表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
変異世界の異邦人《インターステラー》  作者: IK_N
第一幕『いばらの王』編
13/24

013.光なき夜をゆけ

 暗闇の中を2人は歩いて移動していた。トラバントとは結構離れてしまったが目的はそこではない。


「ロココちゃんにどこまで飛ばされてたんだ?」

「ロココ……? ああ、あの金髪そんな名前なんだ。正直どこに飛ばされたかは分かんなかったわ。近くに町の光が見えてたからどこかのコミューンの近くだったとは思うけど」

「どこか分からなかったのによく戻ってこれたな。この不可解な事実を読み解こうとすると2人は運命の赤い糸で結ばれているという前提に立つ必要がありそうだが……」

「なんで? ただの勘で走ってきただけよ」


 横須賀コミューンで目覚めたばかりの暁には最寄りのコミューンがどの程度の距離かも分からない。だが、1、2km程度の距離ではないのは確かだろう。その距離を息切れもせずに走破したリコという少女に、感謝と少しの畏怖を暁は抱いた。


 そして2人は目的地に、ボロボロの一軒家にたどり着いた。


「へえ、ここがあんたの家だったのね」

「ああ、素敵な家だろう。思い出の家さ。ちょっとボロいけど」


 暁は再び自分の家に戻ってきていた。先ほどは散策する間もなくロココが攻めてきたのでゆっくり見ることもできなかったのだ。


「俺、父親が子供の頃に死んじまって、母さん1人で育ててくれたんだ」

「あんたの身の上話とか興味ないんだけど」

「聞いておいた方がいい。君の夫になる男の家庭事情だからな」

「くたばれ」


 冷たくあしらわれても暁は諦めない。こんなことで諦めているようなら、後天性細胞硬化症候群になった時にとっくに生きるのを諦めていただろう。暁はここに来た理由をリコに打ち明ける。


「母さんが何か家に遺してくれてないかと思ってな」

「何かって何?」

「手紙とか、さ」


 家の中に入り、上を見上げる。ちょうど暁が開けた穴から夜空が見えていた。用があるのは二階だ。そこに母親の部屋があった。階段を使ってもいいが、あまり家を傷つけたくないと思った暁は、自分の能力を最大限活用することにした。


「よっと」


 タンッと少しジャンプしただけで、暁の体はふわりと浮かび上がる。そのまま、階段の上まで移動し、床に負荷をかけないように重力を十分の一程度にして降り立った。


「便利ね。あんたの能力」

「だろう?」


 続いて、リコも同じようにして二階に移動した。そこから、真っ直ぐ歩いて突き当たり、そこに暁の母親の部屋があった。ドアを開けその中に足を踏み入れるが、そこから広がる光景は暁にはあまり覚えのないものだった。なにしろ子供のころ母親の部屋に勝手に入って色々ひっかき回したあげく、こっぴどく怒られて出禁になったのだから。暗黙のうちに出禁は解除になっていたが、とくに入るような理由もないのでそれ以降暁はその母親の部屋に近づいたことがなかった。


「……」


 暁は、黙って部屋の散策を開始した。魔甲虫が現れてからこの場所が、母親がどうなったのかが知りたい。そのための手がかりが何か、何かあれば。そんな思いが暁を動かしていた。


「ねえ、あんたの探し物ってこれじゃない?」


 リコが手にしていた分厚い封筒には「暁へ」と書かれていた。


「……これどこにあったんだ?」

「化粧台の引き出しの中」

「そうか……よく分かったな」

「うん。なんか、勘で」


 暁は、すぐさまその封を切って中身を取り出す。中にあったのは札束と一枚の手紙だった。札束の方はおそらく100万くらいだろう。今の時代ではもう使えない日本銀行券だ。暁は札束のほうには目もくれず、手紙を読みはじめる。



 暁へ


 目覚めた後、世界の変化に混乱していると思います。もう知っているでしょうが、魔甲虫という危険な生き物のせいでもうこの場所にはいられなくなりました。帰りを待ってあげられなくてごめんなさい。


 これからお母さんは政府指定の避難場所に移動しますが、そこがどこかは分かってません。私を追いかけるのはやめて、自分の安全を最優先にしてください。封筒の中のお金は大切に使ってください。


 せっかく病気が治ったのにひどい世界になったと嘆くかもしれませんが、生きてほしいです。そして、いつかまた会えると信じています。


 お母さんより



 それだけだった。これでは何もわからない。当時を生きた本人でさえ、これからどうなるのか分からなかったのだろう。母親が手紙を書いたとき、日本銀行券が紙くずになるとは予想もできなかったし、息子の病気は治ると思っていたし、再び息子と会えると思っていたのだ。


 暁は少しの間ボロボロの天井を見上げて、それからリコに声をかけた。


「やっぱり来てよかったよ。いろいろ踏ん切りがついた」


 暁は笑顔だった。


「アイザック・ニュートンって知ってるか?」

「何いきなり。バカにしてんの? リンゴが木から落ちるのを見て重力を発見した人でしょ」

「少し違う。リンゴが木から落ちるのも地球が太陽を回るのも同じ力によるものだとはじめて気づいた人がニュートンなんだ」

「……どういうこと?」

「それまでは地上と宇宙はまったくの別世界で全然違う法則で動いていると思われてた。それを同じ法則で動いている同じ世界なんだとニュートンは気づいたんだ。今の俺もそんな感じさ」


 100年後の世界。魔甲虫がいる世界。自分がフリークスの世界。それが確かに自分の生きていたかつての世界と繋がっている。それを確認できただけで、暁は満足だった。とりあえず、今のところは。


「よくわかんないんだけど……つまりあんたの目的は果たせたってことでいいの?」

「その通りさ。本当にありがとう、リコ」

「そう、なら来た甲斐があったわね」

「ああ。それじゃあ帰ろうか。セシルさんをあんまり待たせちゃ悪いからな」

「ええ。でも、どうやって謝ろうかな……」

「帰りながら謝罪文を考えよう。朝帰りで考える詩ほど人の心を打つものはないからな」

「何を言ってるんだか……」


 暁の言葉は理解できなかったが、その表情が和らいだことに気づきリコは微笑んだ。


 暁は決意した。いつか手紙の約束を果たそうと。母親がまた会えると信じていたのなら、自分もまたそれを信じようと。葬儀にも出られなかった親不孝者だが、墓参りぐらいはきっとできるはずだから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ