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浜辺の粘菌 Slime on the beach  作者: 外山淑
第二部 邂逅
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My Gene's Secret Revealed

 自分達が温泉から帰り、包まっていた毛皮を落し、着替えを身に着ける。ナラと雀にも予備の貫頭衣を渡して着せる。

 雀は千鳥がいることに気が付き、駆け寄って千鳥を抱きしめた。雀は、千鳥の抱きつく手に違和感を感じ、その時初めて千鳥の左手が欠けていることに気が付いた。そこからしばらく雀と千鳥そして鷺姫は小声で話し込んでいる。三人が話をしている間に千鳥が時折腹を擦ることから、雀は千鳥が妊娠していることにも気が付いたようだ。雀が自分の方を何回か盗み見るような様子を見せる。その後、千鳥が左腕の肘の辺りを触りながら雀に何か言うと、雀は驚いたような声を上げ、自分の方に顔を向ける。鷺姫が雀に何か言いながら、自分の隣にいるヒルダやエンマ、そして、寝床で横になっているグエンを指差す。雀は口を大きく開け、再び声を上げようとしたところ鷺姫に手で口を塞がれた。

 自分の腰に腕を回しながら腰掛けていたヒルダは鷺姫と雀の様子を見てクスクス笑い出す。隣のエンマもヒルダに釣られたのか、口を抑えながら笑っている。

 グエンも笑おうとしたが、多分、大きくなった腹のために苦しくなってしまったようだ。それまで持ち上げていた上半身を下ろして横になる。自分は直ぐにグエンの側に駆け寄り、グエンの手を握る。グエンは身を起こすことも辛そうだ。もう何時陣痛が来てもおかしくない。グエンの腹を軽く擦っていると、中で蹴るような反応が自分の手に感じられる。

 自分がグエンの傍らに寄り添っている間、鷺姫は雀とナラに家の中にいる者達を紹介していく。ヒルダ、エンマ、グエン、ヘルガ、ハーゲン、アーデル、千鳥、そして自分だ。インガはまだ崖の見張りをしているのでここにはいない。鷺姫は自分の事を「ジュリ」と呼んだ。雀とナラは「ジュリ」という名前に不審そうな表情をした。息栖や舵までは建御雷で通してきたからな。だが、鷺姫は、自分はいくつもの名前を持っていて、この里では「ジュリ」なのだと説明する。そして、グエン、ヒルダ、エンマ、そして、千鳥が自分の子を宿していると告げる。雀は先程の千鳥や鷺姫とのおしゃべりで分かっていたから驚かなかったが、ナラは吃驚していた。鷺姫は、更に続けて、自分の子供を宿すと、その子の母は酷い怪我や病気が癒やされ、元通りの健康な体になると、何故か得意げに語る。回りにいるヒルダ達は、千鳥や鷺姫、花組や浜組の子達と接しているので、ある程度古代の日本語は分かる。だが完璧ではない。ヒルダ達は、鷺姫の言っていることは、全てではないが、どういうことを言っているかは大体見当がつく程度には理解できている。だから、鷺姫の何故か得意げに話をする様子が可笑しくてたまらないのだろう。エンマなどは口を抑えて笑いを圧し殺している。

 自分の遺伝子の持つ力について教えられて、ナラはずっと口を開けたまま自分を見つめる。雀は鷺姫から話を聞いていたが、まだ信じられないようで、千鳥の方を見て目で問いかける。千鳥が頷いても、雀はやはり信じられないのか頭を大きく何回か振った。

 ナラがグエンの大きなお腹に気づいて、鷺姫にグエンは妊娠してどれくらいなのか聞いてきた。鷺姫は自分の方を見ながら右手を開いて見せた。五ヶ月か?という質問だろう。自分が頷くと、ナラに五ヶ月だと答えた。鷺姫の答えに、ナラだけでなく雀も大層驚いている。雀はグエンの腹を指して、あれは今にも産まれそうな腹だと、鷺姫を問い詰める。鷺姫が困った顔で自分に訴える。しょうがないので、自分が、グエンは数日中に出産するはずだと告げる。ナラと雀は頭を振り振り口々に信じられないと言う。鷺姫は、神様の子供だから当たり前です、と開き直って答えた。

 その時、萩が入ってきて、夕餉の準備が出来たと言う。ただ、人数がかなり増えたため一度で全員に給餌するには食器の数が足りない。まず、今日返ってきたメンバーが先に食べることにする。山を降りて沢沿いの竈の周りに円陣を組んで食事を食べ始める。ナラと雀は大きい鉄鍋や釉薬の掛かった陶器など、珍しい物に興味を示す。だが、空腹を満たす欲求の方が強かったようで、無言で大麦と蛤の粥を啜りだす。食事を済ませた後、グエンなど動けない者達の粥を碗に入れて山の家に運ぶ。全員の食事が済み、後片付けも終えると、直ぐ寝床に入る。ナラと雀は、それぞれ、浜と鷺姫の寝床で寝てもらうことにする。かなり窮屈だがしばらくの間我慢してもらうしか無い。

 この5日間、自分達は常に周りを警戒し、浅い眠りしか許されない状態が続いた。ヒルダとエンマの温かい体に挟まれて横になると、直ぐに溜まった疲労が自分の意識を刈り取った。


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