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太陽の姫君  作者: おきょう


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24/24

24 エピローグ

「はいどうぞ。フレディック様。」


アイラスが豊満な胸と高い位置で結ばれた赤い髪を揺らし、からかう様な含み笑いで椀を差し出す。


「はい、お薬ですよー。」


アイラスの手に小さな手を添えて一緒に椀を持つリーナは、中身をこぼさないように真剣な表情だ。


「あぁ…。」

「さぁ、王子。ぐいっとどうぞ!」

「ぐいっと!」


ベッドに上半身を起こして彼女達の差しだす椀を受け取ったフレディだったが、緑色の液体に思わず顔をしかめてしまう。

薬を前にすると毎日アイラスの薬の実験体にされていた頃の記憶がどうしても蘇り、口の中が苦くなるのだ。

この医者のおかげで、フレディとローザは大の薬嫌いになってしまった。

きっと一生薬嫌いは治らない。


「……。」


ちらりと横を振り向くと、リーナの青い瞳がじっとこちらを見つめている。

どうやら飲み干すまで見張っているつもりのようだ。


息を止め、においをかがないように注意して。

目を閉じると一気に椀をあおった。


「くっ…!」


口に広がる苦みを一刻も早く流すため、急いで飲み込んだ。


「……っ、ふう。」


(やった。飲んだぞ。今日のノルマは終わりだ!)


一日二回の薬の時間。

今日の二回目の試練を終えたフレディは変な達成感を感じながら口角を上げる。

大げさな反応のフレディにアイラスは呆れながらも、次の患者の元へ行くために腰を上げた。


「さて、次はローザ様ですね。あちらもなかなか大変そうです。」

「ローザの調子はどうだ?」


一昨日の夜以降、まだ会っていない臣下の様子が気になって訪ねてみた。

ローザの住まうナスラの屋敷は王城の外にある。

しかし現在は怪我の療養のため、太陽宮廷の一室に滞在しているようだった。


「ほとんどが浅い切り傷ですからね。今日明日にでもこちらにお顔を出せると思いますよ。むしろフレディック様のほうが重傷です。」

「そ、そうか…。」

「ま、言ってもフレディック様の場合は過労のようなものですし。栄養補助して休息取れば問題はありません。つまりお二人とも心配無いのでごちゃごちゃ言わず休んでください。」

「はい。」


…あの後、目を覚ました後のフレディの体調は最悪だった。


『治癒』という本来人間の身で行えるはずのないことを成した身体は悲鳴をあげ、体力を使い果たしたかのような疲労感と、指の一本も動かせない倦怠感。

たっぷり睡眠を取った現在も、ましにはなったとは言え倦怠感は続いていた。


恐らくあと2・3日はベッドの上で過ごすことになるのだろう。


「では(わたくし)はこれで失礼いたします。また明日お伺いしますわ。」

「あぁ、御苦労だった。」

「先生、さようなら。」


アイラスがフレディの寝室を後にすると、部屋に残されたのはフレディとリーナの2人きりになる。

息を付いたフレデイだったが、もぞもぞと動く金色の頭に首を傾げた。


「…?何をしてる?」

「よ、いしょ…っと。」


リーナがベッドに乗り上げ、シーツをかき分けてフレディの枕元まで這ってやって来た。

侍女のマリーが居れば行儀が悪いと説教されることは間違いないだろう。


フレディの枕元にまで這ってくると、リーナは腰を落としてそこに座り込む。

そしてフレディの枕を軽く何度か叩いて張り切った表情で言うのだった。


「はいっ、寝て!」

「は?」

「びょうきの時に一人は寂しいでしょう?だから一緒にいてあげるの。」

「あー…。そういう事か。」


つまりはリーナがフレディを寝かしつけてくれようとしているのだ。

どうしたものかと思案するものの、張り切った様子のリーナに気おされてフレディはしぶしぶベッドに横になる。

まだ身体がだるいのは本当で休息が必要なのは誰の目にも明らかだった。


「……じゃあ、頼む。」

「うん!」


そっと目を瞑ると、傍らから伸びた優しい手の感触が髪を撫でてくる。

幼いころ父母が同じように頭を撫でながら寝かしつけた時と同じ、暖かくて安心できる感触だ。


フレディの柔らかい『茶』の髪を撫でながらリーナは呟く。


「戻っちゃったね。似合っていたのに。」

「…似合っていたか?」

「うん。綺麗だった。」


あの銀色の髪は翌朝には元の薄い茶色に戻っていた。

見た目には、以前と何も変わらない。


「でも、見えるから。」


ぼやけ始めた思考の中、フレディはうっすらと紅い目を開けて宙を見る。

その目は周囲に漂う可憐な精霊達を映していた。


「リーナには、こんな風に映っていたんだな。」


始めてみる精霊の存在する世界は、とてつもなく綺麗で、感動さえした。

今まで濁っていた視界が、ぱっと鮮明に開けたような感覚。

ずっとそこにあったのに、これまで全然見えなかったことが口惜(くちお)しい。


「カルア先生がね、今度からはフレディも精霊術の授業に参加するようにって。」

「う…。」


精霊術の勉強は良いとしても、あの冷たい目をもった教師の傍に行くのは少し気遅れた。


「だいじょうぶ。先生はやさしい人だから。」

「……。」


あまり大丈夫そうではない「大丈夫」に突っ込みは入れず、フレディは再び目を閉じる。

相変わらず撫でてくれる優しい手の感触に徐々に眠りに落ちそうになる。


「フレディ?」

「んー?」

「ありがとう。」

「……俺は何も、していない。」

「ううん。兄様をたすけてくれたわ。」

「……。」

「私ね、兄様ときちんとお話するの。分かりあえるように。兄様のことをもっと良く知るために。だって何をされても兄様のことを嫌いになんてなれないのだもの。」

「そうか…。」


カルアが抑えている限り、クラウスがリーナに危害を加える可能性はほぼ無いと断言出来た。


彼にどんな裁きが下されるのかはまだ分からない。

軽い罰では済まされないだろう。


しかし殺人を犯したわけでも無く、なにより標的になったリーナ自身が訴える気を持っていない事が大きく酌量され、現状で死刑になる可能性は少なかった。


彼ら兄妹が話し合う時間は何日でも何年でもある。

可能性は限りなく低いが、ひょっとすると分かりあえる日が来るのかもしれない。


「…まだ人を信じられるなんて、お前は強いな。」

「そう?」

「あぁ、凄い。ほんとうに…。」


信じられる人間が酷く少ない立場に居るフレディには、リーナのどこまでも人を信じる真っ直ぐさはもう絶対に持てはしない。


小さな手のぬくもりに癒されて、柔らかく笑いながら、フレディは深い眠りに落ちて行く。

寝息を立て始めたフレディの安らかな顔を見つめ、リーナは笑みながら思う。



(私が強くなれるのは、きっと…。)



いつだって傍にいて守ろうとしてくれて。


大切に大切にしてくれる、最愛の家族よりも愛しい存在が。


きっと一生離れることは出来無いだろう王子様が。

ここに居るからなのだろう。



「…フレディ、ありがとう。だいすき。」


こころを込めて、眠る彼にそうっと呟いた。



幼い少女に芽生えた小さな恋心。


今はまだ小さなその感情は、いつの日か大きく色を付けて実り。



-------彼女は王となる彼を支える、柱となる。





 

完読下さりありがとうございました。


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