101.Bomb A Head!
警報が鳴ったと同時に、その場にいた他の宇宙人たちは持ち場を捨てて機関室の壁にある無数の穴に逃げ込んでいく。その様子を見て、どうやらこちらの要求は拒否されたことを暁は理解した。
「まったく、人質もお構いなしか。自分の命を1分で切り捨てられた気分はどうだ?」
けたたましい警報を聞きながら暁は毒づく。もちろん自分が捕まえている宇宙人に対して言ったが、反応は返ってこない。
「暁さん! もう人質はいません!」
エーコのその言葉に暁は自分の拘束していた宇宙人が動かなくなっていることに気づいた。体はぐったりとして、目が白く濁っていた。
「まいったな。殺すつもりはなかったんだが……力を入れ過ぎたか」
「いえ、服毒死のようです!」
「服毒……?」
よもや一般機関員っぽい奴が毒を常備しているとは……と暁は驚いたが、事実はそうではないようだ。
「腹部に付いている足の1つで脇腹を一突きしています! おそらくフグの毒袋のような器官があるのかと!」
「自前の毒があるのか……」
暁は先ほどの宇宙人の言葉を思い返した。「私たちは種族の興廃を賭けてこの場にいる!」。どうやらハッタリの類ではなさそうだ。自らの命どころか同胞の命すらいとわないというのであれば、この相手は相当厄介である。暁はそう歴史から学んでいた。
「目の前のエンジンと思わしき物体の温度が急上昇しています!」
「なに?」
見ると、確かに目の前の房が先ほど見たときよりも輝きを増しているように見える。暁が肌に感じる振動も大きくなっていた。
「このままだと爆発すると思われます!」
「船を放棄する気か。エーコ、回収まで後どのくらいだ?」
「あと2分です!」
「それまでこのエンジン持ちそうか?」
「あと1分程で限界がくると思われます!」
「しょうがない。俺が止めるか」
暁は房に近づくと、それを重力で圧壊した。同時に宇宙船が落下していくのを感じる。エンジンを壊してしまったのだから当然だが、それも暁が対処した。
「ふ~ん。よく考えれば向こうがこの船を放棄するなら船ごと頂いちまえばいいか。置く場所に困るが」
「……それはできないかもしれません」
「……ん?」
エーコの冷めた言葉遣いに暁は嫌な予感がした。ガシャン、という音とともにエーコは背中のハッチを閉じる。エーコは暁に提案し、情報収集用ドローンを宇宙船の中に放っていたのだ。暁はそれがバレないように機関室で大騒ぎを起こしていた。その回収が今終わった。
「この宇宙船ですが、50発の水素爆弾が搭載されているようです!」
「なるほど。賢い俺はその次の言葉が何か分かってしまうが、ぜひ君の口から聞かせてほしいな」
「そのすべての起爆装置が作動済みになっています!」
「wow。あとどのくらいで爆発する?」
「残り35秒です!」
「冗談きついぜ!」
暁はすぐさまエーコを抱きかかえ、自分の周りに全速力で事象の地平線を生成した。宇宙船の大きさは20km、というセシルの言葉を思い出し急速に巨大化させていく。事象の地平線が小さすぎれば水素爆弾をとり逃して横須賀に壊滅的な被害が出る。しかし、大きすぎれば暁の能力が横須賀を壊滅に追いやるだろう。
急がねばならないが、同時に大きさの制御も必要。焦る暁の心の中とは裏腹に、光も音も閉ざされた2人だけの空間は恐ろしいほどに静かだった。
「残り3、2、1……水素爆弾の爆発時刻は過ぎました」
当然、周囲を事象の地平線で覆った暁には外がどうなったのか知ることはできない。少しだけ呼吸を整えてから暁は能力を解除した。
暗闇が消え去った時、暁の視界に入ってきたのは群青と空色だった。慌てて横須賀の方を見るが、とくに被害が出ている様子はない。
「なんとかなったか……」
「はい! お見事です暁さん!」
「だろう? もっと褒めてくれ」
「とってもカッコよかったです! 暁さんと一緒にいられて私はしあわせです!」
「俺も君と一緒にいられて最高の気分だ。このまま2人でバージンロードを歩いていかないか?」
「それ、命令ですか?」
「命令じゃないさ」
何はともあれ喫緊の危機は消え失せた。暁とエーコはそのまま空を飛んで防衛隊の対策本部まで戻ってきた。出てきた時と同様に、窓から土足で失礼する。
「よう霧羽、戻ってきたぞ」
「お前今度は何をやらかした!?」
「おいおい、何を怒ってるんだ。俺が居なかったら今頃横須賀は消し飛んでたぞ」
暁は霧羽に宇宙船で起こっていたことを話した。次に霧羽に横須賀で起こっていたことを話すように促す。
「お前が出て行ってからしばらくして、宇宙船から小型の飛行物体が無数に飛び去っていった。四方八方にな」
「ほお。気づかなかったな」
「それから1分と経たないうちに宇宙船が黒い楕円に飲み込まれていった……あれはお前の能力だろう?」
「ああそうだ。何でも50発の水素爆弾が一斉に爆発しそうだったらしいんでな」
「何!?」
思わず立ち上がった霧羽の表情は驚愕から険しいものへと変わっていく。
「ということは、あの通信はハッタリではないということか……」
「通信?」
「飛行物体が飛び去る少し前に宇宙船から通信が入った。他のコミューンでも同様の通信を受け取ったらしい」
霧羽が一枚の紙を差し出した。
◇
地球に住む人々へ。
貴方たちの横暴をとても残念に思います。これは明らかな反逆行為です。
非常に残念に思いますが、貴方たちに交渉の意思がないことがはっきりしました。
私たちは貴方たちを滅ぼした後、この星の資源を使わせていただきます。
私たちにはそれを実行するだけの力があります。
それはすぐにわかることでしょう。
しかし、貴方たちが一枚岩でないことも承知しています。
降伏するのであれば、その地域には手を出さないことを誓いましょう。
◇
「なるほど、本当は横須賀コミューンを見せしめに消し飛ばすつもりだったようだな。まあ、俺によって阻止されたが」
「何を得意げに言っている。お前がヘタなことをしなければそもそも危機に陥ることもなかったんだぞ!」
「どのみち、寄生虫を頭に入れたり水素爆弾で脅迫してくるような奴とは仲良くできないだろ」
減らず口が、と言いながら霧羽は座りなおす。
「それで? まさか宇宙船の中でバカをやってなんの収穫もなしか?」
「まさか。エーコがいろいろと情報収集してくれたさ。俺らに教えてくれるか?」
「はい!」
元気いっぱいに返事をして、エーコは語りはじめた。この宇宙人たちの目的について。




