003.バリバリ最強No.1
母さん、事件です。
「ど~~~して私の部屋に入れることになるのよ!」
「四十六室の決定ですよ。あなたと同室にしろと。この意味、分かりますよね?」
「分かんないわよ!」
「わかるはずです」
2人の美少女、リコとセシルが暁の目の前で言い争っていた。とりあえず2人は変なことを言い出した暁を無視することに決めたようだ。暁は黙って2人のやり取りを聞いている。
「もしどうしてもあなたがイヤだと言うなら、風早さんには私と同室になってもらうことになります」
セシルのその申し出に暁は目を見開いた。セシルのように美しい女性との同棲。やぶさかではない。だがやはり暁はもっと人となりを知ってから同棲をしたいと強く思っていた。
「……セシルじゃ無理でしょ」
「それが分かっているなら受け入れてください。あなた以上の適任者はこの防衛隊にはいないんですから」
「………………………………あ~~~~もう! 分かったわよ!」
どうやら妄想に浸っている間に2人の間で話は決着してしまったようだった。あわてて暁も会話に割り込んだ。
「待ってくれ。女子と同室は倫理的にまずくないか? 100年前は『男女七歳にして席を同じうせず』って言葉があったんだが」
「その言葉は今でもありますが……とにかく風早さんにはリコさんと一緒に過ごしてもらいます」
「拒否権は?」
「ありません」
取り付く島もないセシルの言い方に、暁は肩をすくめた。しかし、考え方によっては実に都合がいいともいえる。暁は一目リコを見たときからすでに彼女に惹かれていた。少々一足飛びが過ぎるところはあるが、普通に過ごしても2週間で同棲までこぎつけていただろうから誤差の範囲だろう。少なくとも暁はそう考えていた。
「強引ですみません。こちらにも事情があるので……」
「ああ、こちらも絶対に嫌だなんて言うつもりはない。ただ、その事情を話してもらいたいな」
「それはリコさんに聞いてください。私はそろそろ自分の仕事に戻らないと」
「それは残念。あなたとはまたゆっくりと会話したいな。セシルさん」
「え、ええ。またの機会に」
セシルは部屋を出ていき、暁とリコだけが残される。
「イヤだけどしょうがなくあんたの同居人になってあげるわ。アプリコット・キャンディよ。リコでいいわ」
「ああ、風早暁だ。よろしくリコちゃん」
「ちゃん付けやめて」
「ごめんよ。リコ。俺と君が同居しなきゃいけない理由って一体何だ? ああ、別に一緒にいるのがイヤってわけじゃないんだ。君みたいな美少女とひとつ屋根の下なんて心躍るシチュエーションだと俺も思ってるよ」
「……あんたなんか気持ち悪いわね。ま、ここの案内がてら説明してあげるわ」
最初は今いる建物の屋上に通される。そこで今いる場所――防衛隊本部――の全景が確認できた。かなり海に近い場所のようで、濃い海の青と薄い空の青が水平線で交わっているのが見える。その景色と空気の匂いは暁の知っている世界のままだった。
「フリークスがいないと人類は生存圏を確保できないってことは理解したわよね」
「ああ、一応」
「ところが、フリークスがなぜ生まれるか、どうやったらなれるのか、今のところわかってないのよ」
「そうなのか」
次は病院棟。怪我や病気の治療だけでなく、フリークスは特別な定期検診があるため逐一通うことになる。
「だから人類は常に背水の陣ってわけ。フリークスを何とか確保して、情報を集めてフリークスを産む、あるいはフリークスになる方法を探す。それが一番の関心事なの」
「かなりやばい状況だな」
「その通り。セシルたちがあんたに戦わせたいと言ってたのも、まあ分からないでもないわね」
「その戦うための力ってのはどうやったら出せるんだ?」
「普通に過ごしてればそのうち出せるようになるわよ。私もそうだったし、他の子たちもそうだと思う」
「そんなものか」
次が食堂。食事は毎日3回の配給制になっている。決まった時間に予約した場所で受け取らないと食えないどころかペナルティの労働が課せられることになる。生存圏を大きく広げられないので、作れる食料にも限りがあるのだ。
「一番の問題はあんたが男ってことね」
「男のフリークスは珍しいってやつか」
「珍しい、じゃなくていないのよ。あんた以外はね」
「なるほどね……」
暁は大体の事情を察した。つまり、フリークスがいないと生きていけない世界に、唯一の男のフリークスである自分が誕生してしまったのだ。今まで女性からしか情報が得られなかった所に、男性の情報も得られるようになった。その差異からフリークスの存在の秘密に迫ることができるかもしれない。そして、それが分かれば……。
「フリークスを自在に生み出して、一気に生存圏を拡大できるかもしれない」
「その通り。だから当然、他のコミューンだって喉から手が出るほどあんたが欲しいわけ」
最後は寮だった。中庭を囲うように建てられた4棟の5階建てマンション。その一室がリコの部屋だった。
「だから、私とあんたは一緒にここで住むことになるってわけ」
「さっきの話からどうやったらその結論が?」
「誰があんたを狙ってくるか分かんないからよ。私といれば一応安心だって考えてんのよ、他の奴らはね」
部屋の鍵を回しながら、リコは少し不貞腐れて言った。
「私がここで一番強いから」
「……」
リコの部屋は一般的な1Kのそれだった。部屋には備え付けの二段ベッド。下の方は敷布団など見当たらないので、リコは上で寝ているのだろう。それ以外は質素な………というよりも生活感がない部屋だった。そもそも私物に該当するものがあまりない。
「ベッドは下を使って。洗濯物は私のと混ぜないで。タオルなんかの生活用品も別で揃えてよね」
「それはいいんだが、俺は金を持ってない」
「何で持ってないのよ!」
「これは言い訳だが、俺にヒモの才能があると神が言っているのかも」
本来はコールドスリープから目覚めた後に、預けていた私物を受け取るはずだった。彼の私物は今でもあの場所で眠りについているのかもしれない。もっとも受け取ったところで当時の貨幣は価値をなくしているのだが。
「まったくセシルもちゃんと金くらい持たせ……」
リコが空に向かって文句を言おうとしたとき、それを遮るようにけたたましいアラームが聞こえてきた。
「なんだ……?」
「魔甲虫よ」
アラームが鳴り終わったあと、今度は音声放送が聞こえてくる。
『ロジェ・ランブラン。〇三番にて出動してください』
知らない名前が聞こえてきたが、おそらくここにいる他のフリークスなのだろう。だが、お呼びのかからなかったはずのリコは、ちらっと暁の方を見て、にやりと笑った。
「ちょうどいいわ。あんた来なさい。フリークスの仕事見せてあげる」
「wow。熱烈だね」
リコに手首を掴まれ、暁は無理やり引っ張られていく。女の子とは思えない力に驚いたが、女性にリードされるのもたまにはいいなと考え、暁は流されるままにしようと決めた。何より暁自身も興味がある。魔甲虫とそれに対峙するフリークスの力について。




