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023.ギリギリchop

 観測の結果、UFOは横須賀コミューンに落ちることが確定的となった。減速する様子もないため、何らかの故障が発生している可能性が高い。落下予想地点は不入斗(いりやまず)。暁とロジェ、そして作戦用の車両と隊員、もしもの時の救急隊員は近くの公園に陣取り、UFOの接近を待っていた。


「目標を肉眼で視認。風早さん、乗ってください」

「了解」


 海側の空に黒い点が見える。それを確認するとすぐに暁は装甲車に乗りこんだ。ロジェは車には乗らず、その場でしゃがみ込み、地面を触りはじめた。


「ランブランさん、そろそろ準備を」

「OK!」


 元気のよい返事とともに、ロジェは自らの精霊(エレメンタル)魔装(ヴァッフェ)を発現させた。両手に付けられたメリケンサック、それが彼女の精霊(エレメンタル)魔装(ヴァッフェ)であり能力名サンアンドレアスの姿だった。


「ちぇい!」


 可愛らしい掛け声とともに、ロジェはメリケンサックで地面を殴った。少しの間をおいて、地面が波打ちはじめる。そして、公園の土がめくれ上がり、UFOの進行方向に2本の高架橋を形作っていく。これが彼女の《サンアンドレアス》、土を操る能力の力だった。


 黒い点はすでにその形がはっきりとわかるまで大きくなっていた。謎の円盤、というよりもスターウォーズに出てくる宇宙船のようなSFな見た目である。


「いきますよ~!」

「応!」


 隊員が車を出発させ、ロジェの作った高架橋の右側へと進入する。UFOも轟音を振りまきながら、ついに横須賀コミューンの上空へと侵入してきた。


 作戦はいたってシンプル。そのままだと街に衝突するUFOに着陸用の滑走路を作ってやり、着地のサポートを暁の《インターステラー》で行うというものだった。


 UFOが左側の高架橋に激突しようかというタイミングで、並走する装甲車から暁が重力の低減と機体のバランス制御を行う。暁の《インターステラー》は暁から距離のあるところに能力を使おうとすると極端に力が減る。だからこそ車で一緒に並走するという無茶な真似が必要だったのだ。


「風早さん、どうですかっ!?」

「ダメかもしれん!」

「ええ!?」


 運転している隊員が思わず暁のほうを見る。精霊(エレメンタル)魔装(ヴァッフェ)を発現させた暁は、刀の切っ先を真横のUFOに向けて歯を食いしばっていた。とにかくUFOがデカすぎる。おそらく全長5メートル程だが、その全体にかかる重力を抑えるのは易しくなかった。


「ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎっ!」


 暁はもはや普通に会話する余裕がなくなっていた。ロジェは今でも土をかき集めて高架橋の長さを伸ばしているが、UFOのスピードのほうが圧倒的に速い。早く止めなければUFOと一緒に暁たちも高架橋から落下してしまう。残り、約200m。暁は最終手段に出ることに決めた。


「車をUFOのほうに寄せてくれ!」

「ええ!?」

「早く!」


 防衛隊員に命令しながら、暁は車のドアを開け放った。すさまじい横殴りの風が暁に襲いかかる。


「ま、まさか」

「もっと寄せてくれ!」


 それまで視界の端に見えていた風景が、すべてUFOの巨体に塗り替えられていく。


「俺が飛び移ったらすぐにブレーキを!」

「了解!」


 返事を聞いた後すぐに、暁は車からUFOに向かってジャンプした。


「ふんっ!」


 ギリギリのところでUFOの縁に《インターステラー》を突き刺す。その時点で、暁は勝利を確信した。《インターステラー》は暁から距離があると極端に力を減らす。それはつまり、少しでも近づけばその力は指数関数的に膨れ上がるということだ。


「どっせい!」


 UFOが受ける重力を低減し、左右に重力源を作って機体のバランスを制御する。さらに後方にも重力源を作り減速も行う。対象の物体そのものに乗っていれば、そのくらいの多重制御も可能になるのだ。


 残り、約10m。ギリギリのところでUFOは無事着地することに成功した。だが、暁にとって本命はこれからである。中にいったいどんな人が乗っているのか、そしてなぜ地球に戻って来たのか……。いや、本当はほんの少し、実はマジで宇宙人が乗っているんじゃないかという希望を暁は捨てきれていなかった。


 ガコンッ


 UFOの前方からいかにも「今ハッチが開きましたよ」という音が聞こえてきた。暁は心の中で小躍りしながら、音の聞こえた場所に急ぐ。


「……」


 開け放たれたハッチ、その前には30代後半くらいの痩せぎすの男が呆然とした表情で辺りを見回していた。肌の色が銀色なわけでもなく、目が複数あるわけでもなく、身長が子猫程度しかないというわけでもない。つまり、「一般的なおじさん」とカテゴライズ可能な人間がその場に立っていた。


「……え~と、ようこそ地球へ」


 暁はその男に向かってできるだけフランクに話しかけたが、内心のテンションだだ下がりをあまり隠せてはいなかった。残念ながらセシルたちの予想どおりだったというわけだ。やはり人類はこの宇宙で孤独な存在なのか、とありきたりな感傷に暁は浸る。


「どういうことだ……?」

「うん?」


 唖然とした表情のまま、宇宙から来た男は暁に詰め寄った。


「なぜ街がある!? 君はあの町の住人なのか? どうして、こんな……あいつらが言っていたことの方が、真実だったのか!?」


 男が暁の両肩をつかんでまくしたててくる。男に詰め寄られてもうれしくないんだよな、と思いながら暁は落ち着くように話しかけるが、男の錯乱はおさまりそうにない。


 どうやらこちらもセシルたちの予想通り、来訪者はあまりよろしくないものをこの横須賀コミューンに持ってきたようである。


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