102.嘘
「宇宙人の目的は彼らが言っていた通りに地球の資源である水のようです!」
説明を開始すると同時に、エーコは目からビームを出した。目の前にあったスクリーンにあの宇宙人の姿が表示される。メイドロボはプロジェクターにもなるのだ。
「見ての通り彼らは水生生物であり、水なしでは生きられません! 回遊魚のように宇宙を旅している彼らは立ち寄る惑星で必要な分の水を確保しながら旅をしているようです!」
続いてプロジェクターには暁が宇宙船の中で見た海ブドウの固まりのような機関が映し出される。
「さらに宇宙人は船のエネルギーに核融合を利用しているため、水の中に含まれる重水素と三重水素も回収したいと考えているようです!」
「核融合……」
「おっと、霧羽。もしかして核融合の説明が必要かな?」
得意げな表情を見せる暁に霧羽はイラついて舌打ちした。だが、核融合について詳しくは知らないので顎で暁に話すように促す。
「核融合は2つの軽い原子核同士がぶつかって1つの重い原子核に変わる反応だ。その時出るエネルギーで発電とかができるわけだな。久里浜の原子力発電所でやってるのは核分裂を使った発電。核融合とは逆に重い原子核を軽い原子核に変えた時のエネルギーを使っている」
「……それで?」
「ウランなどの重い原子核を使う核分裂と違って、核融合は軽い原子核が必要。そして核融合ができる中で一番軽い原子核がさっき言っていた重水素と三重水素ってわけだ」
「それがやりたいから水を搔っ攫っていこうというわけか」
「はい! 彼らも最初はそれだけのつもりだったようです!」
エーコの、その含みを帯びた言葉の選び方に暁も霧羽も眉をひそめた。
「最初は、だと?」
「地球に訪れて彼らははじめての発見をしました! 自分たち以外の生命体を見つけたのです!」
プロジェクターに映されたのはおなじみの人間だった。
「そして彼らが調べたところ、この人類という生命体はなんと体の60%以上が水分で構成されていたのです!」
霧羽は息をのんだ。
「まさか……」
「彼らはこの人類もエネルギー資源として活用しようと考えました! 寄生生物を使って人類を操ろうと考えたようですが、思ったよりも早く気づかれてしまって失敗しました! そのため今は単純に暴力に訴える方針に変えたようです!」
「お、図らずも俺の活躍によって人類が存続してたか。有能過ぎて自分が怖いな」
エーコも霧羽も暁には一瞥もくれずに会話を進める。
「だが、見せしめにしようとしていた横須賀は無事……」
「近いうちに別の場所で見せしめをする可能性が高いです!」
「……他のコミューンとも連絡を取って対策を進める必要がありそうだな」
霧羽は慌てて立ち上がると対策本部を出て行こうとする。それを呼び止めたのは何とエーコだった。
「お待ちください霧羽さん!」
「なんだ! この忙しい時に!」
「こちらをどうぞ!」
エーコは霧羽に紙束を渡した。
「な、何だこれは?」
「宇宙船から取得した現在寄生虫が感染している人物の位置情報一覧です!」
「なに!?」
「確認しましたが、その中にセシルさんたちが現在拘束されている場所は含まれていませんでした!」
「じゃあもう拘束を続ける必要はないわけだな? どうだ霧羽? お前が手をこまねいていた事態を俺が華麗に解決してしまったが感想はあるか?」
霧羽、暁を睨みつけた後に今日二度目の舌打ち。
「お前たち! その資料と現在拘束中の人間の場所をチェックしろ。セシルたちフリークスの拘束を解除するのは資料の正しさが証明できてからだ!」
隊員たちに向かってそう叫ぶと乱暴に扉を開けて霧羽は走り去っていった。それを見届けて、暁も部屋を後にする。暁は当然、エーコの資料が正しいことを確信していたので、セシルたちの解放も時間の問題だと考えていた。
「さて、やっとセシルさんたちとの再会だ。ここまで長かったな」
「はい! フリークスの皆さんにも先ほどの情報を共有したいのですが、よろしいでしょうか!」
「もちろんさ。せっかくだから俺の部屋に集まってゲームでもしながら話し合おう」
そうして数時間もしないうちにセシルたちフリークスも全員が解放された。エーコを含めた5人は暁の部屋に集まって、すごろくゲームをしながらエーコが先ほどまで霧羽に話していた説明を聞いていた。
そしてエーコは最後にこう言った。
「と、言うのが霧羽さんに話した内容ですが、ほとんど嘘です!」
耳を疑うような言葉に、サイコロを振ろうとしていたリコの手も止まる。
「……え?」
「宇宙人の皆さんに水が必要だというのは本当ですが、それは地球に来た副次的な目的に過ぎません!」
「……詳しく説明していただけますか?」
驚いて目を丸くしているリコとロジェとは正反対にセシルと暁は落ち着き払った表情だった。
「もちろんです! 彼らの本当の目的はこの地球に永住することです! 彼らは元々永住する土地を求めて宇宙をさまよっていました! やっと見つけた適応できる星がこの地球だったのです!」
暁は霧羽と話を聞いていた時に途中から違和感を覚えていた。人体の60%以上が水だというのは事実だが、今の全人類から取れる水の量は海から取れる量と比べれば微々たるものである。琵琶湖の貯水量にすら遠く及ばないのだ。そんな少量の水のために色々と画策する理由がない。
「彼らは地球を見つけ、この星に住もうと考えましたが1つ問題がありました!」
「……魔甲虫、ですね」
「はい! そもそも彼らが母星を追われたのもこの魔甲虫のせいです!」
エーコの言葉に思わずセシルも身を乗り出した。
「この星も魔甲虫に蝕まれている、と悲観にくれたのもつかの間。彼らは予想外の存在を見つけました」
「フリークス……」
「そうです! 自分たちがなし得なかった魔甲虫の駆除を行っている存在! 彼らはそのフリークスをなんとか捕らえて解析し、自分たちだけで魔甲虫を倒せる兵器を作ろうと考えています!」
セシルはアナポリスのフリークスが逃走したというニュースを思い出していた。
「ではアナポリスの彼女は」
「彼らは寄生生物を使ってフリークスに近づこうとしていました! 彼女はその唯一の犠牲者です! しかし、彼らにとってはその1人で十分です!」
「……彼女は生きているんですか?」
「心臓が鼓動しているという意味では生きています!」
すべてを悟ったセシルは話題を変えることに決めた。
「彼らが目指している魔甲虫を倒せる兵器は完成しているんですか?」
「完成していません! しかし、彼らの技術力は現在の地球のそれを遥かに上回っています! 完成するのは時間の問題と思われます!」
「やるじゃないか」
素直に賞賛した暁と違って、セシルの表情は暗くなっていた。
「奴らに好き勝手されるのは頭に来るが、魔甲虫を倒せる兵器と言うのは魅力的だな」
「確かに! これで防衛隊で待機する生活ともおさらばできるよね!」
「自分たちの利益のために人の体を切り刻むような奴らと共存なんて無理なんだし、宇宙人だけ退けてその兵器だけ手に入れる方法とかないの?」
セシル以外は宇宙人が開発中の兵器の利用価値について話す。そんな中でセシルはエーコに1つの質問をした。
「エーコさん。なぜその話を霧羽さんにしなかったのですか? わざわざ嘘の話まででっち上げて」
「セシルさんは話してほしくないだろうと思いまして!」
即答されて、逆にセシルが言葉に詰まる。どれだけ見つめてもエーコの表情から裏の意図などは読み取ることができない。
「……ええ、そうですね。霧羽さんに話さないでいてくれて、正直ほっとしています」
「セシル?」
セシルは決意を込めた表情で口を開いた。その内容は、暁たちの現状認識とはかけ離れたものだった。
「魔甲虫を倒せるような兵器は存在してはいけません。宇宙人の意図も開発が進んでいることも隠して、闇に葬り去らなければいけません」




