで停止したため急ぎその調査に向かってほしい」という話だった。


「タグ付け?」

「各コミューンでは魔甲虫の生態調査も兼ねて倒さずにタグをつけて行動を観察している個体がいるんです」

「へえ、そんなことを」

「はい。停止しているのは4年前にタグ付けされた個体で、X線透過率から10年は寿命を迎えないと判断されています」


 そもそも暁にとって魔甲虫に寿命があることもその寿命をX線透過率で推測できることも初耳であったが、大人しく聞き役にまわっていた。


「停止した場所の付近にコミューンはありません。可能性として考えられるのは以前風早さんを発見した時と同様、コールドスリープ中の人間が大勢いる場所に偶然たどり着いてしまった、というものです」

「……なるほど、そういうことか」


 暁は2つ納得した。1つ、今早急に動けば自分のような100年前の人間を見つけることができるかもしれないこと。2つ、コミューン外でコールドスリープしていた自分に救助が来たのも、タグ付けされた魔甲虫が襲ってきたからだということ。


 暁は自分の役割をすぐに理解し、霧羽に質問した。


「すぐ向かう。移動はどうやって?」

「ヘリを8番に用意している。現着したら魔甲虫はすぐ殺せ。状況報告はその後でいい」

「了解」


 暁にしては珍しく、短く話をまとめてなんの皮肉も言わずに部屋を出た。ヘリまで向かう彼の足は若干早足になっており、正直心が逸っていると言ってもいい。それも仕方のないことなのだ。もしかすると自分と同じ境遇の人間に会えるのかもしれないのだから。


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