113.紅蓮華
「何がデートじゃ、大人しゅう戦わんか!」
真夜の言葉と同時に、暁は自分の体が意志とは無関係に動くのを感じた。久里浜原発でやられた体を操作される技だ。
「おおっと」
だが、以前のように自由を奪われることは無い。腕がプルプルと震えてはいるが、真夜の能力に対抗している。
「な、なんじゃ!?」
「知りたいかい? じゃあ、少し話をしようじゃないか」
暁はゆっくりと降下し、船尾甲板へと降り立った。
「君は俺が能力を防いだ理由を知りたい。俺は君たちが何者でなぜ攻めてきたのかを知りたい。お互い知りたい情報を交換しよう」
「敵と交渉するわけなかろう」
「なら大丈夫だ。俺と君は敵じゃないからな」
ふざけたことを言っている暁に真夜はジト目になったが、今回はこの話に乗ることにした。敵フリークスをこの場に釘付けにすることも、彼女の任務には入っていたからだ。
「まあいいわ。ちいと付きおうちゃる」
「さすが真夜。話がわかる。先に君の疑問から答えておこう。君が発電所で見せた技、おそらく神経系が伝える電気信号を操って俺の体の自由を奪ったんだろう」
「その通り。さっさとどうして防いだのか言いんさい」
「割と力業さ。君の能力対策にさっきから俺の体は重力だけで動かしてる。それで君の操る力に抵抗してるってわけさ」
「んなアホな……」
真夜は暁の言葉をにわかには信じられなかった。この技から逃れられた者など、今まで1人もいなかったのだから。しかし、実際に能力を防がれているのだから事実なのだと真夜は無理やり自分を納得させた。
「じゃあ、次は俺の質問いいかな」
「早うせえ」
「真夜たちは一体なぜ横須賀に攻撃を仕掛けてきたんだ?」
色々と聞きたいことはあるものの、この質問がさまざまな事を知るのに手っ取り早いだろうと暁は判断した。
「他の国に攻撃を仕掛ける理由なんて欲しいものがあるからに決まっとる!」
「その欲しいものと言うのは?」
「この日本国そのものじゃ!」
「……日本国か」
真夜はドヤ顔で言い放つが、日本国はずっと前に滅んで今はない。少なくとも、暁の住むこの世界では。しかし、真夜たちの正体に見当がついている暁は涼しい顔で彼女の言葉を受け止めていた。
「残念だが、日本国というのはとっくの昔に滅んだよ。君たちの世界では違うのかもしれないが」
「……なんじゃと? そがなわけあるか! なら、あの街はなんじゃい! 横須賀じゃろうが!」
「横須賀と言うのは合ってるんだがな。話すと長くなる」
かくかくしかじか。暁はこの世界で起こったことを理路整然と説明した。思った以上に真夜は真剣に、興味深く暁の話に耳を傾ける。
「ふ~ん。それで人類滅亡まで追い詰めたのがその空中でぷかぷか浮いている虫いうことか」
「その通り」
「信じられるか! お前ひとりに手も足も出ない虫がどうやって人類滅ぼすんじゃ!」
「よかった。俺がはじめて話を聞いた時の感想と大体同じだ」
事実、暁自身もその現実を十二分には受け入れられていない。真夜が嘘だと断じるのも致し方ないところがある。それに、この話を今すぐ信じてもらう必要すらない。信じようが信じまいが、真夜たちはこちらへの攻撃をやめることはないのだから。
「俺としたことが、君と会話中に虫の話なんて焼きが回ったな。デートの続きと行こう」
「デートしたいんじゃったら、そがいな気持ち悪い虫を連れてきんさんな!」
「ごもっともだ。魔甲虫が子犬みたいに可愛ければ話は違ったんだがな。やはりブサイクは罪だ」
暁の言葉が終わるのを待たずして、真夜は仕掛けた。暁に胸の圧迫感が襲ってくる。能力を駆使して心臓の動きを止めたのだろうが、それも重力で無理やり動かす。
「ちっ!」
技が効いていないと判断した真夜が今度は雷撃を放つが、当然のように重力に曲げられ船尾甲板へと吸い込まれていった。
「……惜しいな」
真夜に横薙ぎの衝撃が襲う。暁の放った重力だ。強い圧迫感に一瞬呼吸が止まった。甲板から投げ出され、海に落ちそうになるところをクーロン力を利用してなんとか踏みとどまる。
「惜しい」
「惜しゅうないわ! このくらい余裕じゃい!」
「そういう意味じゃない。君の力はこんなものではないはずだ」
「……なに?」
暁の言葉の意図が分からず、真夜は目を細めた。
「君の電気を操る能力……いや、電磁気力を操る能力はもっとさまざまな事ができるはずだ。それが惜しいと言っている」
「なにを……」
「君はもっと強くなれる。俺なんか足元にも及ばないほどに強く!」
「……」
言葉はわかる。言葉はわかるが、やはり意図が掴めない。この目の前の男は、一体何を言っているのだろうか。真夜の頭は混乱に支配されはじめていた。暁の言葉をそのまま受け取るとするなら、彼は敵である真夜の成長を手助けしたいと言っていることになる。
「俺のレクチャーを受けてみる気はないか? 今よりはるかに君を強くしてみせる」
そうなのだ。真夜の理解は正しい。暁は言葉の通りの意味で真夜に語り掛けていた。今まさに戦っている最中の相手に対して、自分よりも強くなるためのアドバイスをしようとしている。もちろん理由はある。だがそれは真夜には分からないだろう。
風早暁が意味不明な行動をとる理由はただ一つ。千里香真夜が暁好みの女の子だったから、である。




