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変異世界の異邦人《インターステラー》  作者: IK_N
第三幕『アニアーラ』編
26/75

026.Strike Enemy

 亜麻色の髪で、メイド喫茶から飛び出してきたかのような恰好をした少女は、開口一番こう言った。


「はい! 私は宇宙船デュカリオンの専属雑用&愛玩ロボ、エーコです!」


 場違いなほど明るい声で、目の前の少女はそう宣言する。ロボ? マジで? 100年前はまだまだ発展途上だったが、まさか今はこんな完璧な美少女ロボットが存在してるのか? と暁は思ったが、周りの反応的にどうやら違いそうだ。


「ロボ? ふざけてんのあんた」


 スタスタと、不用心とも言える大胆さでリコはメイドロボ――エーコ――に近づいていく。


「いえ、本当にロボットです! 首の周りは有線なのでお約束の頭部パージはできませんが」

「頭部パージ? 何言ってんのかわかんないわよ。そんなことより、もしかして後ろの寮を燃やしたのあんた?」

「はい。私です!」

「なんでこんなことしたの?」

「デュカリオンの艦長、神谷勝二様から逃亡者10名を全員殺害せよと命令されましたので! ですからそこをどいていただけると助かります! まだ生きているようなので」


 少しだけ顔をずらして、エーコはリコの後ろにいる3人を見る。


「それはムリ」

「そうですか」


 次の瞬間、ドンッと大砲でも撃ったかのような音と風圧が暁たちを襲った。エーコの蹴りがリコに直撃したのだ。音と衝撃からして人が受ければバラバラになる威力は十分にあったはずのその一撃を、リコはその場から一歩も動かず右手で受け止めていた。


「あれ?」

「嘘でしょ……あんたほんとにロボットなの?」


 人が出せる領域を超えた一撃を受けて、リコも彼女の荒唐無稽な発言を信じることにしたようだ。


 スッとリコの手がエーコの首元まで迫る。普通の人間であればまったく不可避のスピードにエーコは瞬時に反応し、それを振り払う。そして手のひらに装備されたスタンガンでリコを攻撃した。2000V、1.9mA、0.3秒の放電。が、空振り。エーコのセンサーが自身の後ろにリコの反応を捉える。上半身を180度回転させ、アーム搭載の9mmマシンガンが火を吹く。その弾丸をすべて弾き飛ばして、リコは平然とその場に立っていた。


「……」


 エーコはその時点で勝つのは不可能と判断し、背中からある物体を射出した。それはちょうどロング缶のような見た目をしており、描いた放物線の頂点で爆発する。外装が200個もの細かな破片に分かれ、暁たちのいる場所に降り注ぐ。――炸裂弾だ。


「ちっ」


 舌打ちとともにリコは疾走し、人に当たる破片だけ弾き飛ばす。その隙に、エーコは腰のブースターを使ってその場から離脱をはかる。その一瞬の攻防を、暁はただ唖然と見つめることしかできなかった。


「あいつ!」

「ま、待てリコ!」


 エーコを追いかけようとリコはジャンプした。しかし、それを狙っていたかのように逃走中のエーコは両腕を後ろに回し、再び9mm弾を発射する。


「えっ!?」


 人の骨格を無視したエーコの動きに、リコは驚愕の声を上げる。回避のできない空中で、無数の弾丸がリコに襲いかかった。


「リコ!」


 全弾直撃。弾丸が人に当たった時に出るとは思えない金属音が鳴り響いた後、リコが落ちてくる。暁は《インターステラー》でリコの周りの重力を低減させた。ふわり、とリコは着地する。その姿はとても今しがた撃たれたようには見えなかった。


「大丈夫か?」

「大丈夫よ。あのエーコとかいうロボ、やってくれたわね」


 リコのパジャマが所々破れてはいるが、擦り傷1つない。にわかには信じられないが、あの金属音は弾丸とリコの肌が接触した時の音だったようだ。


「怪我がないようで良かった……」

「私はあれくらいで怪我なんてしないわよ」

「それでも心配なのさ。君のことが好きだから」

「……心配してくれたことだけ素直に受け取っとくわね」


 暁とリコのやり取りが終わったところで救急車が現着した。UFOを見に行っていた防衛隊の装甲車も一緒に戻って来るのが見える。


「リコ、後は俺に任せろ」

「え?」


 暁はリコたちをその場に残し、防衛隊の装甲車に向かって走っていく。


「悪い。この車、すぐに出せるか?」

「出せるが、なにをする気だ」

「寮をこんなにした奴を現行犯逮捕したくてね。もしかするとUFOを壊したのもあいつかも」

「なるほど。防衛隊の仕事というわけか」


 防衛隊の男は話が早い。暁はすぐに後部座席に乗り込み、エーコが逃げた方向を指示する。だが出発前にもう1人車に乗り込んできた。リコである。


「あんただけじゃ心もとないから私も行くわ」

「俺も信用されてないな」

「そりゃね。私の戦いを口を開けて見てることしかできなかったし」

「いきなりメイドが来たからだ。来るのが分かってればメイドくらい訳ないさ。俺に任せてくれ」

「それじゃ、お手並み拝見と行きますか」


 装甲車は走り出す。目指すはメイド。というよりもメイドの持っている情報といったところか。少なくともUFOが壊され、デュカリオンの乗員が全員死傷したこの状況はほぼ詰みと言える。それを覆す何かを、あのメイドロボが持っていることを祈るばかりである。


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