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変異世界の異邦人《インターステラー》  作者: IK_N
第九幕『SPY×FAMILY』編
64/79

064.YesterdayOnceMore

 暁は自分の部屋にリコ、セシル、ロジェ、エーコを集めた。いつもの通りに実験を見てもらいたいからだが、会議室ではなく自分の部屋にしたのには訳がある。


「というわけで今回は過去に行ってみようと思う」

「どういうわけですか……」


 呆れ気味にセシルが言う。


「過去に行ってノアンちゃんの行動を確認して身の潔白を証明しようと思ってね」

「そんな出鱈目な」

「確かにかなり出鱈目な話になるが聞いてほしい」


 暁は1つのボールを取り出し、それをロジェにゆっくりと投げた。ロジェはそのボールをキャッチする。


「今、俺はロジェちゃんに向かってボールを投げて、ロジェちゃんはボールをキャッチした」

「うん」

「何当たり前のこと言ってんのよ」

「ボールのスピードがもっと速くなれば、きっと俺がボールを投げるのとロジェちゃんがキャッチするのはほとんど同時になっていくだろう」

「まあ、そうなるでしょうね」

「では仮にこのボールが光の速度を超えたらどうなると思う?」

「……やはり投げるのとキャッチが同時に見えると思います」


 セシルの回答に暁は頷く。常識的な回答だ。


「普通はそう考える。だが、特殊相対性理論によるとそうはならない。ボールはロジェちゃんがキャッチした後に、俺が投げることになる。つまり過去に向かうようになるんだ」


 エーコ以外の3人は一様に唖然とした表情をしていた。


「何がどうなったらそういうことになるのよ……」

「まあ、小難しい話になるからとにかく光速を超えると過去へのタイムトラベルができると思えばいい」

「ですが、光速を超えることなんてできるんですか?」

「セシルさんの言うとおり、質量を持った物体は光速に近づくほどエネルギーが必要になる。光と同じ速度を出そうと思ったら無限大のエネルギーが必要で、当然光速を超えるなんてことはできない」


 だが、と暁は続けた。


「光速を超える現象はある」


 暁はロジェにボールを返してもらい、今度はそのまま手から離した。当然ボールは地面に落ちる。


「地球には重力があって、手から離した物体は地面に落ちることになる。つまり地面に向かって加速度が発生する。この力に逆らって宇宙に出ようとすると重力に逆らう速度が必要になる」

「脱出速度って奴でしょ? 前に聞いた」

「その通り。脱出速度は質量とその半径で変わってくる。質量が大きいほど、半径が小さいほど大きな速度が必要になる。そうすると、どこかの時点で光すら脱出できない境界線にたどり着く」

「あ、知ってる。ブラックホールだ」

「そう。大質量の天体であるブラックホールは脱出速度が光速を超えてしまった星なんだ。だから、ブラックホールに吸い込まれた物質は光を超えた速度でその中心へと落ちていく」

「まさか、それを利用して光速を超えて、タイムトラベルしようと……?」

「その通り!」


 暁の自信満々な声とはまったく反対に3人は神妙な表情で黙っていた。


「……その、危険すぎませんか?」

「確かにノアンを助けて欲しいとは言ったけど、命を賭けろとまでは言わないわよ」

「うん。なんかヤバそう」

「正気の沙汰とは思えません! まずは小動物で実験すべきかと!」


 暁は感動した。4人の美少女から自分が心配されているという事実に感動した。これほど男冥利に尽きることはないだろう。


「確かにこれは危険な賭けだ。いつもは自分が重力の影響を受けないように調整していたが、それを緩めることになる。速度と相対時間の関係を表すローレンツ因子は光速を超えると虚数が出てきて現実でどうなるのか想像もつかないしな」


 だが、暁は止まるつもりはなかった。何しろ、暁にはこれが成功するという確信があったのだから。


「リコ、君は俺と昨日の夜、話をしたと言ったよな?」

「……ええ、そうよ。あんたは忘れてたみたいだけど」

「それはあり得ない。俺がリコと、愛する君と会ったことや、あまつさえ約束したことを忘れるなんてことは絶対にない」


 暁の語尾の力に、リコも気圧される。


「真相はおそらくこうだ。俺は今から過去に行く実験を行い、それを成功させる。そしてそこで昨日の君と会って会話をするんだ。俺が忘れていた訳じゃない。それはこれから起こることなんだ」

「私との約束忘れてることをごまかそうとしてるわけじゃないの?」

「信じてほしい。俺の君への愛を。世界を震えさせるほどの誠実さを」

「……分かったわ」


 暁の真摯な眼差しに、リコは今一度目の前の男のことを信じてみることにした。暁はリコの言葉を聞くと優しく微笑み、4人から少し距離をおく。


「俺は今から昨日……カレーフェス当日のこの場所にタイムトラベルする。時間は8:00。当日俺は7:00に部屋を出て警備に向かったから、この時間帯には部屋にだれもいないはずだ」

「なるほど!」


 エーコが納得のジェスチャーをする。


「昨日8:00に部屋の掃除をしようと入ったら暁さんがまだ居たので不思議に思っていました!」

「なるほど。教えてくれてありがとうエーコ。タイムトラベルほやほやの状態で心臓に悪い事態には遭いたくないからな」


 気を取り直して、暁は《インターステラー》を発現させ、集中しはじめる。


「リコ。これだけの重力を作り出して過去に行った後、ここに残った重力がどうなるのか分からない。その時は君の力で消してほしい。以前俺にやってくれたように」

「ええ、分かったわ」


 リコの返事を聞くと、暁は能力を解放する。空間が落ち込んでいき、暁の姿が真っ暗な事象の地平線とともに4人の前から姿を消した。そして次の瞬間その事象の地平線もかき消え、あとには……何も残ってはいなかった。


「……行ったのよね?」

「風早さんの言葉を信じれば、そのはずです」

「ていうか、暁ってどうやって戻ってくるんだろう?」


 ロジェの純粋な疑問に、リコとセシルは顔を見合わせた。


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