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変異世界の異邦人《インターステラー》  作者: IK_N
第五幕『タイムトラベル少女〜マリ・ワカと8人の科学者たち』編
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037.天使のゆびきり

 なんやかんやで夢香とレヴィンの結婚は正式に決まった。挙式と披露宴は改めて行うようだ。ヴィクス家の開かずの部屋はその後調査され、誘拐実行班との専用連絡網も見つかることになった。


 会場の片付けが進む中、その隅で2人の少女は会話していた。


「ありがとうセシルさん。まさか本当に動いてくれているなんて……」

「困ったときはお互い様です。同じフリークスなんですから」

「あなたのその少しだけ腹黒いところ、嫌いじゃなくてよ。おほほ」

「お褒めいただきありがとうございます。それと、昨日のパーティーで言い忘れていたことが」

「あら、何かしら」

「ご結婚、おめでとうございます」

「……ええ! ありがとう」


 2人の少女の姿を遠目に見ながら暁とレヴィンも言葉を交わす。


「あさましいものです。あんなことを言っていたのに、ヴィクスがいなくなったと分かったら、体が動いていた」

「いいことです。私の母も言っていました。『好きな人ができたら一にも二にもアプローチだ』と」

「おかげで夢が叶った……いえ、これからですね。私は私の力でラクロワ家を夢香さんにふさわしい家にしなくては」

「お互い頑張りましょう」

「ええ。セシルさんとの式が決まったら私もぜひ招待していただきたいです」

「もちろんですよ」


 暁はレヴィンの間違いを修正しなかった。というよりも暁自身それを間違いだと認識しなかった。いずれ必ず自分とセシルは結婚するだろうと確信していたのだ。暁は少し頭がおかしい。


 話が終わった後、夢香とレヴィンは腕を組んで式場の外に出ていった。暁は自分もそうしようと腕組みの準備をしたが、セシルはこれを完全に無視して歩き出す。暁は困ったように笑って肩をすくめ、セシルに追いつくため駆けだした。


「ところで、結局どうやってあの部屋の中の会話を盗聴したんですか?」

「ああ、重力波を使った」

「重力波……ですか?」


 聞きなれない言葉にセシルは首をかしげる。


「質量を持った物体があると、それだけで時空が歪む……つまり重力ができる。そしてその物体が加速度運動を行うとその歪みが波動になって空間を伝わっていく」

「はあ……?」

「簡単に言うと重力の作り出す音みたいなものかな。音波は空気を振動させるが、重力波は空間を振動させてるんだ。人が口を動かしたとき、音波と一緒に重力波も出ているってわけさ」

「何となくわかりました」

「そしてこの重力波は当然重力の特徴を引き継いでいる。普通の音は防音材で遮ることができる。でも重力波は……セシルさん、何かを下に敷いただけで無重力になる状況を想像できますか?」

「……! そういうことですね。重力はどんな物体でも遮ることができない。だから重力波もあらゆる物体を突き抜けて進んでいく」

「その通り。あの部屋がどれだけ防音に気を使っても重力波までは防げない。重力波が来る方向と質量さえ分かっていれば俺の《インターステラー》で波を読み取り、エーコがそれを元に音声に変換できる」

「原理的にどうしても防げないもの、というのはこのことだったんですね」

「惚れなおしたかな?」

「まず惚れていたことがないです」


 暁を適当にあしらうセシル。そんなセシルの姿も美しいと思った暁だったが、ふとその時ある疑問が浮かんだ。この疑問についてはまた後日話すことになるだろう。とにかく、予定していた結婚式は終わってしまった。暁にとってのはじめての他コミューンはここで見納めになる。


 その日のうちに暁とセシルはフェリーで横須賀に帰り、いつもと変わらぬ横須賀コミューンと自分の部屋に安堵した。


「おかえりなさいませ!」


 部屋に入ると同時に声をかけてきたエーコは、コンセントに自分をつないでいた。暁の許可が出た通り、充電しているのだろう。


「部屋に帰ると女の子がいる。しかもエーコ、君みたいな美人が迎えてくれるなんてね。俺はこの世のどの男よりも幸福だ。お帰りのハグをしてもいいかな?」

「それ、命令ですか?」

「命令じゃないさ」


 エーコは返事せずにそっぽを向いた。拒否ということだろう。


「AIにも恥じらいはある。その感覚は大切にした方がいい」


 暁はエーコの沈黙を勝手に解釈して勝手に納得していた。


「今日は寝不足だから、少し寝る。気にせず充電していってくれ」

「かしこまりました!」


 暁はベッドに沈むと同時にまどろみの中にも沈んでいく。そこで暁は、支離滅裂な夢を見た。


 全裸で防衛隊本部を徘徊していた暁はセシルと出会う。セシルに服がないことを話すと、なぜか彼女は《パニック・ルーム》を展開した。《パニック・ルーム》の中でお茶を飲むセシルと暁。セシルが突然 《パニック・ルーム》を解除すると、暁は宇宙の中を漂っていた。宇宙で飲むコーラは美味い。


 暁は目を覚ました。部屋が暗くなっているのでもう夜なのだろう。エーコはもういない。だが、予想外の人間がそこにはいた。


「やっと目覚めましたか、お兄さん」

「やあロココちゃん。天使のお迎えが来たのかと一瞬焦ったよ」

「それ、褒めてるんですか?」

「もちろん! 天使のように可愛いってことさ」

「はあ……」


 呆れたような顔で暁を見つめるロココだったが、気を取り直して本題に入っていく。


「お兄さんからの依頼はすべて、完璧にこなしたつもりです」

「ああ、想定される完璧な結果を出せたのは、ロココちゃんたちのおかげだ」

「そうでしょうそうでしょう!」


 ロココはふんぞり返った。ヴィクス家についての調査だけではなくエーコの移動なども手伝い、今回の件で重要な役割を果たしたと彼女自身確信していたのだ。


「なるほど、約束を果たせってことだな」


 今回の一件でベティと会話した際に暁はある条件を飲んでいた。すなわち、館山での一件が片付けば彼女たちのボスに会うという約束だ。もちろんこの条件を暁はセシルたちに話していない。話せば断られることは明白だったからだ。


「その通りです。まあお兄さんも疲れているでしょうし、こちらの都合もあるので今日は日程だけお伝えしにきました」

「俺に気を使ってくれるなんて、心まで天使だねロココちゃん」

「そういうのいいですから!」


 ロココは暁に日付と時間を伝え、すぐに帰ってしまった。暁はロココともう少しお話をしたかったので少し残念がったが、次に会える機会はもう決まっているのだから焦る必要もないと考え直す。


 さあ、鬼が出るか蛇が出るか。ついでに美女もあと2、3人出てきてくれると嬉しいな、と暁は皮算用をするのであった。


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