040.未来の記憶
暁の言葉を聞いた3人は、よくわからないといった表情をしていた。では、暁に説明してもらおう。
「この世界には4つの力がある、と言われている」
「4つの力?」
「電磁気力、強い力、弱い力、そして重力だ」
「何その強い力と弱い力って、子供が名前考えたの?」
「ははは。確かにあんまりなネーミングセンスだな。これは電磁気力と比べて強いか弱いかで名前を決めてしまったからこうなっている。ま、それは置いておくとして。とにかくこれらの力にはそれぞれその力を伝えるための粒子があると言われている。電磁気力は光子、強い力はグルーオン、弱い力はウィークボソン。この3つはすべて発見済みだ」
「もしかして、風早さんが言っている重力子というのは……」
「セシルさんが考えている通りだよ。唯一見つかっていない重力を伝えるための粒子、重力子を発見しようと思う。これ以上ない成果だと思わないか?」
「それは確かにそうですが、これまで発見されてないんですよね? そんなの見つけられるんですか?」
セシルの疑問と不安はもっともであった。これまで幾多の物理学者がそれに挑戦して結局見つけられなかったものを、いきなり見つけるなど無謀だろう。だが、暁は他の物理学者が手に入れられなかったものを持っている。重力を操る《インターステラー》と、そして……
「実際に発見できるかは正直分からない。だがそのためには……セシルさん、あなたの協力が絶対に不可欠なんだ」
「私が……?」
「そう、重力子を発見するための鍵は……おそらくセシルさんの《パニック・ルーム》が握っている」
暁は早速準備にとりかかる。と言ってもいきなり重力子を発見しようというわけではない。重力子を発見するために必要な前提条件が揃っているか、確かめようというのである。
準備は実に簡単なものだった。ばねばかりを2つ用意する。それらを部屋の中に設置し、両方に同じ重さの重りを付けておく。さらにセシル、リコ、ロジェ、エーコをその部屋に招待する。セシルはともかく他の3人は一体なぜ? と思っただろうか? 暁がぜひ3人にも見てもらいたいと思ったからである。つまり実験とは無関係だ。
「さて、2つのばねばかりにぶら下がっている重りの重量は両方500g。今から俺の《インターステラー》で重力を増やし、この値を変化させてみよう」
4人に向かってそう宣言すると、暁は《インターステラー》を発現させて、設置された2つのばねばかりに向かってその切っ先を向けた。
「さあ、2つのばねばかりの目盛りはどうなっているかな? ロジェちゃん、見てくれるかい?」
「えーと。両方550g」
「ありがとう。それじゃあ、重力を解除する」
「500gに戻ったよ」
暁はその結果を確認して得意げな表情をした。
「と、このように俺の能力で重力を増やすと物体の重量は増えるわけだ」
「あれでしょ。同じ質量であっても地球と月だと重力が違うから重さが違うってやつ。前に習ったわ」
暁が笑顔でうなずく。質量が変化していなくても重力が変化すれば重さ、この場合はばねばかりの目盛りで測れる値は変化する。通常地球上でこんな実験は不可能であるが、暁の《インターステラー》はそれを簡単に実現できるのだ。ただ、大切なのはここからだ。
「じゃあ次だ。セシルさん、左側のばねばかりの横に移動してもらえるかな」
「わかりました」
セシルは歩いてばねばかりの横に移動する。いったいこれから何がはじまるのか分かっていないので表情は若干不安げだった。
「それじゃあ、俺はもう一度ばねばかりに重力をかける」
重力が増したばねばかりは再び550gを指し示す。
「ここからだ。俺はこの状態を維持する。セシルさんは《パニック・ルーム》を発現させて左側のばねばかりだけ《パニック・ルーム》の中に取り込んでほしい。そして、取り込んだ後のばねばかりの目盛りがどうなったかを教えて欲しい」
「……わかりました」
セシルの返事と同時に《パニック・ルーム》は発現した。電話ボックスより少し広い程度の黒い直方体の中にセシルと左側のばねばかりの姿は取り込まれた。だが、ほんの10秒ほどで《パニック・ルーム》は解除される。
出てきたセシルは、じっとばねばかりの目盛りを見ていた。
「どうだったかな? セシルさん」
「……私が《パニック・ルーム》を発現させた後の目盛りは500gに戻っていました。そして今解除したら、また550gに」
「よしっ!」
突然ガッツポーズをした暁に4人の目線が集まった。
「なに? 一体どういうこと?」
「セシルさんの《パニック・ルーム》は重力を遮断できるんだ。今まで重力はどんな物質でも遮ることはできないと思われていたが、セシルさんにはそれができるんだよ!」
「なんか分かんないけど……それがあんたのやりたかった重力子の発見ってやつなの?」
「いや、まだだ。これは単なる事前確認。重力子の発見にはもう少し準備がいる」
真の重力子発見のための準備は、少々手間がかかる。おそらく霧羽や四十六室とも調整が必要になってくるだろう。だが、現時点ですでに暁は喜びの絶頂だった。自身の想定していた通りに《パニック・ルーム》は振る舞ったのだから、もう半分以上重力子を発見したつもりになっていた。
暁は喜びのままにセシルの方へ歩いていき、その手を握った。
「セシルさん。以前言った通り、あなたもあなたの能力も役立たずなんかじゃない。あなたは世紀の大発見に絶対に欠かせない人だったんだ。きっとあなたの凄さは後世に語り継がれることになる。俺がそうしてみせる」
「あ、ありがとうございます」
手を握られたからか、暁の熱気に当てられたからか、セシルの顔は少し赤くなっていた。




