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追放された魔術師は、神に観測されながら暮らしている〜生活魔法しか使えないのに、加護が止まりません〜  作者: 灰音 澪


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第57話 歌い手の消えた街

 王都の朝は、綺麗すぎる。


ゼノは馬車の窓から外を見て、最初にそう思った。


石畳は朝のうちに水が打たれ、埃一つ立たない。道の端には花が置かれ、店先の看板はどこも磨かれている。人の服も、歩く速さも、笑い方まで、妙に整っていた。


整っているのに、息が詰まる。


綺麗な顔をして、何かを隠している街だった。


向かいに座るラウスは、窓の外を見ない。最初から真っ直ぐ前だけを見ていた。


「……やっぱり嫌いですか」


ゼノが聞くと、ラウスは少しだけ目を向けた。


「王都ですか」


「はい」


「嫌いとまでは申しません」

ラウスは淡々と答える。

「ですが、長くいると“何を言わないか”ばかり覚える場所です」


ゼノは小さく笑った。


「それ、かなり嫌い寄りですよ」


「そうかもしれません」


今回はゼノ一人ではない。レオニスの名を表に出さず、ラウスだけが同行している。


理由は簡単だった。


イグニスの過去を掘るなら、王都の中を歩ける足と、余計な目を逸らせる顔が要る。ゼノは場を読むのは得意だが、王都の流儀までは知らない。そこはラウスの仕事だった。


そしてもう一つ。


レオニス自身は来なかった。


来れば話が早いこともある。だが、今回ばかりは来ない方がいい。王子の影が差した瞬間、口を閉ざす人間が増える。逆に、王子に媚びて余計な嘘を足す人間も出る。


だから今日は、王都の中で静かに腐ったものを拾う日だ。


 馬車が止まる。


「着きました」

ラウスが言う。


降りた先は、劇場街から少し外れた古い石造りの通りだった。賑やかな表通りとは違う。音楽院関係者や、古い楽師、引退した教師、そういう“表から半歩退いた者”が住み着く区域だという。


「最初の相手は?」

ゼノが聞く。


「元音楽院の記録係です」

ラウスが短く答えた。

「金で動く人間ではありません。ですが、昔の名簿と演目記録を頭に入れている」


「口は堅い?」


「堅いです。だから嫌われた者の話も、好かれた者の話も、同じ声でします」


「いいですね」

ゼノは言う。

「そういう人、好きです」


「私は苦手です」


「何でです」


「嘘が通じないので」


それには、ゼノも少しだけ笑った。


 ――


 細い階段を上がった二階。

呼び鈴はなく、木の扉を三度叩く。


間があった。


「……誰だい」


中から、擦れた女の声がする。


「ラウスです。久しいですね、ミレナ殿。少し、お話を伺いたく」


扉の向こうで、何かが動く音。

鍵が外れた。


出てきたのは、年老いた女だった。背は低い。髪はほとんど白い。だが、目だけが妙に若かった。人を見て、覚えて、比べてきた目だ。


「王都の犬が、朝っぱらから何の用だい」


ラウスは顔色一つ変えない。

「今日は、王都の犬としてではなく、昔の記録を知る方に」


「嫌な言い方だね」

ミレナは言って、それからゼノを見た。

「で、その綺麗な顔の若いのは?」


「ゼノです」


「ふうん」

ミレナの目が細くなる。

「王都の顔じゃないね」


「よく言われます」


「褒めてないよ」


「大丈夫です。慣れてます」


少しの沈黙。


それから、ミレナは扉を広く開けた。


「入んな。立ち話で済む匂いじゃない」


室内は紙と薬草の匂いがした。本棚と箱と書類で埋まっている。だが散らかってはいない。全部、どこに何があるか本人だけは分かっている部屋だ。


ゼノたちが座ると、ミレナは湯を入れた。茶ではない。ただの白湯だ。


「まず聞こうか」

老女は向かいへ座る。

「誰の何を知りたい」


ゼノは回りくどくせずに言った。


「イグニスという鍵盤弾きと、カイル・ヴェルナーという作曲家について」


ミレナの手が、そこで一度止まった。


ほんの少しだけ。

でも、止まった。


「……ずいぶん古い腐りものを持ち出したね」


「知っているんですね」


「王都で長く記録を見てりゃ、嫌でも耳に入る」

 ミレナは白湯を口に運ぶ。

「ただし、その二人だけじゃ済まない話だよ」


ゼノは黙って待った。


ミレナはラウスを見た。

「これは王子の耳にも入るのかい」


「必要なら」


「必要じゃなくても入る顔してるね、お前は」


ラウスは答えなかった。それが答えみたいなものだった。


ミレナは深く息を吐く。


「イグニス……昔の名じゃないね」


「はい」

ゼノが答える。

「今はそう名乗っています」


「そうかい」


老女は少しだけ目を細めた。

それから、遠い記録を引き出すみたいに言った。


「ルシアンは、確かにいた。田舎から上がってきた鍵盤の子だ。読み書きや立ち振る舞いは荒かったけど、耳と指だけは最初からおかしかった」

少し笑う。

「教師連中は“磨けば光る”じゃなく、“最初から妙な光り方をしてる”って言ってた」


「カイルは?」

ゼノが聞く。


「優等生だよ」

ミレナは即答した。

「家柄も良くて、受け答えも良くて、見栄えも良い。教師受けも、貴族受けもいい。ああいうのは王都だと強い」


「才能は」


「あるよ」

ミレナの声は冷たい。

「だから厄介なんだ。全くの空っぽなら、あそこまで食えない」


ゼノは小さく頷いた。


それも予想通りだった。自分で立てる人間ほど、他人の一部を取り込んだ時に強くなる。全部他人頼みの人間は、逆にあそこまで綺麗に奪えない。


「二人が組んでいた時期がある」

ミレナは続ける。

「当時、院の中でも目立ってたよ。家柄のある作曲家と、妙な鍵盤弾き。見栄えのいい並びだ」

少し間を置く。

「でも、途中から“音の出どころ”について囁く者はいた」


ゼノの目が少しだけ鋭くなる。


「証拠は」


「ない」

ミレナは切った。

「証拠になるものは、残らなかった。いや、残させなかったのかもね」


やはり、そこだ。


噂はある。違和感もある。だが、決定打になる紙や譜面は消えている。


「ソフィアという歌い手は?」

ゼノが聞く。


今度は、ミレナがはっきりと顔をしかめた。


「……そっちまで出るか」


「重要ですか」


「重要なんてもんじゃない」

老女は吐き捨てるみたいに言った。

「その名を出すなら、あんたたちは“曲の盗り合い”の話をしてるんじゃない。もっと下品で、もっと汚い話だ」


ゼノは黙った。ラウスも口を挟まない。


ミレナは白湯を置く。


「ソフィアは歌い手だった。喉が良かっただけじゃない。舞台の空気を飲んで、客の呼吸を返すのが上手い子だった」

少し目を伏せる。

「でもね、あの子の一番の強みは、媚びなかったことだよ」


その言い方に、ゼノは少しだけ惹かれた。


媚びない女。

王都では生きづらい。

だからこそ目立つ。


「劇場から声がかかった」

ミレナが続ける。

「大きな箱だよ。そこへ上がれば、王都で名前が出る。けど条件が悪かった。歌う曲も衣装も、男受けする顔も、全部向こうが決める契約だった」


「断った」


「そう」

ミレナは頷く。

「で、そこからよ」


声が一段、低くなる。


「断られた男ってのは、面倒なんだよ」


ゼノは、少しだけ目を細めた。


「男?」


「劇場の支配人補佐だ」

ミレナは言う。

「名前はグレイス。見た目は上品、喋りは丁寧、中身は腐ってる。カイルの家とも繋がりがあった」


なるほど、とゼノは思った。


線が見えてきた。


カイル。劇場。家。ソフィア。ルシアン。


人間関係が、ちゃんと泥になっている。


「グレイスはソフィアを欲しがった」

ミレナの声は、ますます冷える。

「歌を、じゃない。ソフィア本人をだ」


ラウスがわずかに眉を動かす。ゼノは何も言わない。


「囲い込みたかったのさ。舞台でも、裏でも、自分の手の中に置きたかった」

ミレナは吐き捨てる。

「けど、ソフィアは断った。舞台のために身体まで売る気はないってね」


ゼノの指先が、卓の下で少しだけ強く組まれた。


「それで噂を回した」


「そう」

ミレナは頷く。

「“扱いづらい”“男を振り回す”“舞台を私物化する”――そのくらいなら、まだ可愛い方さ」

そこから先の声が、さらに低くなる。

「本当の汚れは別にあった」


ゼノは身じろぎ一つしない。


「王都の劇場は、歌だけで回ってるわけじゃない」

ミレナが言う。

「後援する貴族がいる。金を出す商人がいる。舞台を育てた顔をしたがる男が山ほどいる」

白い指で机を叩く。

「その連中が、歌い手を“可愛がる”場があるんだよ」


部屋の空気が、そこで一段冷えた。


「宴ですか」

ラウスが低く聞く。


「そうさ」

ミレナは言う。

「でも、ただ歌わせるだけじゃない。酒を注がせる。膝に座らせる。夜の席に残らせる。呼ばれたら断れないように、先に舞台を与える」薄く笑う。

「綺麗な言い方なら、“後援者との関係づくり”だね」


ゼノは、口の奥に苦いものが広がるのを感じた。


「カイルも知ってたんですね」

ゼノが言う。


「知ってたどころじゃない」

ミレナは即答した。

「あいつは歌い手を“王都向けに整える側”だった。高い声を残せ。土臭さを削れ。目を流せ。笑いを薄くしろ。宴で貴族が好む女に近づける」

鼻で笑う。

「作曲家様って顔でね」


ゼノの背筋に、嫌なものが走る。


「ソフィアは、それも断った」

ミレナが言う。

「歌うだけならまだしも、その先まで差し出す気はないってね」


「だから危なくなった」

ゼノが静かに言う。


「そうさ」

ミレナは頷く。

「断るだけなら、気難しい女で済んだかもしれない。だが、あの子は中身を知った。誰がどう流されてるか、どうやって“自分で選んだ”形にされるか、その辺りまで見ちまった」


ゼノは目を細めた。


 “自分で選んだ”形にされる。


その言い方が、ひどく生々しい。


「最初は相談だよ」

ミレナが吐き捨てるように言う。

「歌のこと。喉のこと。舞台の見せ方。客の呼吸の掴み方。優しく近づいて、見てもらえてる気にさせて、それから少しずつ首輪を締める」

冷たい目がゼノを射る。

「王都は、力づくよりそっちの方が上手いんだ」


ゼノは、そこで初めて前世の記憶が嫌な角度で疼くのを感じた。


ある。

そういうやり方はある。


表から見れば自分で選んだようにしか見えない。

でも、本当は断るたびに何かが減っていくように作られている。


「ソフィアはそこに乗らなかった」

ミレナは言う。

「だから邪魔だった。しかも、ルシアンの曲を歌った夜があった。あれで余計に目立った」

視線が少し遠くなる。

「王都ってのは便利だよ。一度、女の方に“気難しい”札を貼れば、男はだいたい無罪になる」


最悪だった。


しかも、ありがちな最悪だ。

だから余計に腹が立つ。


「ルシアンは?」

ゼノが聞く。


「巻き込まれた」

ミレナは即答した。

「というか、巻き込まれに行った半分、巻き込まれた半分だね」


老女はゼノを見た。


「ルシアン、あの頃はまだ甘かった。音に関しては鋭かったけど、人の腐り方には鈍かった」

少しだけ哀れむみたいに言う。

「ソフィアを助けたかった。でもカイルとも切れない。自分の曲を通したい欲も、恩義も、恐れも、全部ぐちゃぐちゃで、結局どっちにも半端だった」


ゼノは目を伏せた。


それは、かなりきつい。

自分でも分かっていて、一番嫌いな自分だろう。


「で、ある夜、やらかした」


「酒場の夜ですか」

ゼノが聞く。


ミレナは少しだけ目を細めた。


「知ってるのかい」


「断片だけ」


「じゃあ、そこまでだ」

ミレナは言った。

「その夜の細かいことは、あたしの記録じゃなく、酒と煙の中に残ってる話だよ。あたしが知ってるのは、その夜のあと、一気に空気が悪くなったってことだけだ」


「悪く」


「ソフィアを表に出すな、って顔が増えた。ルシアンにも院の外で口を開くなって圧がかかった。カイルはその中で“中立”の顔をしてた」

薄く笑う。

「“落ち着いて話そう”“誤解がある”――そういう顔だよ。火をつけた側が、一番先に水桶持ってくるんだ」


ゼノは、そこで拳を握りたくなるのを抑えた。


カイルだ。

その顔が、あまりに想像しやすい。


「ソフィアは、そのあとどうなったんです」

ゼノが聞く。


ミレナはそこで初めて、ほんの少しだけ迷った。


「……消えたよ」


「王都を出た」


「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」

ミレナは首を振る。

「はっきり言えるのは、表向き“消えた”ってことだけだ。部屋も噂も、綺麗には片づいていない」


「死んだ可能性も?」


「ある」

ミレナは言う。

「ただ、あたしは断言しない。断言できるだけのものを、誰も残してないからね」


死んだかもしれない。

生きてるかもしれない。

その半端さが、一番人を腐らせる。


ゼノは、胸の奥に嫌な音が溜まっていくのを感じた。


「ソフィアを逃がした人間がいる可能性は」

ラウスが低く聞く。


ミレナの目が、そこで少しだけ細くなる。


「あるだろうね」


「誰か、当たりは」


「さあね」

ミレナはそっけなく言った。

「あたしは記録を見る側だ。夜の扉を開ける側じゃない」

少し間を置く。

「ただ、あの子を本気で逃がそうとするなら、王都の表側の人間には無理だよ。下の方でまだ人間をやってる連中じゃないとね」


その言い方が、ゼノには妙に引っかかった。


王都の下でまだ人間をやってる連中。


いるのだ。

腐った仕組みの中にいて、それでも完全には腐らない側が。


「誰に聞けばいいです」

ゼノが聞く。


ミレナは、そこでようやくはっきりと答えた。


「酒場だよ」


「酒場」


「王都の外れにある、小さな店さ。ソフィアがよく歌ってた。ルシアンも来てた。あの夜のことを知るなら、そこしかない」

少し目を伏せる。

「店主は口が悪いが、あの子がどういう顔で歌ったかは忘れてないはずだ。給仕の娘もいた。今もいるかは知らないけどね」


「そこへ行けば、ソフィアの消え方が分かる」


「少なくとも、あたしよりは近い話が聞ける」


部屋の中が静かになる。


外では王都の車輪の音がする。

綺麗な街は、今も何事もない顔で回っている。


でも、その下にこういう話が流れている。


歌い手を貴族へ回す劇場。

優しい顔で首輪を締める男。

名前を奪われた鍵盤弾き。

媚びなかったせいで危なくなった歌い手。


綺麗すぎる街には、やっぱりその分だけ汚れが沈んでいる。


「一つだけ忠告しとくよ」

ミレナが言った。


「何でしょう」


「ルシアンの過去を掘るなら、綺麗に助けてやろうなんて思うな」

老女の目は鋭かった。

「手遅れな部分がある。助けるんじゃなく、今あるものを守る方を先に考えな」


ゼノは、静かに頷いた。


「はい」


それだけでよかった。


ミレナは、そこでようやく少しだけ背を椅子へ預ける。


「で」

今度は少し軽い声で言った。

「若いの」


「はい」


「お前、王都の顔じゃないって言っただろ」


「はい」


「それ、悪くないよ」


「褒めてます?」


「半分だけ」


ゼノは少しだけ笑った。


「じゃあ、残り半分は?」


「余計なものまで拾いそうな顔してる」

ミレナは言った。

「王都じゃ、そういう顔の方が長生きしない」


「じゃあ、気をつけます」


「無理だろうね」


その即答が、妙に可笑しかった。

でも、可笑しいだけでは終わらない。


ミレナはもう一度、白湯を飲んでから低く言った。


「グレイスとカイルだけ見て終わるなよ」


ゼノの目が少しだけ鋭くなる。


「どういう意味です」


「王都の汚れは、前に立つ奴だけじゃ回らない」

ミレナは答えた。

「帳面を握る奴。推薦を回す奴。誰をどこへ出すか決める奴。そういうのが後ろにいる」

指先で机を軽く叩く。

「人を喰う時に、一番汚れないのはいつだってそっちだ」


その言葉が、ゼノの胸の奥に小さく沈んだ。


表の汚れだけでは終わらない。

まだ奥がある。


だが、今はそこまで手を伸ばさない。


まずは酒場だ。


ソフィアがどう消えたのか。

誰が最後に見たのか。

ルシアンがどこで何を取りこぼしたのか。


そこを知らないと始まらない。


 ――


 ミレナの部屋を出たあと、王都の空は妙に高かった。


でも、空気は少しも軽くない。


「……思った以上でしたね」

ラウスが言う。


「はい」


「どうします」


ゼノは少しだけ歩きながら考えた。


イグニスに全部そのまま返すか。

まずソフィアの痕跡を探すか。

カイルを先に潰す手を考えるか。


どれも間違いじゃない。

でも順番がいる。


「まず、酒場へ行きます」

ゼノは言った。

「ソフィアが本当に“消えた”のか、そこを見ます」


「生きていると思いますか」


「分かりません」

ゼノは答える。

「でも、ここで一番消えてないの、ソフィアなんですよ」


ラウスが少しだけ眉を動かす。


「消えてない」


「はい」

ゼノは言った。

「誰の話にも、ソフィアが残ってる。そういう消え方って、たぶんちゃんと終わってない」


ラウスは数歩だけ黙ったあと、小さく頷いた。


「確かに」


石畳の道を歩く。

王都の人波を縫う。

綺麗な街の下には、やっぱり汚いものが流れていた。


でも、もう見えている。


誰が何をしたか。

誰が見て見ぬふりをしたか。

そして、どこがまだ腐りきっていないか。


ゼノは、遠くの空を見た。


イグニスの過去は、思っていたよりずっと面倒だった。

ソフィアという女の名は、まだ生きている。

カイルは王都で綺麗な顔をしている。

グレイスは上にいる。


なら、こっちも綺麗にはやらない。


少なくとも、もう後手では動かない。


「ラウス」


「はい」


「王都って、本当に気持ち悪いですね」


ラウスは一拍置いてから答えた。


「ええ」


「でも、ちょっとだけ好きになりそうな場所もあります」


「どこです」


「下の方でまだ人間やってる連中、ってところ」


ラウスが少しだけ口元を動かした。


「同感です」


王都の朝は綺麗すぎた。

だが、その綺麗さの下で、まだ完全には腐っていない人間もいる。


その可能性がある限り、掘る意味はある。


ゼノは小さく息を吐いた。


次は酒場だ。


そこで、もっと汚い夜の話を聞くことになる。


――――

次回

 第58話 歌い手は、消えたんじゃない

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