112.めざせポケモンマスター
暁は呆れた表情で椅子に座り込んだ。
「これは困った。俺ではどうしようもなさそうだな」
「はい……お恥ずかしい話ですが」
「セシルさんは悪くないさ。もっとお恥ずかしいはずの奴が近くにいるしな」
ちらっと暁は霧羽のほうを見る。霧羽もその皮肉の矛先が誰かは気づいていた。
「我々は常にコミューンのために働いている! 多少の優遇はあっても文句を言われる筋合いはないな」
「wow、開き直ったよ。俺たちに黙って催した宴会は楽しかったか?」
「………………私は呼ばれなかった」
その絞り出すような言葉に、先ほどまでとは別種のいたたまれない空気が場を支配した。暁は知っている。この空気を持続させないために必要なのは素早いフォローであると。
「……おっとこの話止め止め! 内輪揉めなんてしている場合じゃないしな」
「風早さん、そんな露骨に言うと余計傷つきますから……」
セシルが小声で非難するが、出て行った言葉は戻らない。霧羽の顔はさっきよりも赤みを増していた。これはまずい、と暁は脱線した流れを元に戻すため、戦況についての会話に戻った。
「相手の攻撃、いつまでも迎撃し続けるわけにもいかないだろう」
「当然だ。迎撃用のミサイルは攻撃用のミサイルよりもはるかに高額なんだぞ!」
「ところが相手はその迎撃をミサイルじゃなくフリークスでやっている。人件費と三食宿代光熱費だけで稼働する優秀な迎撃システムだ」
「ええ、どう考えてもこちらが先に息切れします」
「それを回避するためにフリークスをたたきたいが、こちらのフリークスは全員ニイハウ条約のおかげで出撃できないか」
「そうなります」
打つ手なし……そう誰もが思ったが、救いの手は本当に意外なところから現れた。会議室に警報が鳴り響く。いつものあいつがやって来たのだ。
「……魔甲虫!」
「くそっ、こんな時に!」
「いーや霧羽。最高のタイミングだぞ」
「何?」
「これで俺は動ける。魔甲虫退治の名目でな」
「……なるほど。確かにそれなら」
「『今回の魔甲虫はなんか強くて苦戦しました!』『戦闘をしていたら謎の艦艇が俺に攻撃を仕掛けてきました!』『魔甲虫退治を完遂するためにやむを得ず艦艇に反撃を行いました!』完璧な三段論法だな」
「いえ、それは三段論法ではないです。風早さん」
セシルの指摘に応えるように暁はウインクした。セシルの困惑をよそに、暁は立ち上がる。
「では、行ってくる」
「……癇に障るが今はそれしかなさそうだ。必ずなんとかしろ! 風早暁!」
「ああわかったわかった」
「お願いします。風早さん」
「お願いされなくてもセシルさんのためならたとえ火の中水の中ってね。これが終わったら一緒にベッドの中にもどうかな?」
「遠慮しておきます」
「それは残念」
霧羽には塩対応を、セシルには愛を振りまき、暁は出撃していった。
一方そのころ。東方から横須賀に攻撃を仕掛けている艦艇の1つである沿海域戦闘艦インディペンデンス級「としま」の艦橋にいる千里香真夜は退屈していた。
「ヒマじゃ~~~~~!」
攻撃は艦艇が実施しており、真夜がやるのは相手からの攻撃の迎撃のみ。本来の想定ではとっくに相手側からユーフォリアを含めた反撃が来る予定……だったが、なぜかやってこない。ゆえに真夜はヒマだった。
しかし、一方で「フリークス」と記載しもう一方で「ユーフォリア」と記載するのは分かりづらいし、混乱を招く恐れもある。以降、名称はすべて「フリークス」で統一しようと思う。たとえ「フリークス」という言葉を使っていたとしても、真夜たちは「ユーフォリア」と発言しているので安心してほしい。
そんなヒマな真夜に吉報が飛び込んできた。
「横須賀方面より2つの飛行物体あり! 敵のフリークスだと思われます」
「やっと来たか!」
「1人は以前真夜様と戦ったフリークスと特徴が一致します。もうひと……ん?」
「ん? どうした?」
「え~、その……」
報告をあげた通信員が言い淀む。彼が受け取った報告にはにわかには信じがたいことが記載されていた。
「もう1人、というよりもう一匹は巨大な黒い虫とのこと……です」
「は?」
真夜は目を丸くした。虫? なぜそんなものが一緒に向かってくるのか。真夜は2つの飛行物体と聞いててっきり風早暁とベティ・プライヤーが来たものだと思ったが違ったようだ。
とにかく、フリークスが来たのであれば彼女の出番である。すぐさま真夜は「としま」の船尾甲板へと移動した。見上げるとちょうどあの男が夜空に浮いて、自信たっぷりのにやけ顔を真夜に向けていた。
「やあ、真夜。おぼろ月の照らすこの夜に、君と一緒に居られることをうれしく思うよ」
「何を言っとるんじゃワレ。その虫はなんじゃい」
「……魔甲虫を知らないのか? まあいい、気にしないでくれ。諸事情でこいつが居ないと君と会えなかったもんでね。デート前に乗った電車の切符みたいなものさ」
「???」
暁の例えも良くわからなかったが、なぜ上空でぷかぷか浮いてもがいている虫が自分と会うことに関係しているのか真夜にはさっぱり分からなかった。相手の事情はともかく、目の前にいるふざけた男は間違いなく以前久里浜発電所で会った風早暁であると真夜は確信した。
「まあええわ。何しに来たんじゃ」
そう問いかけるが、この攻撃を止めに来た以外に理由などないことは真夜自身分かっていた。
「美しい君には悪いんだが、君のお仲間がちょっとうるさくてね。黙らせに来た」
「ほお、言うのぉ。やってみぃ!」
真夜が指を鳴らすと同時に、周囲の船が一斉に攻撃を開始する。だが、その攻撃は横須賀に向かう前に急に針路を変えて海に突っ込んでしまった。
「重力か」
「その通り、横須賀には近づかせない。近づく必要もない。戦争の時間は終わり、今からデートの時間がはじまる」
ドヤ顔でそう語る暁に対して、真夜は冷ややかな視線を向けるのであった。




