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英雄の帰る場所  作者: ほしのき


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1 出会い

 本当に、本当に少しの偶然が重なっただけだった。

 それなのにまさか、私の人生を変えるような出会いがあるなんて、思ってもみなかった。


「うう、寝過ごしちゃった」


 金曜日の夜。

 仕事帰り、ミサキは電車で寝過ごしていた。

 

 昨夜は遅くまで動画を見ていた。

 海外の長編ドラマで、女性が旅行先で突然時代を遡ってしまい、戦乱の時代で生き恋もするという、波乱万丈な話だった。

 普段なら見ないようなストーリーだったのに、昨夜は何故か見入ってしまった。

 

 なので今日の仕事は、眠気との戦いだった。

 

 いつもは激混みの急行電車に乗るのだが、今日は各駅停車を選んだ。

 それが運の尽きで、ひと駅寝過ごしてしまったのだ。

 たったひと駅寝過ごしただけなのに、この駅から帰宅するには家が少し遠い。

 それにこの駅は、夜になると自宅方面へ向かうバスが走っていなかった。


「ま、今日くらい歩いて帰ってもいっか」


 ミサキはそう呟くと歩き出した。


「たまには夜の散歩もいいよねぇ」


 22時を過ぎると人はまばらで、商店街のお店は居酒屋を残してほぼ閉まっている。

 いつもは1つ前の駅で降りるので、なかなか見ない景色が面白く感じた。

 商店街を抜けて川越街道を渡ると、並木道が続く。

 並木道の途中にあるスーパーでお茶とおにぎりを数個買い、再び歩き出す。


「ここ、久々だなぁ」


 正面に見えるのは樹林公園。

 とても広い公園で、BBQ場もあって土日はいつも混みあっている。

 横にある総合体育館のトレーニングルームはたまに利用しているが、その先の公園まで来るのは久々だった。


 夜の公園は何となく怖い感じがしたが、ミサキは興味津々で入って行く。

 家に帰るのには公園へ入る必要はない。

 だが今日は、何となく散歩したくなってしまったのだ。


 公園へ入ってすぐ右にある屋根付きの建物へ向かう。

 いつもは人が集まっているここも、流石に夜遅いので誰もいなかった。


 ぐうぅ


 夕飯も食べずに残業をして帰ってきたのだ。

 お腹が鳴るのも当然だった。

 彼女はおにぎりを食べようと袋から取り出した。

 その時、


 ガガーン


 建物のすぐ横に突然、雷が落ちた。


「え、何!?何で雷……」


 雨が降っているわけではない。


 恐る恐る雷が落ちた場所を見に行くと、そこに人影が見えた。

 彼女は驚いて駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」

「……」

「あっ……」


 その人物を見て、ミサキは後ずさった。

 見たこともない格好をしている。


 革の鎧、擦り切れたマント、それに槍と盾を持っている。


 まずいと思ったが、声を掛けてしまった手前、逃げるのはおかしな気がした。

 ミサキはゆっくりと距離を取り、もう一度声を掛けた。


「あの、大丈夫ですか?」

「ああ」


 男はゆっくりと立ち上がった。

 黒髪に浅黒い肌、ガッシリとした体躯。

 彫りの深い顔に、鋭いが静かに彼女を見据える茶色い瞳。

 そして右頬には大きな傷があり、前髪にひと房白髪が見える。

 顔はとても良いが、ヘンテコな格好をした男性だ。

 

 しかし、その格好がまた似合っている気がした。

 彼は周囲を見渡し、


「レーマンではないな」


 と呟く。

 そしてもう一度、彼女へと視線を移した。


「ここは樹林公園です」

「ジュリンコウエン……」

「あの、どうしてそんな格好を?」

「……兵士だからだ」


 ミサキの頭の中には疑問符が並んだが、兵士だから鎧を着ていると彼は言っているのだ、と理解した。


「なぜ、雷と共に現れたんですか?」

「わからん」

「そう……ですか……」


 全くもって訳が分からない状態だった。

 だが無事だったのは良かった。


 ——でもこの格好……まるで、この時代の人ではないような。


 そこまで考えて、ミサキは気づいた。


 この人、もしかしたらこの時代の人じゃないのかも。

 だって、突然現れたよね?

 あのドラマみたいに、遡って……いやいや、反対だ。

 時代を飛んで来たとか?


 ミサキが見上げると、彼は静かに自分を見据えていた。

 彼女は悩んだ。

 

 このまま警察へ連れて行っても何も説明できないし、どうしようかな……。

 

 もう一度男性を見る。

 彼は慌ててもいない。

 それどころか、とても冷静に状況を受け入れている。

 武器を持ってはいるが、自分を襲って来ようともしなかった。


 なんか大丈夫そうだし、一旦家に連れて帰ろう。

 それで考えよう。


「あの、私と一緒に来ますか?」

「……いいのか?」

「はい。私もこの状況が気になるので」

「……では、頼む」


 ミサキは頷くと、彼を伴って歩き出した。

 お互い少し距離を取りながら、しっかりとした足取りで歩いていく。


 夜遅くて良かった。

 槍と盾なんて、他の人に見られたら大変なことになるもんね。


 そんなことを考えていた。

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