024.流刑エレジー
UFOの中には男の他に9名の男女が乗っていた。一様に今の横須賀コミューンの姿に驚愕し、口々に「自分たちのほうが間違っていたのか」などと会話している。暁は宇宙からの来訪者たちを防衛隊に引き渡した後、その事情聴取の様子を取調室とは別の部屋で聞いていた。
『確認させてください。あなたたちは約85年前に宇宙船デュカリオンに乗って地球を脱出した方たちの子孫ということでよろしいですか?』
『その通りです……』
モニターに、1人の男と2人の防衛隊員が映っている。質問を受けている男は最初に暁と会話したあの男だ。どうやらUFO内のリーダーだったらしい。
『なぜ、今になって地球に戻ってきたのですか?』
『その前にこっちからも質問させてくれ』
『……どうぞ』
『いったい地球を離れてから何が起きたんだ!? なぜ何事もなかったように街がある? 魔甲虫はどうなったんだ?』
興奮して立ち上がった男は、すぐに落ち着きを取り戻して椅子に座りなおす。
『ずっと、地球は魔甲虫に埋め尽くされていて、人間がいたとしても定住はできず、逃げ回りながら生きているだろうと教えられてきた。みんな、ウソを言っていたのか? 私たちは本当は、地球から流刑にされた犯罪者の末裔なのか?』
隊員は突拍子もない発言に面食らっていたようだが、順序立てて彼らの先祖が地球から出ていった後に起こった出来事を説明していった。男は神妙にその話を聞いていたが、フリークスの出現あたりになると困惑の表情を浮かべた。それもそうだろうと暁は男を慮った。今までSFパニックの物語を聞いていたのに、突然ファンタジーにジャンルが切り替わったような衝撃だろう。暁自身がそうだった。
「言われてみれば、向こうとしては地球はもう滅んだと思っててもおかしくないわね」
「おっとリコ」
リコのほうに振り向いた暁は思わず目を覆った。
「え? なに?」
「すまない。今までドブ底のような男たちの顔ばかり見ていたから。突然の女神降臨に目が耐えられなかったようだ。少し待ってくれるかい?」
「待たないから」
リコは暁を適当にあしらって、モニター先の会話に集中した。
『それで、なぜ魔甲虫に埋め尽くされたはずの地球に戻ろうと?』
『戻ろうとしたわけじゃない。ただ、地球の現状を、真実の姿を映してデュカリオンのやつらを説得しようとしたんだ……地球に復讐する必要なんてないと』
『地球に、復讐?』
雲行きが怪しくなってきた。暁とリコは男の次の言葉に耳を澄ます。
『ああ。デュカリオンは元々、こと座のケプラー62恒星系を目指して航行していたが、出発から40年ほど経った後に艦内が2つのグループに分かれて対立してしまった。1つは自分たちは地球を脱出してきたと考えているグループ。もう1つは、自分たちは地球から追い出されたと考えているグループだ』
『……なぜそんなことに』
『さあ、じいさんの代に起きたことだから詳しくは知らない。父さんは、閉塞空間での長期的な集団生活が原因だと言ってたけど』
『それで、あなたは前者のグループに所属しているということですね』
『その通り。後者のグループは自分たちを追い出した地球に復讐するために航路を反転して地球に戻ろうと主張したんだ。2つのグループは争い、結局地球帰還を目指すグループのほうが艦橋を占拠した』
『なるほど』
『俺たちのグループは最後の手段に出た。地球にたどり着ける場所まで戻ったタイミングで小型宇宙船を奪取し、地球の惨状を撮影して艦橋の奴らに見せて誤りを認めさせる。そのはずだった』
だが、実際にはそうはならなかった。地球には魔甲虫に対抗できるフリークスが生まれ、小さいながらも生存圏を確保していた。この様子を撮影して帰ったところで逆効果なのは明らかだろう。
『奴らは地球に攻撃を仕掛けてくるだろう。自分たちを捨てた者たちを滅ぼすために……』
『たった一隻の宇宙船でですか?』
『知らないのか? デュカリオンには宇宙で魔甲虫に遭遇した時のために対魔甲虫兵器が搭載されているんだ』
『……何だって?』
取り調べをしていた隊員が思わず素に戻るほどの驚くべき発言だった。
「何よそれ、あり得ない。そんなのあるなら地球の魔甲虫に使えばいいじゃない!」
「確かに眉唾だな」
同じ疑問は、当然防衛隊員も持ったようだった。
『なぜ、その兵器で地球の魔甲虫を駆逐しようとしなかったのですか?』
『私も話を聞いただけだから詳しくはないが、この兵器は地球上では使ってはいけないものなんだ。搭載された兵器の名前は《アイス・ナイン》。確か……ストレンジレット? を使うと言っていたが……』
その時、暁は思わずモニターを鷲掴みにしてしまった。
「ちょっと、どうしたのよ」
「ストレンジレットだと……!?」
「そう聞こえたけど、ストレンジレットって何?」
「……ストレンジレットはアップ、ダウン、ストレンジの3種のクォークが同程度の数集まって作られる物質だ」
「ごめん、なに言ってんのか全然分かんない」
「説明すると長くなる。重要なのはこの物質は自身が触れた他の物質をすべてストレンジレットに変換する特性がある、と言われていることだ」
「……つまり?」
「仮にこの物質が地球に撃ち込まれたら、空気も、水も、地面も、建物も、全部ストレンジレットに変換されていく。もちろん、人間も」
「……それってさ、地球上の生き物が全滅するってこと?」
「大正解だリコ」
「やばいじゃない!」
「ああやばい!」
暁は取調室内の隊員と連絡を取り、デュカリオンが攻撃可能な射程に入るまでの日数を聞き出すように指示する。リコはセシルへ事態の緊急性を伝えるために部屋を出た。もし男の話が本当であれば新たな争いの火種どころの話ではない。
地球滅亡の危機が、宇宙から迫ってきているのだ。




