106.残酷な天使のテーゼ
暁とナンブーコの電話から12時間後。闇に紛れて防衛隊の敷地内に1台の大型車両が乗り入れた。人目をはばかるようにその車から数人が降り、建物の中に吸い込まれていく。
「やあ。待っていたよ」
暁は対策本部に入って来た彼女たち、ベティ、ロココに輝く笑顔であいさつした。
「聞いたよ~ナンブーコさんに無茶言ったんだって?」
それを受けたベティは困り顔で答える。ロココはムスッとした顔で暁を睨みつけていた。
「まあね。ところでそのチョーカー素敵だよ。2人お揃いってのも愛らしい」
「ああこれね。そんなにいいもんじゃないよ。DSSチョーカーっていって私たちが寄生されてると判断したらこれが爆発するの」
「そこまでくると笑えないな。起爆装置を持ってるのは後ろの奴らか?」
ベティたちの後ろにはもう2人。私兵らしき男たちが控えていた。
「そうです。彼女たちがナンブーコさんに逆らうような動きをした場合は起爆するように言われています」
「俺がいつ口を開いていいと言った? 今はベティちゃんと会話してるんだぞ」
私兵の言葉に、暁は真顔で返答した。一触即発の雰囲気が作られそうになる前に、ベティが会話に割り込む。
「まあまあ。この人たちはお仕事でやってるんだから喧嘩売ってもどうしようもないよ」
「っていうかその寄生されているかどうか判断する方法ですぐに私たちを見てくださいよ。証明さえできればこんなの付けなくて良くなるんですから!」
ロココがわめきはじめた。確かに彼女たちが来たのはそのためで、ムダな会話を楽しむ時間はないのだ。
「それならもう終わった。2人とも寄生されてないよ」
「……え?」
ベティたちがキョトンとした表情になるのも無理はない。電話ではごまかしていたが、判断する術というのは暁の能力で寄生生物が動くときの重力波を検知すること。対策本部に2人が足を踏み入れた瞬間にそれは終わっていたのだ。そのことを暁はベティたちに説明した。
「う、う~ん」
予想通りではあったが、ベティたちの反応は芳しくなかった。
「でもそれって、君が寄生されていないこと前提になるんじゃない……?」
「ええ。私たちが客観的に寄生されていないと判断できない限り、DSSチョーカーは外せません」
「霧羽と同じことを言わないでくれ。悲しくなる」
恐ろしい形相で睨みつける霧羽を無視し、暁は会話を続ける。
「寄生されていないか客観的に判断する方法がもう1つある。俺がUFOの中に侵入した話は知ってるかい?」
「え、知らない」
「よかった。後で俺の武勇伝を聞かせてあげるよ。UFOに入った時いろいろと情報収集もしてね。寄生虫が感染している人物の位置情報一覧も手に入れた」
「え!?」
私兵も含めて色めき立つ。まさにそれが今もっとも欲しい情報なのだから。そして暁は彼らの関心の高さと反比例するような雑さでUSBメモリを差し出した。
「情報はこれに入れてある。今確認してもらっても構わないぞ」
USBを受け取った私兵が別の私兵にそれを渡す。すぐさまPCを開き中身の確認が行われた。私兵たちがお互いに確認しあった後、改めて暁に対して口を開いた。
「確認しました……こちらで把握して隔離した感染者の場所と確かに一致しています。そして、ベティさんたちを隔離していた場所には印がないことも」
「あ! じゃあ!」
「もうこのDSSチョーカーは要らないですね」
私兵が2人のチョーカーを外していく。そしてそれは横須賀コミューンとナンブーコの協力関係が成立したことも意味していた。さっそく暁はベティたちに地球テレポート大作戦の説明をはじめる。話を聞いたロココは思わず声をあげてしまった。
「なんですかこれ!? 地球動かすって無理に決まってるじゃないですか!」
「できるさ。俺は信じてる」
「お兄さんが私の何を知ってるんですか……」
「以前戦った仲じゃないか。あんなに真っ向から戦ったのは俺がはじめてじゃないか?」
「それはそうですけど……」
ロココは安請け合いしていいものか不安になっていた。自分が動かした最大質量はせいぜい装甲車くらいなものであった。
「あの……いつも乗ってる装甲車ってどのくらいの重さですか?」
「だいたい8トンくらいですね」
ロココの質問に私兵が答える。
「地球ってどのくらいですか?」
「60垓トンだ」
「え?」
暁の口から発せられた聞いたこともない単位にロココは固まった。
「垓ってどのくらいですか」
「10の20乗。1の後ろに0が20個つく数だ。人1人の質量を地球と同じと考えると、装甲車の質量は大体ウイルスぐらいだな」
「全然わかりません!」
ロココにはとてつもなく大きい数字という以外は分からなかった。そしてそれは作戦を尻込みさせるのに十分な情報だった。誰もがロココの不安を感じ取ったとき一番に動いたのはリコだった。
「暁。なんか無理っぽいし、他の方法考えましょうよ」
だがその気遣いっぽいセリフが逆にロココの逆鱗に触れた。
「いつ私が無理って言ったんですかぁ!」
「さっき言ってたけど……」
「やれますよっ! このくらいヨユーですよヨユー!」
売り言葉に買い言葉であった。リコに舐められたくないという一心で思わず言ってしまった後、ロココは固まってしまった。
「まあ、私をけちょんけちょんにするって言ってたしこれくらいできるのは当然か」
「そ、そーですよ。私の能力を前に恐怖におののいてください!」
そうしてふんぞり返ってドヤ顔をした後、消え入りそうな声で不安をもらした。
「……でもはじめてなんでちょっと失敗するかもしれませんけど、文句言わないでくださいね……」
その弱気な発言をその場の誰もが微笑ましく思った。
「もちろんさ。ロココちゃんに文句言うやつがいたら俺が事象の地平線に消し飛ばしておくよ」
「なんだか冗談に聞こえないので止めてくださいね。風早さん」
こうしてロココの了承も得られたことで最後のピースがはまり、ついに作戦決行! ……というわけには行かなかった。
「でもこの作戦。ロココが成功してもその後宇宙人を直接掃討する必要があるよね? どうするの?」
ベティの疑問に、暁はカッコつけながら親指でクイッと自分を指した。
「当然、ラストの〆は俺がやる」




