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変異世界の異邦人《インターステラー》  作者: IK_N
第二幕『自分ひとりの部屋』編
17/24

017.エロティカ・セブン

 単純接触効果という言葉がある。これは接触する回数が多くなればそれだけその対象に好感を持つようになる、という心理的効果のことである。これに従えば、同居する男女の仲は時間経過に比例して良くなり続け、最終的には仲の良さが無限大になりアインシュタイン方程式が破綻する。


 何が言いたいかというと、同居した時点で二人の結末は決まっているので、この一週間をダイジェストでお送りしたいということだ。それではスタート。


 1日目


 共同生活の約束事を2人で決めた記念すべき一日。

 暁を襲ったロココというフリークスについての調査結果が届いたが、詳細不明。ただし、暁が見た偽リコについては大洗コミューンのフリークス「マーシャル・ニール」である可能性高し。能力は姿を自在に変化させる《ミミック》。コミューンを離れてなんでも屋のようなことをしているらしい。


 2日目


 今日の授業は数学。三平方の定理とその問題。暁にとっては中学ですでに習っていた範囲で退屈極まりない。むしろ教師の口から出る周波数がいかに人の脳に眠気を発生させるかのほうに興味が行く。

 授業が終わってからセシルの理解が追いつかなかったところを部屋で教えた。非常にいい雰囲気。


 3日目


 防衛隊本部前を市民団体が包囲。午後から火炎瓶、催涙ガス、爆竹、排泄物入り水鉄砲が乱れ飛ぶ。1時間後、防衛隊が実弾での警告射撃を実施。市民団体は蜘蛛の子を散らすように解散。暁とセシルは後片付けに奔走。暁はその時はじめてもう1人のフリークス、ロジェ・ランブランに出会う。

 夜、ろうそくの明かりを頼りに防衛隊からの声明をセシルが考える。暁もそれを手伝った。非常にいい雰囲気。


 4日目


 昨夜考えた声明をコミューン唯一の新聞社「フレンチ・ディスパッチ」に寄稿。帰りに衣笠方面までドライブ。平作川に土左衛門を発見。セシルが防衛隊に連絡。だいたい週に2、3人は土左衛門が出ることを聞き、暁がカルチャーショックを受ける。

 暁とセシルは現在の治安と人々の精神状態について語り合う。非常にいい雰囲気。


 5日目


「フレンチ・ディスパッチ」に寄稿した内容がまったく使われていないことにセシルが気づく。抗議の電話。編集担当からの弁明。「すべて私のほうで書き直してしまいました。いただいた原稿がゴミだったので」。セシル泣く。暁慰める。非常にいい雰囲気。


 6日目


 防衛隊の備品であるM16A4が一丁無くなっていることが発覚。セシル、暁、リコが捜索に駆り出される。途中で魔甲虫襲来。リコ離脱。リコが戻ってくるまで結局M16A4は見つからず。防衛隊経理班が備品の管理簿を修正しながら一言「いつも偶数で縁起が悪いと思ってたんだ。これで縁起が良くなった」。

 夜、食事の中にブリの照り焼きが出てきて暁大満足。セシルと昔話で盛り上がる。非常にいい雰囲気。


 そして、7日目


「傷の方はもう大丈夫だな」

「ありがとう。邑輝先生」


 暁は完全復活した。地面をしっかり踏みしめても痛みはない。安曇野からもらった杖ももう返却済みである。


「それで、ブリュネ君との件はどうするか決めたのか」

「ああ、自分なりに考えて決めたよ。今日セシルさんに伝えるつもりだ」

「では、私からはもう何も言うまい」


 邑輝にもう一度礼を言い、暁は2人の愛の巣へと戻っていく。暁は今日が自分の人生にとって1つのターニングポイントになるだろうと確信していた。暁も、セシルも、そして世界すら2人の仲を祝福しているのである。ためらう理由などどこにあるだろう。いや、ない。だが急いではいけない。優れた音楽がそうであるように、サビに至るまでの構成・設計・雰囲気作りこそが一流と二流の明確な違いとなるのだから。


 その日、前日に起こったM16A4紛失事件を受けてセシルは他の備品についての棚卸を行おうとしていた。当然、暁もそれを手伝う。非常にいい雰囲気。夕食も終わり、部屋に2人きりになった時、暁の方から話を切り出した。


「セシルさん。一週間前にした約束についてなんだが」

「はい……」

「一緒に過ごしてみて、あなたに惹かれていく自分がいた。欠けたグラスの半分のように、俺はセシルさんと一緒になるために生まれてきたのかもしれない」

「……」


 うつむくセシルだったが、拒絶の表れではない。その耳は朱に染まり、暁の次の言葉を待っていた。


「セシルさんの思いを受け止めたいと思う」

「……ありがとうございます!」


 2人は抱き合った。手を腰に回し、お互いの存在が重なっていく。しかし、すぐにセシルは体を離した。


「ご、ごめんなさい。ちょっと舞い上がってしまって……先にシャワーを浴びてきます」

「ああ」


 セシルの姿がシャワールームに消えると、暁はベッドの上に座り込んだ。ついに来たのだ、愛する2人が結ばれる時が……。はっきり言って暁は同棲生活2日目辺りでもう結論を決めていた。あんなに美人で頑張り屋な女性から好かれているのにためらうヤツがいるだろうか? いや、いるわけがない(反語)。暁15年の人生の中であんな素晴らしい女性とは出会ったことがなかったし、この先出会うこともないだろうと自然と確信していた。


 先ほどまで暁の耳に届いていたシャワーの音が途切れた。黙っていれば、セシルが着替える衣擦れ音が聞こえそうなものだが、自らの心臓の高鳴りのほうがはるかにうるさい。


 シャワールームから出てきたセシルはバスタオル一枚だった。その艶めかしさに、暁は全身の血の量が一気に増したような錯覚に陥った。そこからは一瞬だった。暁は再びセシルを抱擁した。体と一緒に、心臓の音も重なり合っていくようだった。それは、2人の境界線が限りなく曖昧になっていくはじまりの合図だった。


 セシルはすんなりとベッドの上へと押し倒された。それがすべてを受け入れた彼女からのサインだと判断し、暁はセシルに覆いかぶさろうとする。そして、その時になってはじめて、セシルが震えている事に気が付いた。


「セシルさん……やっぱりはじめては怖いよな。ここで嬉しいニュースなんだがかく言う俺も童貞でね。はじめて同士、力を合わせて行こうじゃないか」

「え!? は、はい、そうですね……」


 そこに来て、暁も何かおかしいことに気が付いた。セシルの声の震え、体の硬直、暁を見ている瞳の色……。それは明らかにはじめてのセックスに対する不安とは別のところから来るものだと、いままでの経験則が知らせていた。


「……すまない。少し急ぎすぎたかな? もう少し落ち着いてからでも俺は」

「わ、私は大丈夫ですから! 早く私と一緒になりましょう!」


 セシルはぐっと暁の体を引き寄せる。暁の中にあった疑念のしこりはその時一気に膨れ上がった。


「セシルさん。そんなに急がなくても俺とセックスは逃げないさ」

「い、急いでなんて……」

「まさか、四十六室に無理強いされたんじゃ?」


 思えば、「セシルが暁と結ばれるのを望んでいる」というのは四十六室の邑輝が言い出した話である。信用に足るものだろうか?


「違います! 私は私の意思で……」

「……とにかく、そんなに震えてちゃあできるものもできない。お互い少し落ち着こう。俺もシャワーを浴びてこよう」

「待ってください!」


 瞬間、暁の視界が塞がった。目隠しをされたわけではない。暁の前に、突然壁が現れたのだ。その壁と同じものが、暁とセシルの周りを囲っている。


「逃げないでください。ベッドに戻って、私を抱いてください。今! ここで!」


 明らかに性的とは別の意味で興奮しているセシル。驚愕に目を見開く暁。

 異常な空気が、逃げ場のないその空間を満たしていた。


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