6 世界が違っても
「さっぱりしました」
そう言いながら、頬を上気させたミサキが扉から現れた。
彼女はカイゼリスと同じようなルームウェアを着ており、下ろした髪が肩の上で揺れていた。
「ちょっと待っていてくださいね」
そう言うと、先ほどカイゼリスにしたのと同じようにドライヤーで髪を乾かし、終わると彼の向かいに座った。
「質問してもいいですか」
「ああ」
「カイゼリスは、何歳ですか?」
ミサキは、ワクワクと期待に満ちた瞳で聞いた。
しかし彼は、微妙な表情をしている。
「数えていないから、わからん」
「えっ!?」
その回答は予想外だと、彼女は思った。
「……30前後だとは思う」
「おお!どうしてですか?」
「歳の近い親友が、以前そのくらいだと言っていた」
「じゃあ、私と同じくらいですね!」
嬉しそうに言うミサキに、今度はカイゼリスが聞く。
「お前は、随分若く見えるが」
「それ喜んでいいのかなあ。でも、私は28歳です」
「……!」
「声が出なくなるほど驚かなくても!」
そう言って彼女が笑うのを見て、カイゼリスも笑った。
「そうか。同い年かもしれんな」
「そう思うと、ぐっと距離が近くなった気がしますね!」
彼女がそう言ったところで目が合うと、お互い気まずさが滲んだ。
「お仕事は兵士ですか?」
話題を変えようと、ミサキが言う。
カイゼリスは少し思案して言った。
「いや、司令官だ」
「司令官?」
ミサキは鞄から四角い塊を取り出した。
そしてその表面を、なぞるように触る。
それが光ったかと思うと、彼女は指でそこを軽く叩き出した。
Q.司令官とは?
A.司令官とは、軍隊を指揮する責任者です。
兵士たちに命令を出し、戦い方や作戦を決め、部隊全体をまとめます。
また、戦いに勝つことだけでなく、兵士の命を守ることも重要な役割です。
会社で例えると、社長や現場の責任者のような立場です。
ミサキはカイゼリスを見た。
彼もじっと彼女を見返す。
「軍を率いる立場だったんですか……?」
「そうだ」
それなのに、戦の最中にこんなところへ来てしまって、気が気じゃないだろうに。
この人はそんな素振りも一切見せないで、この世界で私といることを受け入れている。
ミサキは首を振った。
今、そんなことを考えても、何もしてあげられない。
私が出来ることは、彼がここにいる間、手助けしてあげることだ。
「……責任ある立場だったんですね」
ミサキはそう言うと、彼を真っ直ぐ見つめる。
「あなたが普通に接してくれるので、そんな立場だとは思いもしなかったです」
「……お前が普通にしてくれるから、俺もそうしただけだ」
彼の言葉に、ミサキは微笑んだ。
端々から優しさが感じられる言葉は、彼の誠実さを物語っている。
彼女は、彼がここにいる間は、出来る限りのことをしてあげたいと感じていた。
ミサキはそのまま四角い塊を指で叩く。
Q.レーマン王国は地球にあった?
A.『レーマン』という王国についてですね。
現在の歴史上に『レーマン王国』という国家が存在した記録は確認できません。
古代国家、中世国家を含めても、その名称の王国は一般的な歴史資料には見当たりません。
もしゲームや小説などの創作作品であれば、その世界独自の国家名である可能性があります。
やっぱり。
魔物がいた世界で暮らしていたということは、地球の人ではないということだ。
「カイゼリス、あなたは他の世界から来たんですね」
「……ああ、そうらしいな。お前がここには魔物がいないと言った時、そうだと思った」
カイゼリスは頷いた。
そして槍を見る。
「俺には今の状況が分からん。だが、お前に助けて貰えて幸運だった」
「そう思って貰えてよかったです」
ミサキは頷く。
直後に、出そうになった欠伸を噛み殺した。
時計を見ると、もう1時を回っている。
「そろそろ寝ましょう。明日は、あなたの服や布団を買いに行きましょう」
ミサキは座椅子を倒すと、カイゼリスに横になるよう促した。
そして自分は、押し入れから布団を出して敷く。
そこから毛布を一枚引き出すと、彼へ掛けてから布団に入った。
「ありがとう、ミサキ」
カイゼリスはそう呟くと、目を閉じた。




