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変異世界の異邦人《インターステラー》  作者: IK_N
第四幕『ぷちぷり*ユーシィ』編
35/76

035.結婚行進曲

「ついに動いたか」

「はい。2人とも会場を出ました。ラクロワさんと一体何の話を?」

「愛の話さ」


 暁とセシルは足早に会場を出る。扉を開けると目の前に見知った顔があった。


「流石ロココちゃんだ」


 そこにいたのはメイドロボ、エーコだった。


「ロココさんからお願いされてここで待機しておりました!」

「ありがとうエーコ。俺の部屋のコンセントからたらふく電気を食らっていいぞ」

「その電気代、防衛隊持ちですけどね」


 雑談もそこそこに3人はバルテリクとアルトゥールが入った開かずの部屋へと移動する。


「しかし、どうやって気づかれないように部屋の中の会話を聞くんですか?」

「普通はムリさ。ベティちゃんとマーシャルちゃんでも無理だった。盗聴対策なんてしっかりやっているだろう。だが、世の中には原理的にどうしても防げないものもある」

「防げないもの?」

「この曲がり角を右に行ってすぐにあります!」


 エーコの言葉通り、曲がり角の右側に部屋がある。ご丁寧に扉の前には武装した兵隊までいる。


「よし、それじゃあはじめるか、エーコ」

「はい!」

「はじめる? ここからですか?」

「ああ、ここからで十分だ」


 さて、暁は一体どうやって完璧に盗聴対策された部屋から数メートル離れた曲がり角で中の話を聞こうというのだろうか? その答え合わせは後のために取っておこう。時間は進み、翌日。挙式に暁とセシルも参加していた。花嫁と花婿の入場を待っている間に、2人は小声で会話を交わす。


「昨日はあの後……?」

「ああ、予想外の出勤で寝不足だが、これでもう大丈夫だろう」


 ふと、暁の視界が陰る。振り向くとそこにはレヴィンがいた。


「失礼、隣に座っても?」

「もちろんです。レヴィンさん」


 暁の隣に座ったレヴィンはしばらく黙っていたが、意を決したように話をはじめた。


「あなたの言葉を心の中で反芻していましたが、たとえチャンスが訪れても私は動かないでしょう。人にはそれぞれ『ふさわしい位置』というものがあると思っているんです。彼女の家もそれを手放さないために動いている。私のようなぽっと出の人間がそれを妨げることはできない」

「そうですか……あなたがそう決めたなら仕方ありませんね」


 その時、後方の扉が開き花婿と花嫁が腕を組んで登場した。式場は拍手に包まれる。その中で暁とセシル、そしてレヴィンだけが手をピクリとも動かさなかった。


「アルベルト・アインシュタインを知っていますか?」


 盛大な拍手の中で突然暁から質問されたレヴィンは困惑しながらもそれに答えた。


「もちろん。特殊相対性理論と一般相対性理論を確立させた偉大な物理学者だ」


 拍手がおさまり、メンデルスゾーンの結婚行進曲とともに新郎新婦が壇上への道を歩いていく。ベールに包まれた花嫁の表情は窺うことができない。


「ええ、彼は本当に素晴らしい。それまでの空間と時間の認識を根本から変えてしまった。それまでは絶対的なものだと思われていた空間も時間も歪んだり、遅れたりする。強い重力によってね。レヴィンさん、私は人の心も同じだと思っています」

「人の心も?」


 壇上にあがった新郎、アルトゥール・ヴィクスは参加者に挨拶をはじめた。牧師はいない。人前式なのだろう。


「最初は絶対に変わらないと思っていた決意も、変わっていくことがある」

「……」


 暁にはアルトゥール・ヴィクスの挨拶は聞こえていなかった。その代わり、後ろから少しずつ大きくなってくる、複数人の足音に耳を澄ましていた。


「強い愛によってね」


 バンッ! と後ろの扉が勢いよく開かれた。式場が騒然とする中、乱入した者たち……警察は先ほどまで新郎新婦が歩いていた道をずかずかと進んでいく。


「アルトゥール・ヴィクス、そしてバルテリク・ヴィクス。人身売買の容疑で両名に逮捕状が出ております」


 花婿のアルトゥール・ヴィクスの表情が驚愕から焦り、そして怒りへと次々に切り替わっていく。式場がざわつく中、暁とセシルだけがその成り行きを黙って見届けようとしていた。


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