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022.UFO

 あの後捕まえたベティがどうなったかと言うと、端的に言って逃げられた。とはいえ、暁も含めてそのことにさしたる驚きはなかった。相手にロココというテレポート使いがいる以上、どんな警備をしたところで逃げられるのは目に見えていたからだ。


 それに、現在防衛隊……というより横須賀コミューン、いやもはや全世界が注目していると言っていいほどのイベントが進行していて、ベティが逃げたことなど教科書の伊達政宗の項のように小さな扱いになってしまっていたのだ。


「マジかよ……!」


 横須賀コミューンのニュース番組「クラマスTV」を食堂で見ながら、暁は驚きと興奮とともに言葉を漏らした。


『富山コミューンの望遠鏡により発見された未確認飛行物体は周期的に何らかの通信と思われる電波を発しており、専門家による解読が行われています。この飛行物体が現在の速度を維持した場合、明日10:00ごろに大気圏へ突入するだろうということです』


 まさに驚きとしか言いようがなかった。その番組は地球に未確認飛行物体……つまりUFOが向かってきていると伝えているのである。


「まさかとは思うがこの100年でUFOがポピュラーな存在になってたりしないよな?」

「そんなわけないでしょ」


 隣で食事をしているリコが暁の不安を払拭する。彼女はなんだか冷めた様子だ。向かいにはセシルもいて暁同様に画面に釘付けになっていたが、その表情からは不安のほうが多く読み取れる。


「その割にはあまり驚きがないように見えるが……。UFOだぞ。もっと興奮してもいいんじゃないか?」

「どこに興奮するところがあんのよ」

「最高じゃないか、未知との遭遇。いったいどこからやって来たのか、どんな存在が乗っているか。想像するだけで一週間は退屈しなさそうだ」

「乗ってんのはどうせ人間よ」

「私も、そう思います」


 セシルもリコに同意する。セシルとリコだけではない。最近一緒に食事を取るようになったロジェや防衛隊員たちも一様に少し冷めた反応を示していた。


「人間? どうしてそんなことわかるんだ?」

「宇宙人という可能性を否定することはできませんが、可能性が高いのはやはり人間です。この地球から旅立った人間たちが実際にいますから」


 暁はその時ようやく歴史の授業で習ったことを思い出した。「国連主導ではじめられた宇宙への避難計画」だ。


「そういうことか。でも、なんで今更地球に戻って来たんだ」

「それは分かりません。ですが……」

「ま、ろくな理由じゃないでしょ」


 宇宙への避難計画は事実上選別された人間だけを助け、それ以外はすべて見捨てるのと同義だった。その捨てられた人間の中からフリークスが生まれ、コミューンを作り生きながらえるとは、当時の人たちには想像もできなかっただろう。


 だからこそ、見捨てられた地球の人々は宇宙に逃げた人々に対して、穏やかならぬ感情を持っているのである。


「僕もお父さんからあんまりいい話聞いたことないなぁ。お父さんもおじいちゃんから聞いただけらしいけど」


 ロジェが会話に加わってくる。ロジェ・ランブラン。横須賀コミューンで魔甲虫退治をしているフリークスの中では最年少らしい。ボーイッシュな見た目である上に1人称も「僕」なのでまるで男の子である。


「とにかく今は余計な争いごとが増えないことを祈るだけですね」


 セシルが席を立ったので、暁も一緒についていこうとするがロジェに止められてしまった。


「暁、ソイレント・グリーン食べてないじゃん! ちゃんと食べないと大きくなれないよ~」

「……これ苦手でな。ロジェちゃん食べるかい?」

「やった!」


 暁は自分のプレートに乗っていたソイレント・グリーンをロジェに分けてあげる。結局、人間からできている食べ物は生理的に受け付けることができなかった。


「すぐに僕の方が暁よりも大きくなるもんね」

「そんなに焦る必要はない。ロジェちゃんはとっくに素敵な女性だよ」


 そう言い残し、暁は食堂を出た。


「……あれ何?」

「まともに相手しちゃダメ」


 残されたロジェとリコの会話を聞かずに済んだのは、暁にとって幸福だったかもしれない。


 結局のところ、セシルが感じたような一抹の不安というものは宇宙のインフレーションのように瞬く間に大きくなり、人々を危機の渦中に巻き込んでいってしまうものなのである。


 翌日、朝っぱらからやって来た魔甲虫をサクッと倒して防衛隊本部に戻って来た暁にとんでもない知らせが飛び込んできた。


「UFOが突っ込んでくる!?」

「はい。富山コミューンの発表によると、昨夜、未確認飛行物体は突如スピードを増し、変則的な軌道を描きはじめました。先ほど横須賀コミューンの望遠鏡でも視認しましたが、どうやらこの辺りに落ちてくる可能性が高いようです」

「避難……ってそれはムリか」


 コミューンの外で魔甲虫に遭遇すれば待っているのは確実な死だ。セシルは頷き、説明を続ける。


「まだ確定ではありませんが、横須賀コミューン内に落ちてきた時のためにロジェさんと風早さんには待機してもらいます」

「わかったよ。俺はともかく、ロジェちゃんも? そういえば、どんな能力なんだ?」

「それは本人から聞いた方がいいでしょう」

「やっほー暁」


 暁が振り返ると、そこにはロジェがいた。


「おはようロジェちゃん」

「僕の能力が知りたいみたいだから、レクチャーしてあげる!」

「君みたいな可愛い子とマンツーマンなんて俺は幸せ者だな」

「作戦の説明もするので、私も一緒ですよ」

「失礼、両手に花の言い間違いだった」


 2つの白けた視線にさらされながらも、暁は落ちてくるUFOについて考えていた。

 いったい、乗っているのはどんな人なのだろうか。いったいなぜ地球に戻ってきたのだろうか。そして、彼らはこのコミューンに何をもたらすのだろうか。


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