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英雄の帰る場所  作者: ほしのき


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6/11

5 普通の人

「……キ」

「ん……」

「ミサキ」

「へっ?」


 扉の向こうから名前を呼ばれ、うとうとしていたミサキは飛び起きた。


「すまないが、着方がわからん」


 困ったような声でカイゼリスが言う。

 

「あ、はい。上から順番に説明します」


 彼女は、洗面台に置いた順番を思い出して説明を始める。


「まず、タオルで体を拭きます」

「それはわかる」

「ですよね!」


 ミサキは笑った。


「最初はトランクスです。下から履いてください。ちゃんと別々の穴に、足を入れるんですよ」

「!……わかった」


 彼女は片方の穴に足を両方入れる彼を想像し、笑う。


「何故笑う?」

「え?笑ってませんよ」


 彼女はコホンと咳をして、誤魔化した。


「次は肌着です。上から着てください。あ、これも……」

「腕は別々。わかる」


 彼は少し拗ねたような声で言う。

 

「はい。次はズボンです。トランクスと同じように履いてください。そして最後にトレーナー。暑かったら着ないで肌着のまま出てきてもらっても大丈夫です」

「わかった」


 少し経った後、扉が開いてカイゼリスが出てきた。

 ルームウェアを着た彼は、普通の外国人に見えた。


「どうだ?」

「とっても、普通ですよ」


 ミサキは満足そうに大きく頷いて座椅子を譲る。

 カイゼリスは「そうか」と言って座った。


「服を着てみてどうですか?」

「そうだな……包まれている」

「え?包まれている?」

「ああ。それも嫌な感じは無く、違和感なく包まれている」

「へぇ……」


 さすが、現代の服!着心地重視だ。


 ミサキは思う。

 

 そして、鎧も着ておらず、盾や槍を持たない彼は、自分とは何ら変わりのない人なんだと安心した。

 服は完璧だった。

 しかし気になってしまうことが一つある。


「髪の毛がびちょびちょです。拭かなかったんですか?」

「髪を拭く?」


 きっと彼の時代では、髪の毛を拭くという習慣がないのかも知れない。

 そう思ったミサキは、新しいタオルを取り、彼の頭に乗せて拭き始めた。


「何をする!」

「拭かないと、風邪をひいてしまいます!」


 そう強く言われ、カイゼリスは黙ってしまった。

 

 わしゃわしゃと拭かれ、何かに耐えるようにしている彼を見て、ミサキは笑いそうになるのを堪える。

 そのままドライヤーを持ち出して、彼の耳元で電源を入れてしまった。


 ブオォォォ


「!?」


 カイゼリスが身構えたところで、ミサキはやってしまったと反省した。

 彼にとっては、ドライヤーも魔物に見えるかも知れない。

 

「ごめんなさい、調子に乗ってしまいました。驚きましたよね?」

「……ああ。何かする時は、出来れば事前に言ってもらう方がいい」


 彼はそう言うと、ドライヤーに視線を移す。

 まだ少し警戒している。

 

「はい、気を付けます。今は、髪の毛を乾かしているんですよ」


 ミサキはそう言って、ドライヤーで髪の毛を乾かし続けた。

 彼は構えを解き、彼女の好意をそのまま受け入れる。

 先程より丁寧な手つきで、彼の髪の毛へ触れて乾かすと、カイゼリスは気持ちよさそうな表情へと変わった。

 

「はい、出来ました。ほら!」


 彼は、彼女が出してきた手鏡に映る自分を見る。

 

「……」

「とっても素敵ですね」


 ゴワゴワしていた黒い癖っ毛は、コンディショナーのお陰で艶々だった。

 前髪にある白いひと房も、輝いている。


 カイゼリスは、彼女の『素敵』という言葉にくすぐったさを感じた。


「じゃあ、私もお風呂に入ってきます」

「ああ」


 ミサキが扉の向こうへ消えると、彼は再び手鏡に映る自分を見た。

 

 鎧を纏わず、彼女と同じような服装をした自分は、本当に普通だと思った。

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