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追放された魔術師は、神に観測されながら暮らしている〜生活魔法しか使えないのに、加護が止まりません〜  作者: 灰音 澪


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第27話 魔石の値段と、命の値段

数日後、俺はロイドと街に来ていた。


石畳の通りに、商人の声が飛び交う。

軒を連ねる商店、昼間から賑わう酒場、掲示板の前で揉める冒険者たち。


石畳を叩く靴音。

焼いた肉の匂い。

どこかで子どもが泣いている。


前世で思い描いた“異世界”は、もっと綺麗だった気がする。

実物は、埃っぽくて、少しうるさい。


だが今日は観光じゃない。


音憶石の魔石――

そして共鳴鈴の量産に必要な鈴を、確保しに来た。


「値は張るぞ」


ロイドが横目で笑う。


「張るなら、張る価値のある石を掴みます」


そう言いながら、ゼノは一軒の店の前で足を止めた。


色あせた看板。


魔具屋。


扉の奥から、濃い魔力の匂いが漏れていた。


――


扉を押す。


鈴の乾いた音が鳴った。


店内は薄暗い。

棚には小さな魔石、護符、歪な杖、光を帯びた短剣が並ぶ。


奥のカウンターに、白髭の男がいた。


片目に小さな拡大鏡をかけ、魔石を磨いている。


「いらっしゃい」


声は低く、淡々としている。


ロイドが一歩前に出た。


「魔石を探している。音を刻む用途だ」


男の手が一瞬止まる。


「……記録用途か。贅沢な使い方をするな」


ゼノは棚を眺めながら言った。


「小型でいい。純度は中以上。内部構造が安定しているものを五つ」


男がゼノを見る。


一拍。


「坊主、分かって言っているな?」


「分かってます。中途半端な石だと、響きが歪む」


沈黙。


男は鼻で笑った。


「なるほど。観光客じゃないらしい」


奥の引き出しから、布包みを五つ出す。


ひとつずつ開かれる。


淡く脈打つ光。


内部に渦のような魔力の流れ。


ゼノはそっと手に取る。


《生活補助:感応》


内部構造が透けて見える。


――綺麗だ。


割れもなく、濁りも少ない。


指先で石の“癖”を探る。


「どれも良いですね」


「見ただけで分かるのか」


「触れば分かります」


嘘じゃない。


「幾らですか?」


男が値札を置く。


金貨三枚。


一個あたり三枚。


合計十五枚。


ロイドが小さく息を吸う。


高い。


だが相場だ。


だが、ここで迷うと後で後悔する。


「買います」


男の眉が上がる。


「値切らんのか?」


「値切っても良いんですか?」


男は鼻で笑った。


取引は成立した。


――


店を出ると、


ロイドが小さく笑う。


「さて、次は鈴だな」


魔具屋の通りを抜け、鍛冶屋が並ぶ通りへ入ると、鉄が焼ける匂いに、鼻の奥がつんとした。


その一角に、小さな金物屋があった。


軒先に大小様々な鈴が吊るされている。


「ここだ」


ロイドが言う。


金物屋の店主は中年の女だった。


腕は太く、目は鋭く、冷やかしと思っているのか、怪訝な顔だった。


「何個いる?」


いきなり本題。


嫌いじゃない。


「百個」


店主の動きが止まる。


「百?」


「小型で軽くて、音色は一定。装飾はいらない」


店主は鼻で笑った。


「祭りでもやるのかい?」


「祭りじゃない。……あなたの鈴が、誰かの人生の音になる」

 

そう言ってから、ゼノは笑った。営業用の笑顔じゃない。たぶん本音だ。


ロイドが横で吹き出す。


店主は棚から鈴をいくつか下ろす。


ゼノは一つ手に取り、振る。


――チリン。


もう一つ。


――チリン。


音程のばらつきがある。


「この型を百、揃えられますか?」


店主が目を細める。


「在庫は七十。三十は倉庫にある」


「全部でいくらだ」


店主が算盤を弾く。


銀貨8枚。


少し高いが精密さで言うと、悪くない。


だが――


ゼノは鈴を指で弾く。


「百まとめて捌ける機会は滅多にないだろ」


ロイドがすかさず言う。


「継続取引になる可能性もある」


店主は腕を組む。

「銀貨7枚」


「銅貨5枚」


間。


店主が笑った。


「負けたよ。銀貨6枚。それ以上は無理」


「それでお願いします」


取引成立。


鈴が木箱に詰められていく。


百。


と言っても、それ程大した重さはないが、価値は重い。


ロイドが荷車を押しながら言う。


「これで準備は整ったな」


ゼノは魔石の包みを握る。


五つの原石。


百の鈴。


頭の中では、もう完成している。


象徴色を与える。


原響を刻む。


写鳴する。


並べる。


売る。


文化を作る。


ロイドが横目で言う。


「次は?」


ゼノは空を見上げた。


今日は歪まない。


静かな青だ。


「量産ですね」


だが分かっている。


この百はすぐ消える。


そして次は二百。


五百。


千。


ゼノは小さく呟く。


「……始まりますね」


ロイドが笑う。


「もう始まってる」


――


必要なものを買い終える頃には、陽が傾き始めていた。


「今日は泊まりですもんね」


「ああ。宿は取ってある」


さすが商人。抜かりない。


「ロイド」


「ん?」


「ギルドって、どういう場所なんですか?」


ロイドが目を細める。


「……唐突だな」


「魔石は、冒険者が持ち込む。色々知っておきたくて」


ロイドは数秒考え、肩を竦めた。


「いいだろう。見とけ。綺麗な場所じゃないがな」


――


ギルド。


石造りの建物。

分厚い扉。

壁に刻まれた剣と盾の紋章。


中に入った瞬間、空気が変わった。


酒と汗と血の匂い。


ぎらついた視線。


掲示板の前で、数人が揉めている。


「この討伐は俺たちが受けた!」


「証文は!?証文はあるのか!」


受付の女性が淡々と紙を捌いている。


剣、槍、杖。


傷だらけの男たち。


若いが目だけ老いた者。


そして――空席の多いテーブル。


「……戻らなかった奴らの席だ」


ロイドが低く言う。


ゼノは何も言わない。


「ここで仲間を作って、ここで失う」


ロイドが続ける。


「成功すりゃ名が上がる。失敗すりゃ終わりだ」


「魔石は?」


「ダンジョン、魔獣、遺跡。命と引き換えに持ってくる」


ゼノは掲示板を見る。


“Cランク 魔獣討伐”

“Bランク 廃坑調査”

 

“緊急依頼:旧坑道 第三層 魔獣暴走反応”

赤字で書かれている。

“生還者二名。追加人員急募。”


全部、“危険”だ。


《推命神コメント:魔石は血で磨かれる》

《神コメント:命の相場を見ておけ》

《神コメント:癒しが売れる理由だ》


受付がロイドに気づく。


「おや、ロイドさん」


「見学だ。こいつが村の新顔」


数人の視線が、ゼノに刺さる。


品定め。


値踏み。


「ひょろいな」


「杖も持ってねぇ」


ゼノは笑う。


(戦わないからな)


その時だった。


奥のテーブルから怒号。


「てめぇ、俺たちの獲物横取りしやがって!」


椅子が倒れる音。


一瞬で空気が張り詰める。


ロイドが小さく舌打ち。


「始まったな」


二つのパーティ。


片方は三人。もう片方は四人。


机を蹴飛ばす音。


酒瓶が割れる。


魔力が走る。


受付が叫ぶ。


「魔術は禁止!建物を壊したら罰金です!」


だが止まらない。


《視聴者数:267,441》


〈コメント:ギルド回きた〉

〈コメント:戦闘フラグ?〉

〈コメント:いや違う流れだこれ〉


一人が火球を詠唱しかけた。


ゼノは、無意識に動いていた。


《生活魔法:重量分散》


床にかかる衝撃を逃がす。


《生活魔法:安全固定》


柱と壁を固定。


火球が逸れ、天井近くで爆ぜる。


破片が落ちるが、崩れない。


全員が、一瞬止まる。


「……何だ今の」


ロイドが横を見る。


ゼノは肩を竦めた。


騒ぎを聞きつけたギルドマスターが現れる。


巨大な男。


声だけで空気を叩きつける。


「外でやれ」


それだけで全員が黙る。


喧嘩は外へ移動。


野次馬がぞろぞろついていく。


ギルド内は静まり返った。


受付の女性がゼノを見た。


「今の、あなた?」


ゼノは曖昧に笑う。


ロイドが笑いを堪えている。


「……お前な」


「壊れたら困るでしょう?」


「ここは壊れても直す場所だ」


ロイドが低く言う。


「でも壊さずに済むなら、それに越したことはない」


受付が深く頭を下げた。


「助かりました」


ギルドマスターがちらりとゼノを見る。


何も言わない。


だが覚えた。


そういう目だった。


――


外ではまだ怒鳴り声が響いている。


ゼノは静かに言う。


「ギルドは、命を削る場所ですね」


「ああ」


「だったら」


ロイドが横を見る。


ゼノの目は、別のことを考えている。


「癒す場所が必要だ」


「……何?」


「癒す場所があれば、人はまた頑張れる」


ロイドが黙る。


喧嘩の音が遠ざかる。


「お前、放っておけないたちだな」


ゼノは笑った。


「平和が一番ですからね」


だが。


この日。


ゼノは理解する。


魔石ってのは、たぶん——命の結晶だ。


ギルドは、欲望と死の交差点だ。


でも俺は――


壊さない魔術で、別の道を作ろうとしている。


――夜。


宿の部屋。


ゼノは天井を見つめながら、小さく呟く。


「魔石一つ金貨三枚。

“高い”のかもしれないが、

でもここでは、その三枚は――誰かの命の代金だ」


「……俺は戦わない」


だが、戦う世界の隣で、


別の価値を作る。


窓の外、遠くでまた怒号が響く。


ゼノは目を閉じた。


明日、村へ帰る。


音を売る工場が待っている。


――――

次回

 第28話 詠唱は、弱点じゃない


 




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