Kumawi's Execution
暫くすると、大鷲、鷲津、亀山、猪山、鷹取達が入ってきた。彼等を座らせ、先程まで議論していた同盟について説明する。同盟に関する異論はほとんど出なかった。ただ、自分の技術や知識の伝達の具体的な点に質問が出た。そこで、里で鷹取達に言ったことをより詳しく説明する。
まず、同盟を構成する各勢力は、自分の所に数人の巫女を送り込む。その巫女は自分の元で教育を受け、様々な知識や技術を身に付ける。巫女は定期的に地元に帰り、自分から得た知識や技術をそれぞれの地域に広める。修行期間中に問題を起こした場合は里から追放する。自分や自分の身近な者を害すまたは害そうとした者は死罪もありうるとした。最後の死罪の点を述べた時、一同は深刻な顔をしたが、反対の声は挙がらない。
まあ、巫女というのは、要するに人質だ。だが、単なる人質であれば、各勢力の有力者が実際の親族でなく、縁の薄い女を養女として、体裁を繕って送り込むことも考えられる。だが、この巫女は自分から様々な知恵を授けられるのだ。有力者の近親ではなく、遠縁など適当な女を送り込めば、その女の近親がその勢力内で力を持つことも十分あり得る。自分の知恵を授けられた女がいることが、各勢力内の有力者の権勢の裏付けになるから、有力者は近しい親族を送り込まざるを得ないはずだ。問題を起こすと死罪も有り得るから、ちゃんと性格の良い者を送り込んでくれよ。頭の悪いやつを連れてきて、その結果、技術がしっかり伝達できなくてもそれは送り込んだ者の責任だ。この説明でみんな概ね納得してくれたようだ。
伝達する技術は、当面、帆船に関する技術、製鉄、製陶、天蚕糸に絞ることにした。これらだけでも、関連する知識や技術がかなり多い。たとえば、製鉄であれば、木炭の生産、砂鉄の選別、鉄の精錬など多岐に渡る。
ただし、帆船に関する技術は前倒しで伝達する。もう、既に息栖や香取の者達にはプロアを調べる機会を与えていたし、各勢力が帆船を使えないと、里との連絡や人の行き来に時間が掛かりすぎるのだ。取り敢えず、息栖と香取には布の準備を求めていた。今、自分の里にある船を改造すれば、3艘は作れるはずだ。自分の里で帆船を作って、浜組の子達に回送させて運んでいき、それぞれの勢力に引き渡した後、帰りは浜組の子達を自分の船に乗せて帰れば良い。この話を伝えると喜んで、直ぐに布を用意すると言っていた。
最後は、熊井の処刑の件だ。同盟成立の儀式として、これまでこの同盟を構成する各勢力に不和の種を撒き、争いを産み出してきたとして、猪熊を糾弾する。猪熊は自分が自ら討ち滅ぼしてしまった。だから、猪熊の手先として自分を弑そうと試みた熊井を処刑することを、この同盟の最初の成果としてぶち上げるのだ。
話の後、自分は、各勢力の代表達を引き連れて浜辺に向かう。もう日が落ちそうな時間だ。浜の中ほどに熊井が縛られて座らされていた。最後に熊井を見てから10日経っている。熊井は大分窶れていて薄汚れている。熊井は自分達が近づいてくることに気づいて頭を上げる。初めて会った時の威勢の良さは影を潜め、しょぼくれた表情を見せている。
自分の後ろから犬井が進み出る。「ちゃればとぅみなふときなるべち」それでは処罰の時が来た、と犬井が低く重い声音で熊井に告げる。熊井の目が大きく見開く。「いとはち!」嫌だ!という言葉が何回も繰り返される。
声を上げながら暴れる熊井を、大鷲と亀山がそれぞれ熊井の肩を掴み押さえつける。自分は犬井に自分が佩いていた剣を鞘から引き出して渡す。犬井は一礼してその剣を両手で戴いた後、柄を握り構えてから、熊井に向けて一閃する。辺りに血が飛び散った。
犬井、大鷲、亀山は血まみれだ。犬井は血濡れた剣を自分の服で拭き清め、柄を自分に向けて差し出す。自分は剣を受け取り鞘に戻す。割とあっけなかった。やはり、自分で手を下したときとは違う。胸糞が悪いのは変わりないが、心にズシンと重く伸し掛かるほどではない。
こんなに軽く感じるのは、処刑が2回目だからか、それとも、自分で手を汚してないからか、どちらなのだろうか?その答えは、次回、自分で手を汚すことになった時に分かるだろう。そんな機会がまたあってほしくはないのだが、多分、あるだろう。
熊井の処刑を遠巻きで見ていた者達からは歓声が上がっている。息栖、香取の兵達だけでなく、鹿嶋の者からも声が挙がっている。やはり、熊井に人望は無かったようだ。いや、熊井や猪熊の一派は一掃されたのだから当たり前か?
自分達は浜から離れ、社に戻る。烏木に客人の世話の手配を任せ、自分は鷺姫達を引き連れ、奥の部屋に入り休息を取る。浜の母親も一緒だ。
夕餉の後、交代で見張りをしながら、眠りにつく。明日は息栖に寄った後、里に帰るのだ。グエンのことが気掛かりだ。




