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変異世界の異邦人《インターステラー》  作者: IK_N
第二幕『自分ひとりの部屋』編
19/24

019.青春アミーゴ

 他の防衛隊員と合流するため詰所に向かった2人が見たのは、苦しそうにうめき声をあげている彼らの姿だった。そのうちの1人にセシルは近づく。


「合言葉を」

「……『人間は』……」


 消え入りそうな言葉の冒頭を聞いた瞬間、セシルは倒れている男に駆け寄った。


「大丈夫ですか!?」

「み、水を……」


 暁は近くの洗面台でコップに水を注ぎ、防衛隊の男に差し出す。1人では飲めないほどに衰弱しているらしく、セシルも手伝った。


「一体何が……」

「み、水……」


 まだ足りなかったかと暁が洗面台のほうを振り向いた時、防衛隊員が別に水を欲しがっていたわけではない事に気が付いた。閉めたはずの蛇口から、水が出ている。しかもその水は洗面台に落ちることなく、まるで蛇のように頭をもたげてこちらの様子をうかがっていたのだ。


「冗談きついぜ」


 シュッという音とともに水が暁へと襲い掛かるが、接触直前に地面にたたき付けられ、四方に散った。暁の《インターステラー》だ。散り散りになった水には動き出す気配がない。


「敵のフリークスですね」

「水を操作する能力か。操作している水から切り離せばそれ以上は動かせないようだ」


 他の防衛隊員には悪いが、敵の能力の範囲内にあるこの場所にこれ以上留まるわけにはいかなかった。2人はすぐに詰所を出て、移動をはじめる。


「セシルさん、実は俺にナイスな考えがある」

「え?」

「お耳を拝借」


 その妙案を聞いたセシルは、驚愕をあらわにした。


「そんなことが本当に?」

「やって見せるさ。ぶっつけ本番だけど」

「……わかりました」


 2人は意を決して目的地へと走りはじめた。その道のりは、ほとんどもと来た道を戻るだけのもの。そう、彼らが向かおうとしているのは寮の中庭なのだった。


「ちょうどいい空間だ。ここなら大丈夫だな」


 中庭のど真ん中に陣取って暁は呟く。それとほぼ同時にボンッと音がして中庭の隅にある水道から突然水が流れはじめた。


「来やがったな」


 水の量はさっきの比ではない。今度のは大砲並みに集まった水が暁に押し寄せる。だが、その結末は先ほどと同じく呆気ないものだった。パシン、と重力に逆らうことのできなかった水が地面に飛散する。


「こんな攻撃何発やってもムダだぞ! 姿を見せろブス!」


 暁の声が闇夜に溶け込んでいく。しばらくして、暁に向かって1人の少女が歩いて来た。ぼさぼさ頭でなんだかけだるげな表情。服もつい今しがた中央で遊んでました、と言われても信じてしまいそうなほどカジュアルだ。とても防衛隊を襲った犯人には見えなかったが、状況的にフリークスなのは間違いないだろう。


「はい、出てきてあげたよ。で、どう?」

「どう、とは?」

「私、ブス?」

「いや、可愛いよ。さっきブスと言ったのは謝る。君の容姿と服のセンスを知らなかった男の戯言さ」

「やった。でも、私がもしブスだったらどうしてたの?」

「とくに何も。ブスと会話する口は持ち合わせていないもんでね」

「うわぁ……」


 暁は目の前の少女と後ろのセシルから非難の視線を向けられる。気を取り直して、セシルが少女に質問を投げかけた。


「もう1人、《ミミック》はどこですか? 先ほど防衛隊に化けていたのは彼女の能力でしょう?」

「うん。その通り。でもバレちゃったら彼女やることないからさ。もうここには居ないよ」


 一瞬ウソかも知れないと暁は疑ったが、この前ロココが攻めてきたときも偽リコは近くに居なかったことを鑑みると本当の可能性が高いと考え直した。


「さてと。本来はここで襲ってきた理由などを聞くことになるし、仲間である防衛隊の面々を傷つけたことに対しての怒りを君にぶつけるのもやぶさかではない」

「え? あ、うん?」

「しかし、その前に俺たちの間でやらなければならないことがある」


 暁のもったいぶった言い回しに少女は困惑する。しかし、それは暁の相手をする女の子にとって通過儀礼なのである。


「自己紹介だ。まずはお互い知り合うところからはじめなければ。俺の名前は風早暁、フリークスだ。能力は重力を操る《インターステラー》。この能力名はセシルさんが付けてくれたんだ。さあ、セシルさん」

「え? 私もですか? まあ、いいですが……私の名前はセシル・ブリュネ、フリークスです。能力は周囲と隔絶した空間を作り出す《パニック・ルーム》」


 もちろん、敵の少女はこんなことに付き合う義理などないのであるが、彼女はそう言ったユーモアや茶番を楽しむタイプの人間であった。自分の胸に手を当てて、少女は自己紹介をはじめる。


「私の名前はベティ・プライヤー。もちろんフリークス。能力は水を操る《アビス》だよ。ここには暁くんを確保するために来たんだよね」

「《アビス》! いい能力名だ。これからベティちゃんの深淵を覗き込んでもいいかな?」

「それはお断り~。というかもう降参だよ。私の能力と君は相性悪いしね」


 ベティはお手上げのポーズをして、ゆっくりと近づいてくる。しかし、暁に近づくほど自分の体がだんだんと重くなっている事に気づく。


「う、ううん?」

「悪いが油断はできないんでね。先ほど紹介した俺の《インターステラー》を味わってもらう。初対面の女性に対して少し意地悪な俺を許してくれ」

「こ、れ、は」


 ついにベティは一歩も動くことができなくなった。その逆に、暁たちは一歩ずつベティに近づいていく。しだいに大きくなる負荷に、ついにベティは四つん這いの状態を保つのが精いっぱいになってしまった。


「う、うぐぅ」

「さて、大人しく……」


 その時、ベコン、と何かが潰れる音とともに、ベティの背中から水があふれ出した。それが暁に襲い掛かる。


「!?」


 いったいどこから水が出たのか? 何かが潰れた音は聞いたが目に見えるところに水をためて置ける容器などは存在しない。


「ちっ!」


 しかし、考えている余裕はない。暁は襲い掛かって来た水の薄刃をすぐに地面にたたき付ける。その能力行使の一瞬、ベティにかけた重力が解除され、その隙をついてベティは隠し持っていたスタンガンで暁に襲いかかった。


 だが、何の訓練も受けていない少女の動きでは限界がある。スタンガンを手にした腕を捻り上げられて、あえなく御用となった。


「油断すると思ったか?」

「うん。油断してるね。今まさに」


 ベティの言葉を聞いた瞬間、暁は血の気が引いた。比喩ではない。全身が凍え、足や手がしびれはじめる。視界もかすみ、焦点が合わない。そして猛烈な疲労感。


「あ、が……」

「風早さん!?」

「さっき紹介した私の《アビス》を味わってもらうよ~。実はこんなに近くだと触らずにだって体内の水を操れるんだよね。初対面の男の子に対して、ちょっとあたりが強かったかな?」


 さんざんいろんな作品で言われてきたことだから皆さんご存じだろう。そう、人間の体の60~70%は水でできているのだ。暁はその体内の水をすべて、ベティの支配下に置かれてしまったのである。


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