4 初めての夜
「ご馳走様でした」
ミサキは食事を終えると、手を合わせて言った。
カイゼリスはそれを見て、同じように手を合わせる。
「ゴチソウサマデシタ」
「カイゼリスさん、上手ですね」
ミサキが喜ぶと、カイゼリスは頷いた。
「美味しかったです?」
「ああ。食べたことの無い味だった」
「あはは!それって美味しかったのかなぁ」
彼女は立ち上がると、テーブルの上のお皿を重ねて流しへ持って行った。
そしてそのまま洗い物を始める。
「ミサキ」
カイゼリスに呼ばれ、振り向く。
「はい?」
「俺に『さん』は不要だ。カイゼリスでいい」
彼はミサキを見て言った。
彼女は洗う手を止めて少し考え、彼の名を呼ぶ。
「カイゼリス」
「なんだ」
「呼んだだけですよ」
そして洗い物に意識を戻した。
カイゼリスは満足そうに頷き、部屋を見回す。
初めて見るものばかりの部屋では、自分と槍だけが異様に思えた。
「ふう」
ミサキが洗い物を終えると、戻ってきて向かいに座る。
「そうだ!戦の最中だったってことは、お風呂は入ってないですよね?」
「オフロ?」
「あ、えーと、体を綺麗に洗う場所です」
「浴場のことか?」
「はい、そうですね」
この部屋に浴場が?
カイゼリスは再び周囲を見回した。
まだ開けていない扉が1つある。
「こっちです」
ミサキは立ち上がると、その扉を開けた。
開けた先には大きな鏡があった。
そこには自分とミサキが映っていた。
鏡の下には、大きな白い器のような水場がある。
そしてその両側には、また扉があった。
ミサキは左側の扉を開けた。
そこは、小さな浴場だった。
……とても狭いが、洗い場も浴槽もあるな。
「ここを捻るとお湯が出ます」
「なに?湯が出るのか」
「はい」
ミサキは洗面台にタオルを用意すると、浴室の説明を始めた。
「これがシャンプー。髪の毛を洗います。こっちがコンディショナー。髪の毛を整えます。そしてこっちがボディソープ。体を洗います」
「全部別なのか?」
「はい」
「……」
彼は、全部が別である必要は無い気がした。
その気持ちを悟られたのか、ミサキに「ちゃんと言った通りに使うんですよ」と言われてしまう。
次に彼女は浴場とは反対側の扉を開けた。
覗くと、椅子のようなものがあった。
「こっちはトイレです。用を足したら、このレバーで水を流してください。汚れた場所は、このペーパーで拭くんですよ」
「汚れた場所?」
「……もう!用を足した後のお尻です」
「あ、ああ」
ミサキは言いにくかったことを言わされ、少し頬を膨らませていた。
「あとで着替えられるものを置いておきます。着方が分からなかったら呼んでください」
「分かった」
ミサキが扉から出ていくのを見送り、カイゼリスは鎧を脱いだ。
小さな浴場に入り風呂椅子へ腰を下ろすと、教えられた通りにハンドルを捻る。
するとちょうど良い加減の湯が、雨のように細かく降ってきた。
「これは凄いな」
そう言って頭から浴びる。
心地よい水滴に、戦の疲れもこの状況への疑問も全て流れていきそうだった。
◇
ミサキは洗面室から出ると、急いでクローゼットの中を確認した。
「確か、フリーサイズのルームウェアがあったはず」
これではない、あれでもないと服をよけながら、引き出しの一番下にしまってあったルームウェアを引っ張り出した。
かなり大きい服なので、カイゼリスも着られるだろう。
「あ、下着無いじゃん」
服はあるが、男性ものの下着は流石にストックがない。
今使っているものを、などとは言えない。
彼に下着を着ける習慣があるかさえ分からない。
「コンビニへ行ってみよう」
彼女のマンションの隣にはコンビニが入っていた。
コンビニなら下着が売っているかも知れない。
急いでお財布を持って家を出た。
コンビニに入ると、手前の棚に男性ものの下着が並んでいた。
大きめのサイズを手に取り、購入してすぐさま家に戻った。
洗面室の外で耳を澄ませると水音が聞こえる。
カイゼリスはまだ浴室にいるようだ。
「大丈夫そう」
ミサキは洗面室へ入り、買ってきた下着をルームウェアの上に乗せ、洗面台に置いた。
そして浴室へ声を掛ける。
「カイゼリス、服を置いておきますね」
「ああ」
もう一度、服と下着をチェックして洗面室を出ると、座椅子に座った。
カイゼリスには、今日は座椅子で寝てもらうしかないかなぁ。
そんなことを考えながら、彼がお風呂から出てくるのを待っていた。




