第3話 「神ミッション発生――家を建てろ」
村は穏やかさを取り戻し、人々が恐る恐る外に出てくる。
やがて誰かが叫んだ。
「本当に倒したの……!?」
その声をきっかけに、空気が弾けた。
歓声が広がり、
俺が魔獣を倒したと、村中の人が歓喜した。
退治した猪の魔獣を長老の家まで運び、明日、その肉で俺の歓迎会をしてくれる事になった。
帰り道、ガルドがお礼も兼ねて、夕食に誘ってくれた。
奥さんのミレイさん、娘のカナンちゃんの3人暮らしで、ガルドも一度は街に出たが、男手の少ないこの村に戻り、今は農業で生計を立てているらしい。
テーブルに並んだ料理を見て、俺は言葉を失った。
湯気の立つスープ。
焼きたての野菜。
香ばしいパン。
乾パンしか食べていなかった俺は、一口食べた瞬間、胸がじんわり熱くなった
「ミレイさん。凄く美味いです。心が癒されました」
ミレイは柔らかく微笑んだ。
《コメント:波乱こい》
《コメント:そこで未亡人ルート》
《コメント:やれ》
(いやいやいやー、さすがにそれしたらクズっしょ)
《《同時接続数:67 → 72 → 78》》
《コメント:クズこいー》
(こいつらやば……)
――
小屋に戻り、水を飲もうと水袋を手にすると、もう殆ど残っていなかった。
ガルドの家で水を貰えば良かったと、
改めて後悔した。
一か八か、(水よ増えろ)
そう念じ、手を当てた。
水袋が、わずかに震えた。
次の瞬間――
内側から膨らむように、水が満ちていく。
「……嘘だろ」
ゼノは、無詠唱で魔術が使える事が、
すごい事なのだと、この時は知らなかった。
《コメント:水だけで驚いてる〜爆笑》
《コメント:初心者すぎて、ウケる》
(バカにされてんのか?)
――
次の朝、長老の家に行くと、今はブラッドボアを捌くのが忙しいので、歓迎会の時に、話をしようとなり、ガルドの畑に向かった。
ガルドは収穫後の畑を耕していた。
「おはようございます。ガルドさん、何かお手伝いする事はありませんか?」
「助かるよ。悪いが隣の畑をこの鍬で耕してくれないか」
「分かりました」
隣の畑、というが、かなり広い。
鍬を振りかざし、進んで行くが、途方もない。
(まぢかよ。俺……力仕事無理だ……)
《視聴者:79》
《コメント:見ろよ。あの顔。ウケる》
《コメント:頑張る姿は美しい》
《コメント:効率悪いーー》
(散々な言われ方だな……)
次の瞬間、柔らかな光が空から降りてきた。
本能が理解する。
危険ではない。
光は静かに俺を包み込んだ。
《汝に加護を与える》
低く、深い声。
《生活魔法の加護を付与しました》
《創造補助を解放しました》
《魔力効率が上昇しました》
体の奥に、熱が満ちる。
試しに水を思い浮かべる。
空間がわずかに歪み、両手を近づけると水球が生まれた。
「……本当に出た」
《視聴者:80》
《コメント:またショボ》
《コメント:生活チート》
「誰だ、お前らは……」
だが、不思議と嫌ではない。
だだっ広い畑。鍬なんかで追いつくはずがない。
(てか俺が無理)
前世、父親の田舎に帰ると、祖父がトラクターに乗って畑を耕していた事を思い出した。
イメージする。
柔らかく耕された大地。
両手に念を込めて地面に手を付ける。
すると、硬かった土が波のように動き、一瞬で耕された。
そして地面を撫でながら、綺麗に並んだ畝を想像すると、均等に整った畝が盛り上がってきた。
様子を見に来たガルドが絶句する。
「ゼノがしたのか?」
「はい……」
汗一つ流さず答えた。
――
長老の家の近くの広場に、机と椅子が並べられ、
村の女性達が、ゼノの歓迎会の準備をしていた。
辿り着く前から、良い匂いが漂い、
湯気の立つ料理が次々と並べられていく。
焼いたブラッドボアの肉に香草のスープ。
干し肉ばかりだった村人達は、久しぶりのご馳走に喜んだ。
その時――
長老とガルドが、両腕で抱えるほどの大きな木樽を運んできた。
ゼノは目を丸くする。
「……酒ですか?」
長老は穏やかに頷いた。
「この村で仕込んだ果実酒じゃ。歓迎の席にはこれが一番ふさわしい」
栓が抜かれると同時に、甘く深い香りが広場に広がった。
村人達がどよめく。
「ああ、この匂い……!」
「やっぱりたまらないわ」
「前に飲んだの、いつだったかしら……」
ゼノがカップを受け取りながら尋ねる。
「村で、お酒を作っているんですか?」
長老は静かに答えた。
「今は細々と、だがな」
ガルドが苦笑する。
「俺が子供の頃は、山に果実が溢れるほどなってたんだ。仕込んでも仕込んでも追いつかないくらいにな」
女性の一人が続ける。
「収穫の季節は村中が甘い匂いでいっぱいだったのよ」
長老の表情がわずかに曇る。
「……だが魔獣が山に入り込んできての。果実を食い荒らされ、木も倒され、収穫は十分の一以下になってしまった」
ゼノは眉をひそめた。
「酷い……」
「だが、王宮にだけは、今も納めておる。」
ゼノの動きが止まる。
「今も?」
「今は量はわずかだが、『この酒だけは絶やすな』と、王宮にだけ出荷しているんじゃ」
村人の一人が少し誇らしげに言う。
「祝いの席には欠かせないらしいのよ」
ガルドが肩をすくめた。
「だから他に回す分がほとんど無い。俺達ですら滅多に飲めないんだ」
長老は樽に手を置いた。
この一本も、本来なら王宮に納めるはずの酒だったが……今日は特別じゃ。村を救ってくれた礼だからな」
ゼノは一口飲む。
濃い果実の甘み。澄んだ後味。
思わず息が漏れた。
(……うまい)
《コメント:王宮案件きた》
《コメント:これ絶対伏線》
――
村長が、捌いた魔獣の皮をゼノの物だと、渡してくれた。街で売れば少しくらいの金になるらしい。
久しぶりの酒を味わいながら、ガルドは、今日畑で起きた出来事を村長に話した。
どこも男手がいないので、仕事になるかもしれないと、集まっている村人に、話してくれ、
隣村にも宣伝してくれると言ってくれた。
《コメント:よっ耕し屋》
《コメント:仕事ゲットしたぞ》
《生活魔法の適性が微増》
気づいたのだが、この村の女性や、子供は、レベチな顔立ちだ。
《コメント:きたーハーレム》
《コメント:女たらし希望www》
(おいおい……)
――
その夜、俺は整理した。
時々現れるガラスのように透き通った画面と、脳裏に浮かぶ文字。
《視聴者:》
《コメント:》
《投げ加護》
(どう考えてもアレだよな)
(で、誰かに見られてる、よな)
《コメント:バレてるwww》
「という事は、面白くすれば?」
「と言っても、金も無いし……仕事からかよ……」
――
村長が隣村にも声をかけてくれたおかげで、調子良く仕事の依頼が来た。
金銭だけでなく、食事をご馳走してくれたり、「お腹が空いたらいつでも、いらっしゃい」と村中の女性から声を掛けられた。
《コメント:ハーレム希望》
《コメント:ヒロイン欲しい》
――
その夜。
横になった瞬間、視界に文字が浮かぶ。
《神A:5000加護》
《期間限定ミッション発生》
《【3日以内に家を建てよ】》
《報酬:結界魔法》
《未達成の場合、加護の一部を剥奪します》
「いや無理だろ」
《コメント:逃げるな》
《コメント:神案件だぞ》
《同時接続数:81 →158 → 356 》
《コメント:初案件》
《コメント:期間限定だぞ》
《同時接続数:420 →685 → 751 》
(なんか、勝手に盛り上がって来たな……やるしかないか……)
良いアイデアが思いつく訳もなく、そのまま眠りについた。
――
次の朝。
(家か……)
「とりあえず、屋根と壁があれば家だよな?」
《コメント:何言ってんだこいつ》
《コメント:でた、適当》
――
この時のゼノは、まだ気づいていなかった。
自分の作る家が、神々の間で“伝説の配信”と呼ばれることになるとは。
――――




