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変異世界の異邦人《インターステラー》  作者: IK_N
第四幕『ぷちぷり*ユーシィ』編
31/76

031.日本ブレイク工業社歌

 いろいろと調べてみた結果、暁の疑問にすべて答えるほどではなかったが、多くの収穫があった。まずフリークスがX線以下の波長の電磁波を通さないことに着目し、光子の持つエネルギーを能力使用に充てているという仮説があった。とはいえ、その程度のエネルギーで物質が作れるはずもなく、他にもエネルギー源があることを示唆して終わっている。


 暁はそれからしばらく、防衛隊待機ではない日には図書館に通い詰めてフリークスについて調べる日々を送った。そんなある日、少しの揺らぎがその日課に割り込んできた。霧羽から呼び出しを食らったのだ。何か小言でも言われるのかと思ったが、会議室に入るとセシルもいる。霧羽も叱りに来たという雰囲気ではない。


「今度の金曜と土曜、館山コミューンに行ってもらう」

「館山……ってどこだ」

「横須賀から浦賀水道を挟んで反対側にあるコミューンです。船でだいたい2時間くらいで着きますよ」


 セシルのフォローのおかげで、暁も大体の位置を把握することができた。つまりかつての千葉県、チーバくんの足元あたりのコミューンというわけだ。


「それで、館山コミューンに行って何をするんだ?」

「パーティーに参加してもらう」

「……パーティー? 俺が?」

「ああ、そうだ」


 暁は霧羽の言葉に呆気にとられる。わざわざ館山に行ってパーティーに参加? いったい何のために?


「その日、館山の有力貴族の結婚式がある。そのパーティーだ」

「貴族なんているのか。時代遅れ……いや、遅れてるのは俺か」

「先方からの依頼でな。お前をパーティーに招待したいらしい」

「招待? 知り合いなんていないのに?」

「館山コミューンの上流階級は見栄の世界ですから、『世界で唯一の男のフリークス』を結婚式に呼べることを他の貴族に見せたいんだと思います」


 セシルのフォローで大体理解したが、暁は少し呆れてしまった。どうやらこの結婚式での自分の役割は装飾品と同レベルのようだ。


「なるほど。俺は豪華な置物として参加を依頼されてるわけだ」

「そんなところだ。だが問題はお前が実際には置物ではないという点だ。絶対に変な真似はするな」

「今まで俺が変な真似をしたことがあったか?」

「突然コミューンから抜け出したり、宇宙に飛んでいくのが変な真似ではなかったと?」

「知らないのか? 女性と一緒の旅は『デート』と言うんだ。国語は苦手かな?」

「少し黙れ」


 ふぅーっと霧羽はため息をつき、椅子に座りなおした。


「とにかく風早暁、セシル・ブリュネ。お前たち2人は館山コミューンに行き、ヴィクス家の結婚式に参加しろ。以上だ」


 そういうと、霧羽はすぐに会議室から立ち去った。まさかの他コミューンへの遠出に暁は少しわくわくしていた。横須賀以外のコミューンは話で聞いた程度だったが、まさか行く機会に恵まれようとは。しかも、セシルと一緒にである。


「セシルさんは横須賀以外のコミューンに行ったことは?」

「館山と江ノ島、あと鴨川、幕張、三宅辺りには行ったことがあります」

「へえ、俺は他のコミューンははじめてだから、色々と教えて欲しいな」

「……そうですね。私も風早さんに話したいことがあります。私の部屋に来ていただけますか?」

「……よろこんで」


 願ってもないお誘いがセシルから出てきたが、何か不穏な空気を感じる。どうやら部屋に行っても2人の仲が一気に進展する類のイベントは起きなさそうだと暁は思った。


 セシルの部屋に行き、勧められるままに椅子に座った瞬間 《パニック・ルーム》が発現したことでそれは確信に変わった。


「……なるほど、誰にも聞かれたくない話ってことか」

「はい。先ほどの結婚式についてお願いしたいことがあります。今回の結婚式の、花嫁についてです」

「花嫁……そういえば花婿も花嫁も名前を聞いてなかったな」

「花婿の名前はアルトゥール・ヴィクス。館山コミューンの中でも有数の貴族です。そして花嫁の名前は万灯火(まとび)夢香(ゆめか)。館山コミューンのフリークスです」

「……」

「先日、夢香さんから電話が来ました。内容をシンプルに伝えるとこうです」


 続くセシルの言葉は宣言通りに簡潔だった。


「『この結婚式をぶち壊してほしい』」


 暁は何やらとんでもないことに巻き込まれようとしていることに気づいたが、ひとまずセシルの話を黙って聴くことにした。


「私と彼女はそれほど親しいわけではありませんが、貴重なフリークス同士の横のつながりをないがしろにはできません。彼女が困っているというのなら、助けてあげたいと思います」

「その夢香という人が結婚を嫌がっている理由は? 家が決めた結婚だから、とか?」

「それが、正直電話では要領を得ず……とにかく『私にふさわしくない』『相手の家は犯罪に手を染めている』『とにかくイヤ』といったことしか」

「話だけ聞くとその夢香さんに難があるように聞こえるな」

「確かに少し自信家で高飛車で人を見下す傾向がありますが、悪い人ではないんです」

「……まあ、他でもないセシルさんからのお願いだ。結婚を止めたいというのなら協力しよう」

「ありがとうございます。といっても、具体的な方法はまだ決めてません。夢香さんの名誉に傷がつかず、かつ私たちが計画したということがバレないように結婚を破談にする必要があります」


 セシルの言った条件を満たすとすれば、ヴィクス家が何らかの犯罪に手を染めていて、それを暴くことで結婚を破談にする、というくらいだろう。


「夢香さんが言っている『犯罪に手を染めている』というのは何かそういう噂でも?」

「いえ、聞いたことがありません」

「ヴィクス家というのが何かあくどいことをやっててくれれば話は早いんだが……」

「それを二日間のパーティー中に調べるのは困難でしょうね」

「事前に調べるにしても、俺たちが嗅ぎまわってると知れたらまずいな」

「ベタですが、探偵を雇って調べてもらうという方法もあります」

「……いや、適任者がいる」


 暁はにやりと笑った。


「どんな場所にでも簡単に侵入できて、相手の懐に潜り込める技量もあり、横須賀コミューンの人間でもない。おまけに実績もある」

「そんな人……え、まさか!」


 意図に気づいたセシルは驚愕の表情で暁を見つめる。その暁は自分のポケットから携帯を取り出した。


「セシルさん。悪いが《パニック・ルーム》を解除してくれ。早速連絡を取りたい。ロココちゃんたちにね」


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