表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変異世界の異邦人《インターステラー》  作者: IK_N
第五幕『タイムトラベル少女〜マリ・ワカと8人の科学者たち』編
41/74

041.ウキウキ実験開始

 暁は待っていた。ゴドーを? 違う、ロジェとエーコ、ついでに一緒についていった防衛隊の野郎どもを、である。会議室の中、たった1人抜き身の《インターステラー》を構えて目を閉じている。その暁の耳に、何者かの足音が聞こえてくる。


「暁~持ってきたよ」


 ドアを開けて入ってきたのはロジェたちだった。後ろからエーコと防衛隊員が手押し車に乗った巨大な物体とともに入ってくる。


「あったか……!」

「うん。エーコも間違いないって言ってたよ」

「はい! 暁さんのご指示通り元国土地理院から持ってきました! 量子型絶対重力計AQGです」


 量子型絶対重力計AQG、その地点での重力値を測るための装置である。地球に発生している重力は均一ではない。自転による遠心力の関係で赤道は北極や南極よりも重力が小さくなっているし、地下に何があるかによっても変わってくる。この装置はそれを測るためにあった。少なくとも100年前は。


「こいつがあれば大丈夫だ。エーコ、設置を頼めるか? 俺は2人を呼んでくる」

「わかりました!」

「ロジェちゃん。もう少し待ってくれたら世紀の大発見を君に見せてあげるよ」

「そこまで言うなら待っててあげようかな」

「野郎どもはもう帰っていいぞ」

「ちょっとそれはないですよ風早さん~」


 その場の全員に的確な指示を出した後、暁はセシルとリコを呼びに行った。ついに重力子発見のための実験がはじまるのである。

 会議室の中では4人の美少女と野次馬の防衛隊員たちが暁のほうを見つめていた。


「さて、それではこれから重力子の発見のための実験をはじめようと思う」


 暁の言葉にロジェと一部の防衛隊員が拍手をする。


「俺の後ろにあるのは2台の量子型絶対重力計AQG。こいつらはその地点の重力値を測るための装置だ。エーコ、今の数値は?」

「両方とも979762914μGalです!」

「何その単位?」

「加速度の単位さ。今は数値だけに注目していればOKだ」


 リコの質問に答えた暁は再び演説をはじめる。


「この装置は小さな重力の変化を見ることができる。ばねばかりなんて目じゃないくらいにな。今から俺の《インターステラー》でこの重力値を変化させてみよう」

「……? それは以前実施したばねばかりの実験と同じじゃないんですか?」

「その通り。違うのはここからだ。俺は《インターステラー》を使うが、それはセシルさんの《パニック・ルーム》の中で使用する」

「え?」

「セシルさんは片方の装置に隣接するように……ただし、中に取り込まないように《パニック・ルーム》を展開する。俺はその《パニック・ルーム》内で外にある装置に向けて《インターステラー》を利用する。さて、この時装置の数値はどうなるか? リコ、君はどう思う?」

「どう思うって、セシルの《パニック・ルーム》は重力を遮断するんだから数値は変化なしに決まってるじゃない」

「そう。これまでの実験結果から推測すればリコの言う通り変化は起きないはずだ」


 暁は最初こそいつもの軽薄な感じを残した声色だったが、説明が進むにつれて無機質な部分が増えていた。表情も次第に真剣になり、身振り手振りも加わってくる。そうした暁自身の変化に引きずられその場の空気も演説から学会発表に近づいていった。


「まず俺の想定、というよりも重力子があった場合の想定を言っておくと、隣接している装置の数値は変化する」

「え? なんで?」

「リコの疑問はごもっともだ。壁にボールを投げたら跳ね返るのが道理。重力を防ぐ壁があるなら《インターステラー》の影響はその裏側には伝わらないと考えるのが普通だ。実際、ばねばかりを使った実験ではそうなった」


 しかし、と暁は続ける。


「この常識はミクロの世界では通用しない。原子核や素粒子のレベルになるとその粒子自体の波としての性質が強くあらわれるようになってくる」

「波としての性質……ですか?」

「そう。説明は省くが波の性質を持った素粒子はその位置を厳密には決められなくなる。水面に起こる波の位置を厳密に定義できないように」

「それが今回の話とどう関係してくるのよ?」

「位置が厳密に定義できない、ということはその波の広がりが許すならどこにいてもいいってことだ」

「……もしかして、どこにいてもいいから《パニック・ルーム》の裏側にいても良いってこと?」

「その通りだ、ロジェちゃん」

「なにそれ? そんなことあり得ないでしょ」


 物理学の話をしているはずなのに、何か言葉遊びをしているかのようにリコは感じた。しかし、それも仕方ないことなのかもしれない。こと量子の世界については直感と異なる現象が多い。かのリチャード・ファインマンも言っている。「量子力学を理解している者などいない」と。


「そう思うのは自然なことだ。小さな世界の出来事は大きな世界の住人にとっては往々にして理解しがたいもの。だが、積み上げられた知見から分かっていることは確かにある」


 暁はリコに向かって微笑んだ。その時、少しだけ会議室の空気が和らぐ。


「実際にこの現象『トンネル効果』は起こっていて、半導体や顕微鏡にも応用されている。この実験の肝はここだ。もし重力を伝えるものが素粒子である重力子ならば、他の素粒子と同様にトンネル効果も現れるはず。トンネル効果が現れれば、わずかに漏れ出た重力子の影響を受けて……」

「装置の数値が変化する……」

「その通り」

「なんかいまいち釈然としないけど……装置の数値が変化すればそれが重力子が存在する証明になる、ってことでいいの?」

「ああ、それでいい。では実験開始だ」


 説明をし終えた暁は早速準備に取り掛かる。とはいえ、やることと言えばセシルと一緒に片方の装置の前に立つことだけだが。


「エーコ、現状の数値は?」

「変わらず979762914μGalです!」

「よし。セシルさん、《パニック・ルーム》を展開してくれ」

「分かりました」


 《パニック・ルーム》が発動し、リコたちと装置の姿が消える。その空間にいるのは2人だけだ。


「セシルさん、俺に抱きついてくれ」

「え」

「やましい気持ちも少しはあるが、俺の出す重力の影響を避けるために必要なんだ。俺の能力は俺に近いほど制御しやすくなる」

「……わかりました」


 少しためらいつつも、セシルは暁に抱きついた。


「何が起きても俺から離れないように。これから壁に向かって放つ重力は太陽の約1万倍相当。何も対処しなければ押しつぶされてしまうだろう。だが俺の周りは能力で影響を中和するから一安心だ。俺を信じて身をゆだねてくれるかな?」


 暁の言葉に、セシルは無言で頷いた。それを確認すると暁は《インターステラー》を発現させ、その鍔の部分を壁に押し当てる。向こう側には装置が置いてあるはずだ。


 そして暁は、自分の能力を最大まで解放させた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ