表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変異世界の異邦人《インターステラー》  作者: IK_N
第七幕『きらきらひかる』編
50/74

050.アゲハ蝶

 意気揚々と原発デートを決め込んだ暁だったが、まずは事態の収拾が肝要だ。原発内の見取り図を確認し、一直線に制御室へと足を運んだ。


「……」


 制御室前の扉で暁は足を止めた。一見してなんの変哲も飾り気もない、発電所にふさわしい扉である。だが、暁はその扉を睨みつけて眉をひそめた。


「どうしたの?」

「制御室の中に誰かがいる……と思われる」

「さっき言ってたフリークスのこと? 想定内じゃない?」

「誰かがいるのは想定内だったが、これは何かおかしいな。妙な重力波だ」

「重力波……?」


 暁は重力波によって制御室の内部に何者かがいるのを感知した。だが、その重力波が普通の人間が出すものとは異なり、ひどく断続的なのが気になっていた。しかし、扉の前に立っているだけでは分からないままだ。暁は意を決して制御室に侵入した。


 人はいた。暁たちに背を向けて、モニターを見つめているようだった。後ろ姿でもわかる。明らかに女性だ。艶やかな長い黒髪が振り返る動きに合わせてきらめいた。


「やっと来たか。ずいぶん待た、せ……な、なんじゃそりゃ……」


 黒髪の少女は暁を指さして困惑した表情だった。おそらく2人が水のドームの中にいるからだろう。


「この水のドームのことかな? 中性子線を防ぐために必要だったんだ。放射能漏れが起きてるかも知れなかったからな」

「中性子線……?」


 この騒ぎを引き起こした張本人と思われるその少女は、どうやら中性子線のことを知らないようだった。


「とにかく! わしの言葉が通じるということは実験は成功したようじゃのう」

「実験? なんの実験だ?」

「ふふ、おぬしらには教えてやらん」


 少女は腕組みをして不敵な笑みを浮かべる。


「教えたくないならいいさ。逆に君から教えてもらえることは何かな?」

「そうじゃのー。名前くらいなら教えてやらんでもないが……そちらに先に名乗ってもらおうかの」

「俺は横須賀コミューンのフリークス、風早暁だ」

「私は無所属のフリークス、ベティ・プライヤー」


 2人が名乗り、次は少女の番だと目線を移したが当の少女は目をまんまるに見開いていた。


「……コミューン? フリークス? なんじゃそりゃ? おぬしら日本人じゃないんか?」


 少女から返ってきた言葉に、今度は2人のほうが目を見開くことになった。


「……悪い、ちょっとタイム。3分くらい」

「別に構わんが……」


 少女に許可を取った暁は、ベティと一緒に内緒話タイムに突入した。


「コミューンやフリークスを知らないなんて今の時代ありうるか?」

「いやー、あり得ないでしょ。でもこんな嘘をつく必要性も思い当たらないしなぁ」

「俺みたいにコールドスリープから目覚めましたって感じにも見えないしな。日本人ってのはベティちゃん知ってるか?」

「歴史で習ったよ。この日本列島の先住民族だって。君は日本人なんでしょ?」

「まあね。俺からするとベティちゃんも名前は外国人っぽいが日本人に見えるけどな」

「そうなんだ。私デザイナーベビーってやつだから卵子と精子の提供元が日本人だったのかもね」


 その後、2人の間で秘密の打ち合わせをして再度少女に向き合った。


「待たせて悪かった。そちらの名前を教えてもらえるかい?」

「わしは千里香(せんりこう)真夜(まよ)。帝国海軍 安全監督室 情報調査隊 二等監察官じゃ。おぬしら、ユーフォリアじゃろう? わしと戦え!」


 情報量が多い。素直に暁はそう思った。だがまあ、こういう時は女性の名前だけ覚えておけば8割大丈夫なのだ。


「真夜、いい名前だ。勝負だったかな? 俺でよければ受けて立とう」

「え、受けるの? 止めといたほうが……」


 ベティが慌てて暁を止めようとするが、それを暁は制した。


「女性の頼みはなるべく断りたくない。とくに彼女のような美人のはね。君に負けず劣らず美しい」

「……いやあ、向こうのほうがだいぶ美人に見えるけど」

「ベティ、君はもっと自分の魅力に自信を持つべきだ。君のすべてが俺の心をつかんで離さないよ」

「そこまで言わせるほど私たち親密になってたっけ?」


 2人の茶番劇にしびれを切らしたのか、少女――真夜――が声を上げる。


「何しちょる! はよせえ!」

「悪い。すぐ準備する。その前に1点確認させてくれ。俺たちは放射能汚染が起きていないかを調査しにここまで来たんだが、あんたが電子機器を狂わせていただけで、実際は放射能汚染なんて起こっていない、でよかったのかな?」

「そのとーり。わしの能力 《サウンド・オブ・サンダー》でな。この辺りの電子機器を狂わせてやったわ。今は止めたがの」


 真夜のカミングアウトを聞いて、暁は再びベティに向き合った。


「ベティ、水のドームはもう解除していい」

「信じるの? あいつの言葉」

「ああ、サーベイメーターも正常値を指しているしな」


 敵か味方か分からない少女の言葉を信じるなど本来愚か者のすることであるが、暁は美女の言うことなので無条件に信じた。こんなに可愛い子が俺に嘘を言うはずがない。暁のその考えにベティも気づいてあきれ顔をする。「自分の身は自分で守らせてもらうよ~」とベティは暁だけを水のドームの外に出した。慎重な君の姿も美しいと言おうとしたところで再び真夜から文句が飛んできたので、諦めてもう一人の意中の相手と向き合う。暁は精霊(エレメンタル)魔装(ヴァッフェ)《インターステラー》を発現させ、真夜と対峙した。


「提案だが、お互い死ぬまでってのは無しにしないか?」

「ええよ。わしも殺すのが目的じゃないけえ。それじゃあ、このコインが地面に落ちたときが開始の合図ということで」


 ピンッと一枚のコインが真夜の手元から放たれる。頂点で一瞬止まったあと、重力に従い落ちていく。


 制御室にその音が鳴り響くとき、2人の戦いははじまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ