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浜辺の粘菌 Slime on the beach  作者: 外山淑
第二部 邂逅
234/243

Return with Two Mothers

 朝早く見張りの汀に起こされる。日はまだ明けきっていない。薄暗い中身支度を整え、朝餉を摂る。この家の広間には既に犬井と烏木そして鷲津が控えていた。自分達が早朝鹿嶋を立つことは彼等に昨夜伝えておいたからだ。

 自分達は鷲津と浜の母親を連れ、浜に出て、船に向かう。昨日の処刑の跡は綺麗に消されていて、もはや何処が処刑の場所だったかも分からない。自分達の船の見張りを任せていた猿沢の部下達は自分達を見ると、道を開ける。自分達は船の点検を始める。何も問題は無かった。自分達が降りた時と異なっているのは、小さい方の船体に積まれた布の山だ。これは、香取が持ってきた布だ。これで香取用のプロアの帆を作るのだ。この布の側に鷲津と浜の母親を座らせ、それぞれ腰縄を結びつける。これは万が一落ちた時のための安全策だ。

 息栖までの航路は鷺姫と浜に任せる。風は相変わらず西風だが、今日は昨日より強い風が吹いている。船が走り出す。浜の母は漕がずに進む船に驚いている。鷲津は流石にもう慣れているので驚きはしない。ただ鷺姫や浜の動きを注意深く観察している。風が強いため、船はかなり速度が出て、30分ほどで息栖の浜が見えてきた。鷺姫と浜は、時折、鷲津の水案内の声に従い、帆の角度を調整して方向を変える。

 息栖の集落の手前の浜に到着すると、鷲津は直ぐに飛び降り、浜にいた者を捕まえて、何か指示を出した。暫くすると、集落の中から鷺姫の母の雀が毛皮を抱えてやって来た。雀をそれまで鷲津が乗っていた場所に乗せ、雀に腰縄を結びつける。準備が整うと、鷲津は側にいた男達と一緒に自分達の船を海に押し出す。

 自分達は、鷲津達に手を振った後、沖を目指し、船を走らせる。女二人と麻布を積んでいるので、初めて息栖に来た時より船はかなり重い。だが、風が強いため船のスピードは案外速い。ただし、風が強いため波が高いため、波に注意してしっかりと船側に捕まっていないと海に投げ出されてしまう。小さい方の船体に乗っているナラと雀だけでなく、自分を含めた全員が腰縄で船体と結びつけられている。ナラ達に壺を渡し、船に溜まった水を掻き出すよう指示する。波が船に入ってくるため頻繁に水を掻き出さないと沈んでしまうのだ。

 ここで一つだけ想定外の問題が出てきた。麻布だ。麻布が船に入った水をどんどん吸い取って重くなってきたのだ。この調子で麻布が水を吸うと、途中で一度浜に上がって、布から水を絞る必要が出てくるかもしれない。その場合に備えて、今日は海岸が目視できる位置を維持しながら、南西方向に進む。

 昼頃になると明らかに速度が落ちてきた。積んだ麻布だけでなく、帆も波しぶきを吸って重くなっている。一旦浜に向かおうかと考え始めた時、東端の岬が見えた。良し、これならなんとかこのまま行けそうだ。岬を回ると東端の浜辺が目に入る。後少しだ。河口が見える。崖の上から誰かが手を振っている。頭が黒くないから、インガかアーデルかそれともヘルガだろうか?

 河口に入り、方向を変える。みんな水の掻き出しでヘトヘトになっている。やっと船着き場が見えた。花組の子達が出迎えに来ている。なんとか到着出来た。自分達の疲労困憊した様子を見て、花組の子達が船の後始末を申し出てくれた。有り難い!自分達は、防寒用の毛皮を羽織り、武器だけを持ち、山に向かう。

 ナラと雀は周りの山の様子を珍しそうに見ている。息栖や鹿嶋にはあまり高い山が無いからだろうな。

 山を登り、家の前に着く。浜組の子達はそのまま浜組の家に入った。自分、鷺姫、浜はナラと雀を連れて家の中に入る。ヘルガがハーゲンを抱きかかえて出迎える。ナラと雀はこの二人を見て驚いて大きな口を開けてい驚いている。髪の色と目の色が違うからだろうな。ヘルガの影からヒルダとエンマが身を起こしているのが見えた。だが、自分達が家に入ると、中にいた子達が一斉に顔を顰めて大声を挙げた。

 みんな鼻を抑えている。自分達が臭いのだ。自分達はここを出てから丸5日の間、水浴びたりして体を洗っていないし、着替えもしていない。ほぼ初対面の兵士達に囲まれていたため、みんな服を脱ぐことが出来る状態ではなかったのだ。そのせいで自分達の体は汗と潮とでベタベタだ。

 自分達は慌てて、家を出る。隣の浜組の家に入り、浜組の子達に温泉に向かおうと誘う。まだ夕方までには時間があり、辺りは明るい。みんな船から持ってきた毛皮と武器をそのまま持って温泉に向かう。ナラと雀も何もわからない状態ながら自分達に付いてくる。

 温泉に着くとみんな服を脱ぎ始める。自分以外のみんなは貫頭衣だけなので直ぐに裸になった。自分は皮の胸当てを外してから、ブラジャーを取る。自分の大きな乳房を見たナラと雀が目を丸くする。そして、自分が腰の毛皮を外し、褌を露わにすると二人は口に手を当てる。自分が褌を脱ぐと二人が大きな声を挙げた。新入りが入った時の恒例の出来事に浜組の子達が笑い声を挙げる。鷺姫と浜がそれぞれの母親に小さな声で事情を説明している。自分はそれに構わず、浜組の子達から順番に湯船を使うよう指示する。最初に浜組の子達、次にナラと浜、そして雀と鷺姫が入った後、自分が湯船を専有する。体のベトベトを石鹸で洗い落とし、温かい湯に浸かる。当に至高の瞬間だ。

 その後みんな身に付けていた衣服を洗濯した後、毛皮を羽織って家に戻る。今度はみんな暖かく歓迎してくれた。

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