It's a Girl!
つまり。ナラはこれが破水だと言っているということになる。自分は小屋の外にいる百合に鍋で湯を沸かすように頼んだ。生まれてくる赤ん坊の産湯に使うためだ。そこではたと気が付いた。桶がない!自分達はまだ桶を作っていない。桶の代わりになるものは無いか?陶製の入れ物は小さすぎる。そうだ、馬の水飲み用に太い木をくり抜いた物が厩舎に置いてある。あれも一応桶だ。よし、あれを使おう。アーデルに厩舎の給水桶を小川で洗って持ってくるように頼む。ただあの給水桶は重いからブラウンで曳いてこないと駄目だろう。アーデルに浜組の何人かを連れていって、ブラウンが曳く際の補助をさせるよう付け加えた。
そうしている間、グエンの陣痛の感覚が段々と短くなってくる。夕暮れまでにはまだ間がある。なるべく明るい内に生まれてくれれば良いのだが。
アーデルが給水桶を運んできた。給水桶を小屋の中に据え付ける。沢の竈で沸かしたお湯が壺に入れられて運ばれてきた。桶にお湯を注ぎ込む。今は熱湯だがしばらくすれば良い加減の温度になるだろう。
給水桶の準備をしていると、グエンの叫び声が聞こえた。振り返ってグエンの方を見ると、グエンがヘルガにしがみついて叫んでいる。グエンの大きく開いた股の間から頭の先が見えている。分娩が始まったのだ。
グエンがもう一度大きく叫ぶと、頭が出てきた。グエンが再び叫び声を挙げていきむと体が押し出されてきた。ナラが赤ん坊を引き出した。
だが、赤ん坊が一向に産声を挙げない。不味い!
するとナラが赤ん坊の口を指で開け、口の中の液体をその指で掻き出した。それでも赤ん坊が泣かない。ナラは赤ん坊の口に自らの口を押し付けて中の液体を吸い出した。そして赤ん坊の尻をパチパチと叩いた。ナラが口を離すと、赤ん坊から弱々しいが泣き声が出た。良かった!
赤ん坊の声が段々と大きくなる。グエンはぐったりしていたが、赤ん坊の泣き声を聞いて、弱々しく微笑んだ。
赤ん坊の声を聞いた瞬間、自分の乳房に熱くなる感覚が走る。お馴染みの母乳の分泌が始まったのだ。
ナラは臍の緒が付いたままの赤ん坊を給水桶に入れようとする。自分は慌てて、給水桶のお湯の温度を指で測る。まだかなり熱い。側に置いてある水の壺を持ち上げ、中の水を湯に注ぎ、湯加減を調節する。程よい温度になった所で、ナラから赤ん坊を受け取り、産湯に漬ける。
赤ん坊の体の汚れを洗い落としながら股間を見ると突き出ているものが無い。女の子だ!
赤ん坊を布で包み、横になっているグエンの胸の上にうつ伏せにして置く。グエンは両腕で赤ん坊を抱き、ゆっくりと揺らし始める。赤ん坊の臍の緒はまだグエンの股間の中と繋がっている。これから胎盤を出す後産が残っている。
暫くすると、グエンが赤ん坊を抱いたまま少しいきみ始めた。グエンの股間から赤黒い塊が押し出されてきた。胎盤だ。胎盤が全て外に出て、グエンの体から切り離された所で、赤ん坊と胎盤を繋いでいる臍の緒を縛り、結び目の所をナイフで切る。
さてこの胎盤をどうするか。胎盤や臍の緒に含まれる成分には人体に取って有用なものが多い。その上、この胎盤には自分の遺伝子由来のものも含まれているはずだ。このまま川に流して水生生物の餌になると何か不味いような気がする。
自分の授精によってグエンの体の欠損した部分が再生した。その再生のメカニズムは分からない。再生に関与した要因が胎児から出たものか、胎盤から出たものかも分からない。また、その要因が新生児に残っているのか、胎盤に残っているのかも分からない。
生物の再生能力を強化する物質が胎盤や臍帯に残っていた場合、川に流したり土に埋めたりすると、他の生物に影響を与えてしまうかもしれない。病原菌などが強力な生命力を持ったりすると大変なことになる。
そうすると、焼くしかないか。自分は花組の子達に薪を家の前の広場に積み上げるよう指示する。積み上がった薪に火を点ける。炎が燃え盛ったところで、麻布に包んだ胎盤と臍帯を炎の中に放り入れる。産屋にいたヘルガとアーデルに、産屋の中に敷いた布とその下の藁など、グエンの血が付いたものを集めて焚き火の中に焚べるよう指示する。みんな自分の指示を聞いて不思議そうな顔をするが、自分に言われたことは黙々とこなしていく。
自分はみんなに神の穢れは強力な力を持っているので、火で浄化しなければいけないのだと説明する。まあ、嘘ではないな。自分の体に由来する強力な再生力をこの世界に徒に撒き散らすことは悪いこと、すなわち、穢れになる。その再生力を持っているものを焼却して、この世界に無制限に広がることを阻止するのだ。
炎を眺めていると、産屋の中から赤ん坊の鳴き声が聞こえてきた。産屋に入るとグエンが眠りに落ちていた。分娩で疲れたからだろう。グエンの胸に乗っている赤ん坊がモゾモゾ動きながら鳴き声を上げている。自分はブラジャーを外し、両方の乳房を出す。赤ん坊を抱き上げ、左手で抱えながら、赤ん坊の口に左の乳首を当てる。赤ん坊の口が乳首に吸い付き、乳を吸い始めた。側にいたナラと雀が目を丸くしながら自分が乳を与えている様子を見ている。
これまで、何度も乳を与えてきたが、自分の子供に乳を与えていると思うと実に不思議な感覚だ。
そうだ、この子の名前を決めなければいけない。




