104.妄想日記
自分の思いついた素晴らしい作戦を説明しようと、暁はいそいそとホワイトボードを用意し、真ん中に大きな丸を1つ描いた。そして丸の周囲に米粒のように黒い点々をつけていく。
「さて、これが何かわかるかな?」
「地球とUFO?」
「正解! 30暁ポイントを贈呈する!」
「いらない」
リコがにべもなく拒否した暁ポイントだが、100ポイント貯まるとその女性は暁に好きなものを買ってもらえる権利を得るのだ。ちなみに別に貯まっていなくてもお願いされれば暁は買ってしまう。
「さて、この状況でUFOを排除しようとすると問題が起こる」
「どこか1つに攻撃を仕掛けると、間違いなく報復攻撃が来ますね」
「ああ、横須賀を消し飛ばそうとしたくらいだからな。1つのコミューンに攻撃するくらいすぐやるだろう」
もちろん、反撃されても無視して攻撃を続けることは可能だが今後のことも考えると被害はできるだけ避けたい。その思いは全員が共有していた。
「つまり考えられるのは地球を取り囲むUFO全機に対し同時に、反撃不可能なほどの攻撃を加えること……」
「そんなの無理じゃない?」
「そう、無理だ。ここで頭がいい俺は発想を変える。コペルニクス的転回ってやつだ」
暁はホワイトボードの図を一度消し、地球を表す丸とUFOを表す黒点をまったく別のところに描いた。
「この話が面倒なのは俺たちがUFOに包囲されているからだ。だからその前提を崩す。UFOが地球から離れてくれれば後はどうとでもなる」
「どうやってUFOを地球から引き離すのよ。あいつらが欲しいものは地球にあるのに」
「ああ、UFOのほうを移動させるのはほぼ不可能だろう。だから」
暁はホワイトボードに書いた丸をトントンとたたく。
「動かすのは地球のほうだ」
ドヤ顔の暁だったが、その場にいる誰もが頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「でも、前にあんたがやった方法じゃ無理でしょ。すぐに気づかれちゃうし……」
確かに、以前暁は自分の能力を使って地球を動かした。だが、重力を使ったあの方法だとUFOも一緒に引っ張られてしまい意味がない。
「そう。普通の方法じゃだめだ。地球をテレポートでもさせないとな」
「テレポートって……あ」
「風早さん。まさか……」
「そのまさか」
暁は手に持った携帯を全員に見せた。そこには「ベティ・プライヤー」の名前が表示されていた。
「いくらロココさんでも地球を移動させるなんて真似ができるんですか?」
「俺はできると確信してる」
暁はちらりとリコを見る。
「リコはどう思う?」
「なんで私に聞くの」
文句を言いつつもリコは自分なりの見解、というよりも直感を述べた。
「できるんじゃない。あの子なら」
リコから満足のいく回答が得られた後、最後に暁が見たのは霧羽だった。
「どうする? 他にいい方法があれば是非ご教示願いたいが」
「他にいい方法がなくとも敵の力を借りるなんてことができるか!」
「まったくお前の頭の固さには辟易させられるな」
「なんだと!?」
「今は唯一ナンブーコたちと対等な取引ができる場面だというのに」
「……何?」
暁の言葉に霧羽は思わず反応した。表情から怒りが消え、暁を値踏みするように変化していく。
「ナンブーコに暁を引き渡す、というのは対等な取引とは言わないぞ」
「もちろんそんなことをするつもりはない。それより、高確率であいつは今困っているはずだ。そこに付け込む」
「困っていること……?」
真剣な表情で顎に手を当てていた霧羽は、しばらくして暁の考えに気づき、目を見開いた。
「まさか……」
「ああ。その通りだ。さて、どうする?」
自分の携帯をプラプラ揺らして挑発的な態度をとる暁に、霧羽は思わず怒鳴りそうになったが深呼吸してなんとか抑える。そして暁に対して電話の許可を出した。すぐさま暁は通話ボタンを押して、耳に携帯を当てた。
「……」
しかし、暁は無言のまま携帯から耳を離す。
「どうしました?」
「ベティちゃんが電話に出ない」
「着拒してるんじゃないの? 私もあんたから電話来るたび着拒しようかと思うもの」
「いや、俺の考え通りであればもうすぐ折り返しが来る」
驚くべきことに暁の言った通りになった。暁の携帯が振動をはじめる。だが、その表情は冷めたものだった。それも当然である。暁の予想によれば、その電話に出たところでベティとは会話できないのだから。真顔のまま暁は通話を開始した。
「……今、俺がどんな感情でお前の声を聞いていると思うナンブーコ。『死ね』だ」
暁の口から出た名前に、霧羽とセシルに緊張が走った。
「ま、今自殺されても俺が困るがな。なぜお前がベティちゃんの携帯を持っているのか、その答えを俺は知っている。俺と交渉しようじゃないか、ビビりのナンブーコくん」
近くの椅子に勢いよく座り込んで、足を組む。電話口の尊大な態度が格好にも現れていた。
「お前の状況を当ててやろう。宇宙人たちの主張は把握しているが、ロココちゃんとベティちゃんが寄生されているか否かの判断がつかず動けずにいる。違うか?」
しばらくナンブーコの言葉に耳を傾けていた暁はくつくつと笑いはじめた。
「喜べナンブーコ、お前の願いはようやく叶う。お前が血眼になって探しているフリークスに対する寄生の確認方法は俺が知っている。それを教える代わりにロココちゃんたちの力を借りるぞ」
暁がベラベラと話すお陰でセシルたちもナンブーコ側の事情も大体把握はできた。どうやらベティたちも他のコミューンのフリークスと同様に隔離状態にあるらしい。それは交渉材料としてこの上ない情報だった。フリークスの力が解明できていない状況ではロココもベティもナンブーコにとっては貴重な人材。こんなことで失いたくはないだろう。
「お互いにとっていい取引だとは思うが、どうだ?」
言いたいことを言い切った暁は満足げな表情でナンブーコの返答を待った。
そしてしばらくして電話を切ると、暁はリコたちに向かってOKマークを出したのだった。




