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英雄の帰る場所  作者: ほしのき


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3/8

2 ヘンテコな人

 2人が歩く研究所と研修所の間の道は、街灯が少なく彼の異様な姿を隠してくれていた。

 しかし、歩くたびに盾か槍、または鎧の何かが鳴る。


 カシャン カシャン カシャン

 

 ミサキはそれが気になって仕方なく、思わずチラチラと見てしまった。

 しかし彼の方は見られることを全く気にせず、それよりもむしろ周囲の景色を忙しなく確認していた。


 興味津々で見回しているわけではない。

 あくまで冷静に周囲を確認しているだけだ。

 それでも、彼のその視線の端々には、驚きや戸惑いが滲んでいた。


「あの」

「なんだ?」

「その槍、本物ですか?」

「偽物があるのか」

「……そうですよね。偽物じゃあ役に立ちませんもんね」


 ミサキは自分の質問が相手のことを考えていないなと、先回りして答えたつもりだった。


「もし偽物なら、戦場で役には立たん」


 しかし彼は、真面目に答えてくれた。

 彼がしっかり答えてくれることを確信した彼女は、気になっていた質問を投げかけた。


「どこから来たんですか?」

「……」


 彼は立ち止まる。

 そして何も答えず、ミサキを見た。

 ミサキも立ち止まり、彼を見上げる。

 しばらくして、彼は言った。


「レーマンのカイゼリス」

「え?」

「レーマン王国から来た、カイゼリスだ」

「あっ……カイゼリスさん。私は、美咲です」

「ミサキ」

「はい」


 ミサキはにこりと微笑む。

 カイゼリスの目が少し細くなり、口角が上がった。


「今は西暦2026年というんですが、カイゼリスさんの国にはそういうのあります?」

「セイレキ2026ネン?……レーマンには無いな」

「なるほど」


 そうだよね。見た目的に古代っぽいし、西暦みたいな数え方はなかったのかもしれない。

 

 ミサキは、心の中で勝手に解釈をつけて納得した。


 2人は、そのまま無言で歩き続けた。

 しかし先程の自己紹介で、距離が少し近付いたようだった。


「ミサキ!」

 

 そろそろ自宅が見えるかというところで、カイゼリスが少し強い口調で彼女を呼び止めた。

 ミサキが振り向くと、彼は小学校の隅に佇むSL機関車を見つめている。

 よく見ると、槍と盾も構えていた。


「これは魔物の抜け殻か?」

「えっ?」

「生き物では無いことは分かる。だが……」


 見た目の問題だろうか。

 黒くて、大きくて、確かに魔物っぽいかも?


 でも魔物なんて、この世界にはいない。

 もちろん昔にもいないはずだ。

 

 ——この人は一体、どこから来たの?


 ミサキは首を振って、SL機関車を見た。


「これは乗り物です。私たちはこれに乗って、遠くまで行ったりするんですよ」

「ノリモノ……」

「これはSL機関車と言って、もうだいぶ昔のものです。動きもしません」

「そうか」


 もう動かないという言葉に、カイゼリスは少し安堵したようだった。

 

「はい。それに、この世界には魔物と呼ばれるものはいないんです」

「なに?魔物がいないだと……!」


 カイゼリスは辺りを見回した。

 人通りはなく、車も1台も走っていない。もちろん魔物らしきものも見当たらない。

 しかしその時、遠くからハイビームで走る車が通り過ぎた。

 ミサキは彼の様子を窺う。


「あれは……何だ?」


 カイゼリスは、車の後ろ姿を見送りながら言った。

 通り過ぎる速さに、槍や盾を構える暇もなかったようだ。中途半端な持ち方になっている。

 

「車という乗り物です」

「魔物ではないのだな」

「はい」


 車の説明をすると、彼は盾を背中に引っかけ、槍の石突を地面につけた。

 そして周囲を見渡すと、最後にミサキを見る。

 

「ここは、夜に女一人で歩いても安全なのか」

「はい。安全です」

「そうか」


 カイゼリスはそう言うと、ミサキの横に立った。

 ミサキが歩き出すと、彼も並んで歩き出す。

 

 2人は、先程よりも距離がもっと近くなった気がした。

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