↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された魔術師は、神に観測されながら暮らしている〜生活魔法しか使えないのに、加護が止まりません〜  作者: 灰音 澪


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/104

第4話 酒樽一つで家を建てたら、神々が祭りになった

ゼノは長老の家の扉を叩いた。

 

「長老。いますか?」


「どうした。ゼノ」


(小屋を直すだけじゃ足りない)

(見せるなら、一発で“違う”と思わせる方がいい)

 

「使っていない大きな樽を譲ってください」


「樽?……何に使う」


 ゼノは迷わず言った。


「家を作ろうと思っています」


「家じゃと!?」

 

長老の口が、大きく開いた。

(前世なら、ここで入れ歯が飛ぶやつだ)


〈コメント:酒樽www〉

〈コメント:発想が蛮族〉

〈コメント:屋根あれば家理論きた〉


《神B、神Cが入室しました》

《視聴者数:2,980》


〈コメント:伝説の匂いがする〉


長老はゼノをじっと見つめ――


ふっと笑った。


「……面白いことをしそうな顔をしておる。よかろう、金はいらん。持っていけ」


「ありがとうございます。見たことない家にします」


なぜか長老は嬉しそうだった。

 

――


森の手前に、今は使われていない酒造所があった。

扉は半分外れかけ、押すとギィ、と鈍い音を立てる。


中に入った瞬間、古い木とわずかに残った酒の匂いが鼻をかすめた。


「……でかっ」


思わず声が漏れる。

 

天井の梁の下に、怪物のような大きな木樽がいくつも並んでいた。


(いやこれ、どうやって運ぶんだよ……)


横で長老も腕を組んだまま黙っている。

 

どう考えても、俺と長老の二人で外に出せる重さじゃない。


ゼノは、すぐに魔法を使わなかった。


樽を見上げ、わざと困った顔を作ってみせる。


〈コメント:詰んだ?〉

〈コメント:ここでチートだろ〉

〈コメント:来い来い〉


(ほら、そこで詰まると思うだろ)

(だから、次が映える)


ゼノはあっさり諦めたふりをして、荷運び屋のロイドの顔を思い浮かべた。


「長老、ロイドさんに馬を借りようと思います。人の手だけじゃ無理です」


「うむ……それがよかろう」


とはいえ、運び出すだけでも危険だ。

樽が倒れでもしたら、洒落にならない。


畑仕事の途中だったガルドにも声をかけ、三人がかりで運び出すことになった。


「しかしゼノ、お前こんな大樽で何をする気だ?」


「家にします」


一瞬、空気が止まった。


「……は?」


ガルドとロイドは、口をあんぐりと開けたまま固まっていた。

 

そんな二人を見て、長老はまた嬉しそうに笑った。


〈コメント:酒樽ハウス爆誕〉

〈コメント:建築士ゼノ〉

〈コメント:どうせチート建築〉


――


《神D、神E、神Fが入室しました》

《視聴者数:4,226》


……跳ね上がった。


〈コメント:増え方おかしいだろ〉

〈コメント:祭りだ!!〉

〈コメント:神呼んだなコイツ〉

〈古参神:だから言ったろ。コイツは伸びるって〉


《上級神が入室しました》

《視聴者数:5,107》


〈コメント:空気変わった〉

〈コメント:やばいやつ来た〉

〈コメント:古参神が黙ったぞ〉


(……VIP席の入場か)


ゼノは内心でそう思ったが、

神だろうが上級神だろうが、“見てる客”であることに違いはない。


――


ロイドが馬を止めた。


「ここに置くのか?」


酒造所の横には、草のまばらな広場があった。

昔、樽の積み下ろしに使っていた場所らしい。


酒造所の横より、明らかに開けている。


「今後を考えるなら、ここです」


「今後?」


ガルドが眉を上げる。


ゼノは、そこでまた一拍置く。


(焦らすと、勝手に想像してくれる)


「樽、まだ沢山ありましたよね」


二人が同時に黙る。


長老だけが、ゆっくり笑った。


「……なるほどの」


――


三人がかりで縄を外し、樽を転がす。


ゴロン。


地面が鈍く揺れた。


近くにいた子供が歓声を上げる。


「でっか!!」


「家より大きいじゃん!」


(いや、それは盛りすぎ)


ゼノは樽に触れた。


瞬間、視界が二重になった。


《創造補助:暴走注意》


地面が、わずかに波打つ。


ロイドが叫んだ。

「おい、地面が!」


(……やば、出力高すぎる?)


(見てる数が多い)

(加護が重い。押し込めば、そのまま暴走する)


だったら、抑える。

動かすんじゃない。

流す。


――建てるのは、力じゃない。

順番だ。

崩さず、通す。


一瞬で理解する。


今の俺は、“神が見ている状態”だ。

加護が通常より重い。


このまま出せば、酒造所ごと吹き飛ぶ。


ゼノは深く息を吸った。


(見せるのは派手さじゃない)


「……調律」


地面の揺れが止まる。

樽の下だけが静かに沈む。


〈コメント:制御した!?〉

《上級神:ほう》


ゼノは樽に手を当てる。


「固定」


次の瞬間——


ズン。


重い音と共に、樽が地面に沈んだ。


ロイドが目を見開く。


「……おい、今、地面まで固めたか?」


「え?」


足元を見る。


樽の周囲だけ、石のように変質していた。


(……ここまで出来るのか?)


〈コメント:基礎工事まで魔法ww〉

〈コメント:建築チート〉



「まずは入口だな」


木に触れる。


すると——


樽の表面が水面のように揺れた。


次の瞬間。


木が自ら裂ける。


滑らかな円形の扉が現れた。


「樽が口開けた!!」


(ちょっと俺もそう思った)


〈コメント:食われるぞw〉


(客席、ノリがいいな)


――


中へ入る。


一歩。二歩。


……十歩。


振り返る。


入口が、豆粒みたいに遠い。


(いや待て。樽の外径、こんなもんじゃないだろ)

(……神、盛ったな?)


ロイドが外から覗き込み、

「……え、奥行きどうなってる?」


〈コメント:出た異空間〉

〈コメント:神が好きなやつ〉


ゼノは考えるのをやめた。


(便利なら正義だ)


――


床をイメージする。


板が伸びる。


棚を思う。


木が曲がる。


ベッドを想像する。


――完成。


ロイドが呟いた。


「……これ、本当に酒樽か?」


長老が笑う。


「いや。もう家じゃな」


――


《神Gが入室しました》

《神Hが入室しました》


《視聴者数:9,884》


跳ね上がる。


〈コメント:都市開発配信きた〉


ゼノは内心で、少しだけ肩を竦めた。


(見物料、払ってくれよな。……そのうち)


まだ口には出さない。

だが、確かに分かった。


見ているだけの客は、もう客じゃない。

熱を持った時点で――価値になる。


(使える)


その芽は、もう出ていた。

 

――


長老が静かに聞いた。


「なぜ酒造所の横ではなく、ここに置いた」


ゼノは少し考えた。


「……並べたら、面白そうだなって」


長老がまた笑う。


ガルドが言う。

 

「まさかとは思うが……」


ロイドが続けた。


「町にでもする気か?」


ゼノは少し考えて。


小さく笑った。


「人が来る場所には、なりますよ」


その瞬間。


頭の奥に声が響いた。


《期間限定ミッション更新》


《【樽の家を三日以内に三棟建てよ】》

《報酬:領域結界》

《未達成の場合、加護を剥奪します》


《神A:15,000加護》

《視聴者数:10,325》

 

ゼノは空を見上げる。


「三棟……?」


酒造所の扉は開いたままだ。


暗闇の中、巨大な樽が並んでいる。


まるで……


次は俺だ、と言っているように。


天空では、既に地図が書き換えられていた。


辺境の小村。


その一角に、赤い印が灯る。


――観測指定地。


神々の視線が、収束する。


ある神が言った。


「……これは、都市になる」


別の神が笑う。


「いや。信仰の拠点だ」


ゼノはまだ知らない。


家を一つ建てただけで、


“神の経済圏”を生み始めたことを。

 

――――

次回

 第5 話神ですら未来が見えない男

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。