111.緊迫する戦況です!
船が消失した後、暁は状況説明のために防衛隊本部の会議室に移動した。
「それで船が突然消えた、と」
「その通り」
「そんな馬鹿なことがあるか!」
「いえ、霧羽幕僚長。私たちも確認しましたし、映像にも残っています。間違いありません」
暁の言葉を切って捨てようとした霧羽に、他の防衛隊員が口をはさんだ。
「なら、本当か……にわかには信じがたいが」
「おいおい。俺の言葉は信じないのに他の奴らの言葉は信じるのか?」
「日頃の行いの差だ」
「相変わらず人をイラつかせるのがお上手だな」
「2人とも喧嘩はよしてください……」
睨み合う暁と霧羽をセシルがなだめた。
「それで風早さん。他に何か気づいたことはありますか」
「船の消え方だが、前に久里浜の発電所で会った千里香真夜の消え方と似ていた」
「関係していると?」
「おそらくは、としか言えないが。そういえば彼女のことは何か分かったのか?」
「いえ、正直何もわかっていません。千里香真夜というフリークス、フリークスのことを『ユーフォリア』と呼んでいるコミューン、『帝国海軍 安全監督室 情報調査隊 二等監察官』という役職を採用しているコミューン……すべて不明です」
「真夜の言っていたことがすべて嘘という可能性もあるが……」
「はい。ただそれを考え出してしまうと……」
収拾がつかなくなるのは明らかである。暁は改めて手元に配られている資料に目を通した。防衛隊員が撮影した消えた船の写真。船体に「ゼカレハ」と書かれている。
「『ゼカレハ』、いや『ハレカゼ』か」
「その船の名前だと思われます。この地域で右横書きが使われていたのは180年以上も前。ちょうどこの船と同型の陽炎型駆逐艦が現役だった頃と重なります」
「この船自体は何か情報がないのか?」
「ありません。実際の陽炎型駆逐艦には『ハレカゼ』という船は存在しません。他のコミューンの所属艦艇も調査をしていますが、こんな古い船を保有している所はないと思います」
2人の会話に、霧羽も眉間にしわを寄せて参加する。
「帝国海軍を名乗る女にその帝国海軍に所属していたのと同型の駆逐艦。その2つが同じような消え方をした、か。面倒なことになりそうな予感しかせん」
「面倒? 女の子との再会が迫っているかもしれないこの状況がか?」
「お前はいつもそれだな……」
集められた情報は不穏の二文字を指さしてはいたが、だからといって防衛隊にこれ以上の行動は取れない。霧羽は会議を終わらせ、暁たちも解散した。霧羽にはああ言ったものの、何か面倒なことが起こりそうな予感は確かに暁も感じていた。そしていつものように眠りにつく。だが、その日は残念ながら安眠はできなかった。
「……俺が寝ている間におもしろいことになってるな」
深夜2:00。丑三つ時にもかかわらず、その会議室は喧騒に包まれていた。
「風早さん、どうして……」
「エーコが起こしてくれたんだ。危険が危ないってね」
「事態が動いたらこちらから声をかけようとは思っていました」
「十分動いてるんじゃないか?」
暁は、改めてセシルから状況の説明を受けた。横須賀コミューンの東方、ちょうど『ハレカゼ』が現れたのと同じ辺りに所属不明の艦艇が集まっているという。確認できただけで約40隻。
「大所帯だな」
「さらに面倒なのはこれらの船の数が減ったり増えたりしていることです。ドローンを飛ばしたところ、暁さんが遭遇したのと同様、その場から突然消えたり現れたりしているのが確認できました」
「確かに面倒だ」
暁の呟きから数秒後、その言葉通りの事態が発生した。
「所属不明の艦艇から閃光を確認! ミサイルが発射されたと思われます!」
「なに!? 宣戦布告もなしに攻撃だと!?」
防衛隊員の報告に霧羽が驚愕の声をあげる。暁は慌てて会議室の窓から猿島方面を確認すると、確かにいくつかの光が確認できた。
「俺が何とかしよう」
「いえ、風早さんは手を出さないでください。迎撃システムが対応します」
セシルの言葉通り、猿島から別の光が現れる。別々の場所から放たれた光は横須賀の空で交差し、ボッという小さな音とともに次々と消え去っていく。
「おお、スゴイじゃないか」
「当然だ。維持費だけで防衛隊年間予算の5%使っているんだからな! ちゃんと仕事してもらわないと困る。反撃開始!」
霧羽の命令とともに、今度は横須賀コミューン側から敵艦艇に向けてミサイルが発射された。すべてのミサイルが光の線を描いて水平線へと近づいていき……消えた。
「どうだ!?」
「じょ、状況不明! 展開していたドローンからの通信が全台途絶しました。撃墜されたと思われます!」
「なんだと!」
放ったミサイルは突如消え、展開していた複数のドローンも同時に通信が途絶した。それらを簡単にやってのけるだろう人物に、暁は心当たりがあった。
「おそらく真夜ちゃんだな。電子機器を狂わせるならお手の物だろう」
「……マズいですね」
「真夜ちゃんの相手なら俺がしよう」
「ダメですよ。ニイハウ条約があるので風早さんは戦闘に参加しないでください」
「何か抜け道みたいな方法は?」
「……1つあります。一時的にフリークスの所属を解除して、事が終われば復帰させる。ニイハウ条約はあくまで所属しているフリークスの戦闘禁止なので、どこにも所属していないフリークスなら戦闘しても何も言われません」
以前、ナビ・コミューンから宣戦布告を受けた際も横須賀ではこの方法で対抗する選択肢も考えていた。
「なら……」
「今はムリなんです」
「なぜ?」
セシルは苦々しい顔つきで、暁に事情を説明した。
「所属の解除には四十六室の三分の二の合意が必要になりますが、現在連絡がとれているのは25人だけです」
「……まさか。殺されたってことか」
テレポートなんて能力を使えるなら、暗殺だってやりたい放題である。もしそうなら、事態は最悪だ。
「いえ、状況はそれよりはマシです。ある意味でより最悪ではありますが」
「というと?」
「……昨日の夜9:00ごろから四十六室のメンバーで宴会を開いていたらしく」
「ん? 宴会?」
横須賀コミューンでは食事は定められた食堂で3食が提供されるだけであり、個人がそれ以外で食事を取ることは一部例外をのぞいてできないはずである。
「まさかとは思うが、コミューンのみんなに黙ってお偉い四十六室様だけでPARTY NIGHTしてたってことか?」
「……はい。そうです。そして食べていた物の中に傷んでいたものがあったらしく。参加していた38人中21人が病院に緊急搬送されました。今、邑輝先生が治療に当たっています」
「……」
暁はあまりのことに言葉を失った。後ろでおそらくミサイルを迎撃したと思われる音が鳴っている。霧羽のほうを見ると、うつむいて顔を真っ赤にしていた。自分も宴会に参加していて恥ずかしさで死にそうなのだろうか? それとも同じ四十六室として不正をはたらいた奴らに怒っているのだろうか? 暁には分からない。
今の暁に分かっているのは明日の一面記事の見出しだけである。
『横須賀コミューン、アホな支配層が全員食中毒になったせいで滅びる!』




