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変異世界の異邦人《インターステラー》  作者: IK_N
第三幕『アニアーラ』編
27/75

027.Fly Me to the Moon

「見つけました」


 助手席の防衛隊員が指さす先に、光が見える。エーコのブースター噴射の光だ。そしてエーコが進むその先にもう1つの光。


「まさか、あのUFOか……」


 そこには横須賀コミューンに落ちてきたものと同じ形のUFOが浮かんでいる。おそらくデュカリオンから来た同型機だろう。目的は間違いなくエーコの回収だ。


「逃げられる! あんたの《インターステラー》で何とかして!」

「遠すぎる。こんなに離れてちゃハエの軌道変えるくらいしかできない」

「さっき俺に任せとけって言ってたじゃない!」

「人生とはうまく行かないことの連続だ」


 2人のいさかいを無視して、助手席の防衛隊員はエーコに向かって小銃を構えた。


 バンッバンッという発射音が響く。しばらくしてエーコのブースターの光がチカチカと不規則に点滅し、落下をはじめる。ブースターに弾丸が直撃したのだ。数百メートルはあろうかという距離を夜間に、しかも運転中に片手で捉えた腕に、さしもの暁も口笛を吹いた。


「鹿野さんカッコいい!」

「おいおいリコ! そんなおっさんより俺の方がもっとかっこいいぞ! 今から証明して見せよう」

「期待してないけど頑張って」


 装甲車はエーコの落下地点に急行する。そこには、不時着し足を破損したエーコがいた。すぐさま防衛隊員と暁は確保に向かうが、当然エーコも黙ってそれを見ているわけではない。再び9mm弾の嵐。しかしその弾はすべて暁たちに当たる前に地面にたたき落とされる。


「メイドロボだって突然来なけりゃ対処のしようがある」


 暁は精霊(エレメンタル)魔装(ヴァッフェ)を発現させていた。エーコには9mm弾をたたき落としたものが一体何なのか理解できない。しかし、飛び道具が無力化されていること自体は理解できた。すぐさま近接戦闘へと切り替え、暁に肉薄する。だが、そのスピードもしだいに削がれ、ついにエーコは地面に突っ伏した。


「俺に接近するのは悪手だったな」


 《インターステラー》は暁に近づけば近づくほどその力が強くなる。まさしく重力のように。完全に動きを封じられたエーコは防衛隊に確保されたあと、武装を解除されて事情聴取を受けることになった。


 以前、デュカリオンからやってきた男を事情聴取していたのと同じ部屋。そこにエーコは置かれていた。そう、まさに「置かれていた」という表現が正しかった。机の上に首だけになったエーコがその笑顔を崩さぬままに隊員たちを見つめている。エーコの体は武装だらけだったので、結局首だけの状態で話を聞くことになったのだ。今回は聴取を行う隊員以外に、暁とリコも取調室の中で話を聞いていた。武装解除したとはいえ人間をあっさり殺したロボットである。用心しておくに越したことはない。


「それで、任務が失敗した場合は宇宙船と合流するように言われていたわけか」

「はい! その通りです」


 隊員の質問にエーコは元気に返事をする。そこにはおよそ感情というものを感じ取れない。「常に明るく、ハキハキと」とあらかじめプログラムされている動きを忠実に再現しているようだ。そこには得体のしれない不気味さがあった。


「宇宙船との合流も失敗した場合はどうする命令なのかな?」

「その場合の命令はとくに受けておりません! もしよろしければ、私にご命令を!」

「……命令というか質問だが、明日にはデュカリオンがこの地球を射程に入れ、《アイス・ナイン》を発射するというのは本当か?」

「申し訳ございません。分かりません。セキュリティ設定によって秘密情報と極秘情報は私の中に記録されませんので、どちらかに該当していると思われます」


 急に落ち着き払った雰囲気と口調になったエーコに、その場の空気が一気に冷めたような感覚に襲われる。ロボットなのだから当然なのかもしれないが、固定の人格というものが存在しないようだ。人とは全く違う存在、それが人を模した形をしてしゃべっている。それが不気味さの正体なのだろう。


「わかった。質問を変えよう。デュカリオンと通信することはできるか?」

「可能です! 実施しますか?」

「試してみてくれ」

「通信開始します!」


 そう言ってエーコは目を閉じ、しばらくしてパチッと目を開けた。


「ダメです! 私からデュカリオン宛の通信が拒否されています!」

「なるほど。敵の手に落ちたから通信を遮断したか」

「打つ手なしってこと?」


 そこでようやく暁は口を開いた。


「いや、まだ手はある」


 暁はエーコに近づき、屈んで視線を合わせる。


「君のことがもっと知りたい。俺と少し話をしないか?」

「はい! もちろんです!」


 エーコの快活な受け答えとは真逆に、リコはドン引きした表情をする。それに気づいた暁はすかさずフォローした。


「リコ。俺はこれから真面目な話をしようとしているだけだ。俺の気持ちがエーコに移ろいだと思っているなら勘違いだ」

「いいから、さっさとその真面目な話をはじめなさいよ」

「OK。分かってくれたらいいんだ」


 改めて、暁はエーコと向き合う。


「エーコ、君は背中にブースターを付けていたな」

「はい!」

「あのブースター。宇宙でも使えるか?」

「はい! ロケットエンジンとジェットエンジン相互切替可能です!」

「素晴らしい」


 暁は立ち上がり、その場にいたリコと防衛隊員に宣言した。


「俺とエーコで宇宙に行く。そしてデュカリオンを説得するか、あるいは……《アイス・ナイン》を無力化する」

「……どうやって宇宙に行くのよ。UFO壊れちゃったんでしょ? こいつのブースターで飛び立とうっての?」

「いや、エーコのブースターでは宇宙までは行けないだろう」

「はい! 私のブースターでは宇宙に行くまで燃料が持ちません!」

「じゃあどうすんのよ」

「俺の《インターステラー》なら可能だ」


 そこで、暁は自身の精霊(エレメンタル)魔装(ヴァッフェ)を発現させて、ドヤ顔をした。


「あんたの能力、宇宙に行けるくらいの力が出せるの……?」

「いや、正直無理だろう。俺の力では地球の重力を振り切って宇宙までは行けない。感覚だがそのくらいは分かる。しかし、それも力の使い方次第さ」

「使い方?」


 暁は刀の切っ先を床に向けた。


「地球に宇宙まで連れて行ってもらおう」


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