103.Destroyer Of Worlds
セシルは緊迫した表情だったが、リコたちにはその言葉の意味が汲み取れなかった。
「ちょっと待ってよ。フリークスなしで魔甲虫が倒せるようになるのよ? いつ生まれるか分からないフリークスに頼るよりそっちの方がいいでしょ。私たちも自由になるし」
「私もそう思う!」
2人の反応は暁から見ても当然のように見えた。
「もし魔甲虫を倒す兵器が出回れば今までのような生活はできなくなります。私たちフリークスはさまざまな面で他のコミューン市民よりも優遇されています。給料、福祉、法律も私たちに都合が良くなるようにできています。それが全部失われることになるんですよ」
「きゅ、給料が無くなっちゃうのは確かに困るかも」
ロジェが若干焦りはじめる。好きなようにゲームが買えなくなるからだ。
「でも、単にコミューンの一般人と同じになるだけの話じゃない。私たちは普通の学生になって、いつか仕事に就く。それでいいじゃない」
「そんな単純な話ではありません。私たちはフリークスなんですから」
「……どういう意味よ」
「私たちが優遇を受けていたのはひとえにコミューンに絶対必要な存在だったからです。その必要性が無くなった後に残るのはただの人間ではありません。なんの武器も持たずに炎や土を操ることのできる、フリークスという怪物です」
その辺りで、暁にはセシルの言いたいことが何となく読めてきた。
「そうなった時私たちは……このコミューンから排斥されます。確実に」
「……考えすぎでしょ」
「いいえ、昔から人は一見どうでも良さそうなことにレッテルを貼って、そのグループを排斥してきました。地域、宗教、人種……同じことはまた起こります」
セシルの迫真の表情にリコは口をつぐんだ。
「なるほど。それでセシルさんは魔甲虫を倒す兵器については隠したまま奴らを消し去りたいと思っているんだな」
「その通りです」
「よし。俺も協力しよう」
「ちょっと待ってよ!」
反発したのはリコだった。
「私たちに都合が悪いからって人類の希望になるかもしれない技術を消すなんて、そんなのダメでしょ」
「はい。私も心苦しいです。倫理的にも問題があります。でもやります」
「……」
セシルの瞳には、氷のように冷たい決意の塊が鎮座している。それはあらゆる説得が不可能であることをリコに悟らせた。
「わ、私は……」
リコは口を開こうとするが、少しずつその表情に苦悶が混じりはじめ、ついには口を硬く結んでしまった。無言でうつむいたままになったリコにセシルは語りかける。
「リコさんの立場とそれゆえの考えは理解します。もし反対したいなら……行動で示してください。それで私が自分の意見を変えるかは保証しませんが……ロジェさんはどうしますか?」
「僕は協力する~! 給料無くなっちゃったらゲームできなくなるしお父さんとお母さんに仕送りもできなくなるもん」
リコと違ってロジェは即決であった。こうしてリコを除いた者たちは魔甲虫を倒す兵器を抹消する計画を立てることにした。だが、リコも部屋の中には残っている。暁たちの話はちゃんと把握しておきたいからだ。
「奴らが魔甲虫を倒す兵器を開発中であることは他にばらしたくない。その兵器の完成は時間の問題。エーコ、奴らは兵器が完成した後人類をどうするつもりだ?」
「水素爆弾で地表を焼き払って全滅させるつもりです!」
「放射能汚染されるのによくやるな。自分たちも困るだろ」
「彼らはかなり高性能な放射能除去装置を持っているようです!」
「なるほど。しかし、滅ぼすつもりなら今すぐにやってもいいだろうに」
「魔甲虫用兵器が完成するまでは地上のフリークスも予備として保持しておきたい考えのようです!」
「宇宙人の慎重さに乾杯」
不幸中の幸いといったところだろう。知らないうちにこちらの寿命……いやある意味相手の寿命は延びていたらしい。
「期間の猶予だけではなく宇宙人の倒し方も配慮する必要があります」
「倒し方?」
「はい。まず殲滅のためにUFOには乗り込まない方法が必要です」
「ああ、他の奴らが乗り込むと兵器のことがばれるかもしれないからな」
「それもありますが、もう1つ」
セシルの目が鋭くなる。
「宇宙人の目的が移住であればUFOの中には一般市民もいるはずです。乗り込んで宇宙人の子供などを見ようものなら殲滅の手が鈍る可能性があります。ですからできる限り遠距離でUFOごと消し去るのが理想です。ジェノサイドを効率的に行うには物理的・心理的双方で相手との距離を取ることが肝要ですから」
その時、部屋の中に放送が響いた。魔甲虫出現の警報とは違う、単に召集のための放送だ。フリークスは直ちに対策本部へと赴くように指示がされていた。
「他のコミューンと話をするとか言っていたはずだが、まさかもうまとまったのか?」
「考えづらいですね。とにかく行きましょう」
暁たちが対策本部に向かうと霧羽は開口一番にこう言った。
「話にならん!」
とりあえずイラついてることだけは十分に伝わってきたが、それ以外はなにもわからない。優しい暁は何があったのか聞いてあげることにした。
「そう声を荒らげるなハゲるぞ霧羽。わざわざ出向いてきた俺の身にもなってさっさと事情を説明しろ」
「やつらこちらの話を信じようとしない! そのくせ宇宙人の言葉には耳を傾けて……」
「お前が信用されてないだけじゃないのか」
「他人の頭に寄生生物植え付けるような宇宙人よりもか!?」
それを言われると、さすがにそこまでではないかと思って暁は黙った。
「他のコミューンはまだ自分のところのフリークスが寄生されているのじゃないかと戦々恐々としているらしい。交渉でそれを治せるならその方がいいとな。むしろ勝手に宇宙船に乗り込んだ横須賀が悪者扱いだ」
霧羽はエーコに目を向ける。
「奴らが次の見せしめを行うのはいつ、どこになるかわかるか?」
「分かりません! 横須賀への見せしめが成功する前提の情報までしか取得していないので!」
事実半分、嘘半分。本当にこれから起こるのは見せしめではなく人類の大虐殺である。
「寄生された人間を元に戻す方法はあるのか?」
「ありません! 人類を認識してから1週間ほどで作り上げた即興生物なので元に戻すことは考えていません!」
これは本当。UFOが出現してから1週間沈黙していたのはこの生物を開発していたからであった。
「やはりそうだろうな……お前たちを呼んだのは他でもない」
霧羽は今まで見たこともない真剣な表情をしていた。
「もう他コミューンを説得している猶予はない。だがこれは全人類の存亡にかかわることだ。この横須賀コミューンだけで対処するしかない」
「なるほど。あのUFOの排除にフリークスの力を使いたいわけか」
「……そうだ」
苦々しい表情で答える霧羽。だが、それはセシルたちにとって願ってもない申し出であった。作戦に参加するのが横須賀のフリークスのみなら、魔甲虫を倒す兵器の存在を隠蔽することもたやすい。
「わ、わかりました。しかし、どうやって排除するかは……」
渡りに船、という感情を覆い隠してセシルは動揺しているように振る舞った。しかし、排除方法を考えなくてはならないのは事実である。地球上に浮かぶ80基以上のUFOをいかにしてフリークスの力で排除するか?
その難問に答えを出したのは、やはり主人公、風早暁であった。
「俺にいい考えがある!」
その自信満々な表情を見て、騙されている霧羽も真実を知っているセシルも一抹の不安に心を引っ張られるのであった。




