032.ふざけてないぜ
「ちょ、ちょっと待ってください! ロココってあの風早さんを襲ってきたフリークスですよね?」
「その通り」
「信用できません! それに、なぜ連絡先を!?」
「正確にはロココちゃんの連絡先じゃない。この前勾留されてたベティちゃんのさ。逃げるまでの間にちょくちょく会いに行っててね。連絡先は頼み込んで教えてもらったんだ」
「お、教える方もどうかと思いますが……きっと嘘の番号ですよ」
「そうかな? 俺は信じるよ。こうしようセシルさん。俺が電話をかけて繋がらなかったら、俺が嘘の番号を教えられていたら、その時は彼女たちは信用できない。他の方法を使ってヴィクス家を調べよう」
「……」
「だが繋がったら……わざわざ敵の俺に連絡先を教えてくれているんだ。信用してもいいんじゃないか?」
セシルは少しの間悩んでから、《パニック・ルーム》を解除した。
「分かりました。でもどうせ繋がりませんよ」
「ありがとう。セシルさん」
暁は早速電話をかける。3コール鳴ったところで、誰かが出た。
「もしもしベティちゃん? 久しぶりだね。今どこにいるの? へぇ、幕張コミューン?」
暁の会話を聞いていたセシルは、開いた口が塞がらなかった。いろいろな意味で。
「いや、ちょっと頼みたいことがあって……報酬は俺と一日一緒に居られる権利とかどうかな。……いらない? まあ、なんでも好きなものでいいさ。ロココちゃんと連絡取れるかな。あとあの変身能力使う……あ、そうそうマーシャルちゃん? 3人一緒に横須賀コミューンで話をしたいんだ。……待って待って、マジマジ大丈夫だって、罠とかじゃないから。え、条件? ……あーなるほど、OKOK。大丈夫だよ。じゃあ今日の14:00、塚山公園で」
そして暁は電話を切り、セシルに振り向いて自信たっぷりにこう言った。
「ほらね。これで俺のことも彼女たちのことも信用してもらえたかな?」
「ほ、本来は防衛隊に連絡したほうがいいんでしょうけれど……」
「彼女たちが会いに来てくれるってのにそれは無しだ。セシルさんもさっき言ってただろう? 『貴重なフリークス同士の横のつながりをないがしろにはできない』って」
「……わかりました。ですが条件があります」
「条件?」
暁はセシルの言った条件を受け入れた。時間は14:00、塚山公園。謎の石碑がある広場で6人は顔を突き合わせていた。
「どうも~ベティです。知ってると思うけど」
マイペースに《アビス》ベティ・プライヤーが挨拶する。
「ええ、もちろん。まさか本当に来るとは思いませんでした」
強張った顔つきで目の前の3人と相対している《パニック・ルーム》セシル・ブリュネ。
「私はイヤでしたけどベティお姉さんが……ていうか何でこの人までいるんですか!」
《ジェイコブス・ラダー》ロココが目の前の人間を指さす。
「なんかセシルと暁に来いって言われたから。でも楽しいことになりそうだから来て良かったかも」
指を差された《ダンテズ・ピーク》アプリコット・キャンディがロココを見てニヤニヤと笑う。
「さっさと本題に入れよ。私たちも暇じゃねーし」
スカジャンを着たピッグテールの可愛い女の子が急かす。彼女が《ミミック》マーシャル・ニール。
「そうだな。もう少しアイスブレイクをしたいところだが、さっさと本題に入ってしまおう」
《インターステラー》風早暁がこの場を取り仕切るように話しはじめる。話す内容は先ほどの『結婚式ぶち壊し計画』についてである。ただ、その前にやらなければならないことがある。
「この話は誰にも聞かれたくない。セシルさん」
「はい」
セシルが《パニック・ルーム》を発現させた。これで何者もこの中の会話を盗み聞きすることはできない。
「う~ん。この中に入ってるとなんか落ち着かないなぁ」
「ベティちゃんは一度ひどい目にあってるからな。怖いなら俺がそばにいようか?」
「そっちの方が怖いな~。君、横須賀コミューンのフリークスを全員毒牙にかけてる噂もあるし」
「そうなるように心がけてはいる」
「いや、さっさと本題に入れよ!」
しびれを切らしたマーシャルが叫ぶ。暁は大げさに咳ばらいをした後、3人に集まってもらった理由を説明した。ヴィクス家の結婚式とその花嫁の夢香からの依頼、そしてその依頼を達成するための条件について。
「それで私たちにヴィクス家の周りを探れってことか?」
「その通り」
「私らは鉄砲玉じゃねーぞ。もしバレたらお前らから依頼受けたって話すからな!」
「それはない。ロココちゃんがいる限り、何者も君たちの侵入を防ぐことはできないし、逃走を阻止することもできない」
「まあ、私の能力にかかればそのくらい朝飯前ですよ」
ふふん! と得意げにロココは胸を張る。その胸は平坦であった。
「ロココちゃんの能力で侵入、マーシャルちゃんとベティちゃんの能力で諜報って感じだな。前戦った時ベティちゃんは水でこちらの様子を窺っていたみたいだが、あれはかなり使えそうだ」
「あれで感じ取れるのは音だけだけどね~」
「水は光を吸収するからな。だがそれで十分だ。人が住んでいる以上、水からは離れられない」
「まあね。結婚がご破算になるようなスキャンダルを見つければいいってことだよね。大体やることも分かったし、早速館山コミューンに」
「ちょっと待て」
暁とベティの会話を遮ったのはまたもやマーシャルだった。
「金の話をさせろ。そっちの2人と違って私は慈善事業でやってるわけじゃねえ」
「いやー、私たちも慈善事業ってわけじゃないけどね」
「そういえば、マーシャルちゃんは他の2人と同じ組織というわけではないのか」
「ちげーよ。前回も前々回も金で雇われたから仕事してただけだ」
マーシャル・ニールは特定のコミューンに所属せず、自らの能力でなんでも屋をやっている特異なフリークスだ。魔甲虫を倒せないという意味ではセシルと同じであるが、彼女の場合は能力が一般社会においても有用であり、それを活用して生きている。だからこそ、金銭回りには非常にシビアであった。
「俺と同じでストイックなんだなマーシャルちゃん。そこに書かれた値段でどうかな?」
暁はマーシャルに小切手を渡した。そこに書かれた金額を見たマーシャルが一瞬だけ目を見開く。法外、というわけではないが個人が容易に支払える金額ではない。
「……嘘じゃねーだろうな」
「俺は可愛い女の子に嘘はつかない。ちなみに何分割まで対応してるのかな」
「分割払いかよっ!」
「分割は素晴らしい。引き落とされるたびに君を感じていられるから」
謎に決めポーズでカッコつけはじめた暁を見てマーシャルは震えあがった。
「お、おい。ロココ、ベティ、こいつヤベーぞ」
「まあお兄さんはヤバいですよ。マーシャルお姉さんもあんまり深くかかわらない方がいいですよ」
「まあ、私たちは仕事の関係上これからも関わり合いにならなきゃだけどねぇ~」
マーシャルには引かれたものの、金額と分割払いの許可は得たためその場は収まった。そして、この結婚破談作戦にロココ、ベティ、マーシャルの3人が加わることが正式に決定したのであった。




