025.亜麻色の髪の乙女
男の話だと、あと10日程度でデュカリオンは地球を射程に捉えるらしい。それまでに何か手を打たなければ、地球は終わりだ。
「そもそもそのストレンジレット兵器と言うのは実在するのか? そこが眉唾だ」
「その気持ちはわかる。100年前はストレンジレットは理論上の存在で、発見はされてなかった。人の科学力で作り上げ、なおかつ兵器として利用しているというのは天才の俺としてもにわかに信じがたい」
「当時の記録を漁っているが、そのような兵器の情報は出てきていない。奴ら、実際には仲たがいも嘘で最終的にはこの地球に戻りたいだけなんじゃないのか」
「それにしては話も小道具も凝りすぎてる。あのUFOは確かに故障していた」
霧羽と暁が会議室で話し合っている。そこには他の防衛隊員にリコ、セシル、ロジェもいた。え? 霧羽って誰だっけって? まあこんなモブキャラの名前を覚えるのも億劫だろう。防衛隊の長、幕僚長である。
「まあいい。それで防衛隊に何ができる?」
「ストレンジレットは撃たれたら終わりだ。10日以内に宇宙に行ってデュカリオンとコンタクトを取りたい」
「君は防衛隊の任務に宇宙人との戦いも含まれていると思っているのかね? そんな装備あるわけないだろう」
「あのUFOの修理を支援するだけでいい。搭乗員の中にエンジニアもいるらしいが、パーツや燃料は無から生まれないからな」
「燃料だと?」
「液体酸素と液体水素。とりあえずそれがあればいい」
「量は?」
「それぞれ5トンずつあれば残存燃料と合わせて宇宙に行けるらしい」
「まあその程度であれば何とかなるが……四十六室と話をしてこよう」
霧羽はそう言うと、会議室を出た。
「なんだ、意外と物わかりいいじゃないか」
「事が事ですからね」
一番面倒だと思っていた霧羽の許可が思ったよりもすんなり通り、翌日には四十六室の許可もおりた。必要なパーツなどは防衛隊が横須賀コミューン中からかき集め、デュカリオン襲来まで残り2日のところで宇宙に向かう準備は完全に完了した。出発は明日。宇宙にはUFOに乗って来た10人と地球側の代表としてセシルが乗り込むことになった。
「私のこと、バカな女だって思いますか?」
宇宙に向かう前日。夕食で一緒になったセシルは暁にそう切り出した。
「……もしかして、宇宙行きを志願したのは役に立つってところを見せるため?」
「はい。あんなこと言っておいて、結局他人を利用しようとしている。でも今のままじゃ、どうしても不安なんです」
セシルの表情には、ほのかな憂いが現れていた。
「優雅に見える白鳥も、水面下では必死に足を動かしてる。今のセシルさんと同じだ」
「……はい?」
「俺は自分のために努力する女性をバカにしたりしないし、その姿を美しいと感じるよ」
「風早さん……」
セシルに微笑みが戻る。だが残念なことに、暁の言葉はそこで終わらなかった。
「それでも不安になるのであれば、俺があなたの不安を忘れさせてみせる」
そう言いながら暁はセシルの手に自分の手を重ねようとし、セシルはすんでのところで引っ込めた。
「食べ終わったので私は部屋に戻ります」
そそくさと食堂を出るセシルを、暁はただ見届けることしかできなかった。そして、どこからともなく、「ぷっ」っと吹き出すような音が聞こえ、暁は思わず立ち上がった。
「今笑ったやつ誰だ? 文句があるなら受けてたつぞカスども」
暁の叫びに誰1人反応せず、周りにいる防衛隊員たちはただ黙々と食事を続けるのみだった。
さて、結論から言うとセシルは宇宙には行けなかった。
「マジかよ」
その日の夜。周りの騒がしさに目を覚ました暁は、窓の外が妙に明るいことに気が付いた。それは炎の明るさだった。修理したUFOを設置した海岸付近が燃えていると確認した暁は、すぐさま部屋を出て防衛隊の詰所に向かう。
「一体何が起きてる!?」
「今、現着した隊員から連絡がありました」
暁の問いに、詰所にいた防衛隊員は暗い顔で答えた。
「泊町に設置していた宇宙船が破壊されたとのことです」
一体、誰が、どうやって……そんな疑問が暁の頭を駆け巡ろうとしたとき、突然の轟音がその思考を奪った。
「今度はなんだ!?」
「寮のほうで爆発です!」
「!」
考えるよりも前に暁の体は動いていた。一直線に寮へ走り出す。戻って来た暁の目に飛び込んできたのは、燃え上がる一棟の寮。リコやセシルのいる部屋がある棟ではなかったが、そこは重要な人物たちが泊まっている場所だった。そう、UFOに乗って来た10人は全員あの棟にいるのだ。
「風早さん!」
外に出ていたセシルが暁に気づき声をかける。
「セシルさん! 良かった。リコとロジェは!?」
「私はここ!」
セシルの後ろにいたロジェが顔を出す。しかし、見渡してもリコの姿はない。
「リコさんは寮にいる人たちを助けるために、あの中に」
「そんな馬鹿な!」
燃え盛る寮はとても人間が生存できる領域ではない。完全に自殺行為である。リコでなければ。
ドンッととても女性が出さないような音とともに、暁の目の前にリコが降って来た。両腕に2人、背中に1人の人間を乗せて。
「リコ!」
「聞こえてたわよ。悪かったわね馬鹿で。この人たち早く病院に」
リコは顔に煤がついている程度だったが、他の3人は明らかにひどい火傷を負っていた。セシルがすぐさま病院に連絡をしはじめる。また近くの防衛隊員も応急処置を開始した。
「すごいなリコは。体は大丈夫なのか?」
「これぐらい何ともないわよ」
「流石だよ。他の人たちは……」
「残念だけど、もう死んでた」
「……そうか」
あの業火の中、3人も助け出せたなら勲章ものだ。もっともこの火傷では助かるかどうかはまだ分からないが……そう思い、暁が救助された3人の様子を確認した時だった。
乾いた3つの銃声が鳴り響く。先ほどまで暁の隣に居たはずのリコが、応急処置を受けている3人の前に立っていた。あまりの速さに、暁はリコが一体何をやったのかまるで理解ができなかった。リコがぐっと握りしめていた手のひらを開くと、パラパラと何かが地面に落ちる。弾丸だ。
「何者よあんた」
リコが目の前の相手に、鋭い眼差しとともに声を飛ばす。リコの視線の先に暁が見たのは、燃え上がる寮を背にして微笑んでいる、メイド姿の少女だった。




