覇道への一歩
巨大な霊山の麓たるファース西の平原は獣系モンスターの巣窟となっており、お目当てのウルフ以外には巨体の突進が恐ろしいラッシュボア、全長3mを超えるビッググリズリーなど全体的に筋力馬鹿な面々で構成されている。
「この場違い感よ」
そんなパワフルなモンスターに対抗するかのようにこのエリアのプレイヤー達はフルアーマーな戦士が非常に多い。なので俺のような軽装もとい、ただの私服といっても差し支えのない人間は非常に浮いている。キョロキョロと辺りを見回すとウルフがゴッツい大剣を担いだロリっ娘に叩き潰されていた。ふむ……あのプレイヤー、中々できる。
まぁそんなことは置いといて、だ。南部よりレベルの高いこの平原は必然人が少ないわけで…敵はそこら中にいる。悲鳴か血の臭いを嗅ぎつけたのかちょうどよく4匹のウルフの群れが襲いかかってきた。
「アーチャー、射程圏内に入ったらすぐに撃て。ゴブ達はウルフを通さないようにしろ。スライムはゴブにくっついていつも通り窒息か拘束を頼む」
ここに来るまでに練習させていた連携を指示させると同時に群れ全体を鑑定。
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名前:
種族:ウルフ ×3
スキル:爪牙 獣の嗅覚 俊足Lv.1
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名前:
種族:ウルフ
スキル:爪牙 獣の嗅覚 俊足Lv.3 統率Lv.1
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一回り体格のいい奴はやはり群れのリーダーだったようだ。種族はウルフのままだが、他とはスキルの育ち方が段違いだ。改めて自分の仮説が間違いでは無かったことを実感しながらテイムの意志を強く固める。
「デカイ奴に気を付けろ!そいつが頭だ!!」
俺の声に合わせるように発射されたアーチャーの一撃が戦闘の嚆矢となる。それは俺たちから2番目に近い個体に突き刺さるもその速度に衰えはなく。
「ウオーーーン!」
「グギギ!」
「ギャウン!」
咆哮し飛び掛かる相手の鼻っ面にゴブリンAの棍棒が直撃。たまらず地面に着地したウルフにすかさず追撃に出るゴブリンB。その一撃を前肢で防ぐも腰にしがみついて隠れていたスライムがゴブリンの体表を滑るように移動。ウルフの顔にまとわりつく。そしてスライムを払い落とそうとしたウルフの額にアーチャーの第二矢が突き刺さる。
「ガウ!!」
リーダーの一声で遅れて負傷した2匹目と3匹目の動きが突撃から包囲へと変わる。ゴブリン達を呼び戻して俺を中心としてそれぞれを頂点とした三角形で配置。そこからは俺を狙うようにすり抜けようとするのをゴブリン(withスライム)が抑え込み、焦れて飛び越えようとすればアーチャーの射撃を警戒したリーダーウルフによって制される。
そんな事が何度か繰り返されると、仕留めたウルフの亡骸をちゃっかり吸収したスライムも戦線に復帰。これで単純な頭数ではこちらが有利となったが……さて。
「そんな怖い顔して、レディーのキレイな顔が台無しだぜ?」
「グルルル……ガアア!!」
「「ガウァ!!」」
「…っと、つれないねぇ」
どうやら軟派な男はお気に召さないご様子で。女王様の号令により包囲網は急速に狭まって攻撃の密度が増す。スライムとアーチャーを警戒しているせいか深く攻めてくることはないが、被害度外視でこられればいつ破られてもおかしくはない。
(まぁ、布石は既に打っているがな)
「窮地なんてのはもう十分さ」
そう呟いた瞬間、包囲網の一角がぐらりと崩れ落ちる。倒れ伏したのは最初に矢を打ち込まれた方のウルフだ。思いも寄らぬ出来事に目を奪われるウルフ達。驚愕は一瞬であれど、意識と身体に刹那のように短い空白が産まれる。
パシュン。
弓弦の震える音がその空白に入り込み、回避が遅れたリーダーウルフの土手っ腹に突き刺さる。リーダーの雄叫びで更に困惑したもう1匹のウルフは、ゴブリンの袋叩きによって鳴き声を上げる間もなく絶命した。その間にもアーチャーの射撃は続いており、2発目が彼女に命中していた。
思うように力の入らない脚で精一杯踏ん張りながらこちらを睨み付ける気丈な女王様のもとではなく動けなくなったもう1匹のウルフの元へ足を向ける。
俺が何をやったのか?答えは簡単──毒矢だ。
解毒薬の素材納品クエストで余った痺れ草や毒草を煮出して作った毒液にアーチャーの矢を漬けて作ったお手製の毒矢。濃度を高めて作っていたのでそれなりの効果のものが出来たのではないかと自負している。リーダーには麻痺矢を通常ウルフには毒矢を打ち込んだ。
だらしなく舌を垂らしてグッタリとした様子のウルフに解毒ポーションをかけながらテイムする。売れても二束三文、食べる気にもなれずで余っていたゴブリンの肉をいくつか与えておく。
振り返ってもまだ彼女はその四つの脚で大地を踏みしめて眦をつり上げていたが、この場を覆せる手段がないと判断したのか頭を差し出すようにその場に倒れ込んだ。
「テイム」
詠唱と共に見えないパスが俺たちの間を繋いで契約が完了する。
「これからよろしく頼むぜ」
少しゴワゴワした毛を撫でながら同じように治療を施していく。
(俺が直接手を下していないという部分では合格。しかし─)
俺が目指すのは圧勝。誰がどう見ても分かる、絶対的なまでの力の差を見せつけるような。戦場の全てを統一したような圧倒的な存在。それには未だ遠く及んでいないのだ。
こうして俺は新たな仲間を手に入れ、更なる戦力の増強の為のチャートを立てるのであった。




