062.あんなに一緒だったのに
正直な話、リコの妹という主張に暁は半信半疑だった。だからこそリコ自身からその名前が出たことに少なからず驚いた。
しかし肝心のノアンはリコの姿を見て……わずかに視線を逸らした。喧騒の中の静かなその仕草が暁の目を引いた。ノアンのことも気にはなるが、今はリコの質問に答える必要がある。暁は自分が一番カッコよく見える角度から会話をはじめた。
「諸処の事情があってね。ところでリコはどうしてここに?」
「別に。なんだっていいでしょ」
「好きな女の子のことは何だって知りたくなっちゃうのさ。その割烹着姿も最高にキュートだ」
「あっそ」
暁を適当にあしらった後、リコは改めてノアンに向き直る。
「来てたんだ。ノアン」
「う、うん……」
姉妹にしてはどこかよそよそしい2人。しかし、姉妹だっていろいろな関係性があるだろうと勝手に納得して暁は会話に入っていく。
「さっき会場の外に迷い込んできたノアンちゃんに会ってね。会場まで俺が案内してたってわけだ」
「あっそう。……ノアンこいつに何かされなかった?」
「え? ううん、別に何も」
「ならいいけど」
心外だ、と思った暁だったが、正直普段の行いを見ていると言われても仕方がない。
「それにしても……久しぶりね。ほんとに」
「うん。そうだね。……7年も会ってなかったし」
「そうね。今日はどうしたの? 今まで来たことなかったでしょ」
「え?」
ノアンがきょとんとしてリコを見つめる。
「お姉ちゃんが手紙くれたから来たんだよ? 久しぶりに会いたい、って……」
「え? 何それ。知らないわよ」
2人の間に奇妙な空気が流れた。ノアンは自分が受け取った手紙をリコに見せようとするが、なぜか見つからない。
「あれ? どこに行っちゃったのかな……。会場まで持ってきて欲しいって書いてあったから、バッグの中に入れてきたんだけど……」
そのとき、暁たちが来た方向から3人の防衛隊員が現れた。
「暁さん。先ほど女性をこちらに案内していたと聞いたんですが」
「ああ、彼女のことだろ」
隊員たちはノアンに目を向け……驚きとともにその場にいるリコと顔を見比べた。性格はともかく、顔は本当に瓜二つだ。
「あの……もしかしてキャンディさんのご姉妹で?」
「え、はい。ノアン・キャンディです。姉がいつもお世話になっております」
「別にいつもお世話されてるわけじゃないけど……」
ノアンの自己紹介を聞き、やって来た隊員たちはお互いに顔を見合わせる。そして意を決したように、ノアンに向き直ってこう告げた。
「ノアン・キャンディさん。あなたにスパイ容疑がかけられています。私たちと一緒に防衛隊まで来ていただけますか?」
「……は?」
呆然としているノアンの代わりにリコが反応する。ノアンの前に体を割り込ませ、隊員を睨みつけた。
「なにそれ、どういうこと?」
「えーっと、ですね」
リコに睨まれて動揺しながらも隊員たちは説明をはじめた。どうやら防衛隊の重要施設に侵入された形跡が見つかり、その侵入者としてノアンが疑われているようだ。施設周辺に女性ものの靴の跡が残されていたのもその疑いを強めている。事実、ノアンは警備対象の建物近くで暁と出会ったのだ。
防衛隊員と少女が睨み合っている状況に、会場にいる人たちも気づきはじめる。近くを通る人がさりげなく、あるいは興味津々にその様子をうかがっている。お祭りにはトラブルがつきものだ。いつの間にかそうした奇異の目が暁たちを取り囲んでいた。
「ノアンがスパイなんて、そんなことをするわけないでしょ」
「それを判断するのはお前ではない」
人ごみをかき分けて姿を現したのは霧羽だった。リコに対して厳しい目線を向けた後、いつもよりだいぶ柔和な態度と口調でノアンに話しかける。
「失礼。侵入にあった施設は防衛隊、ひいては横須賀コミューンにとって重要な情報を管理していたのでね。お時間をいただきたい」
「は、はい……」
「ちょっと……!」
「まあまあ」
ノアンが連れて行かれようとするのを阻むリコだったが、それを暁がたしなめる。
「ノアンちゃんが犯人だと決めてかかってるわけじゃない。証拠がなければすぐに解放されるさ。そうだろ?」
暁の問いかけに、霧羽は不機嫌そうな顔をしながらも頷いた。
「嫌疑が晴れたら家族水入らずの時間を過ごせばいいさ」
「……」
リコの表情は納得したようには見えなかったが、ひとまず防衛隊のやり方に口を挟むのは止めたようだった。
「ノアン、取り調べが終わったら私のところまで来て、入口あたりのバカみたいに行列作ってるところだからすぐわかると思うわ」
「わかった。後でね、お姉ちゃん」
ノアンは少し不安そうな顔だったが、素直に防衛隊の指示に従い移動をはじめる。後には、喧騒の中に佇む暁とリコだけが残された。
「まさかあんなにそっくりの妹がいるとは思わなかった。もしかして双子なのか?」
「そうよ。言っとくけどノアンに手を出したらタダじゃおかないから」
「そりゃ怖い。だが、俺もそれは保証できない。恋を止めることは誰にもできないんだからな」
「くたばれ」
リコは自分のブースへと戻っていき、暁も警備の仕事へと戻っていった。
だが、カレーフェスティバルが終了し、日が暮れても、ノアンがリコのもとを訪れることはなかった。
ノアンはスパイ容疑がかけられ、防衛隊に拘束されることになったのだ。




