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第49話 とある驚きにて

シャーロットがテイラーにハンドカフスを取り付けた。その瞬間、大勢いるはずの会場を静寂支配した。


「……し、試験終了ーーー!!!勝者はチームエドワード・ウィンナイトーーーー!!!!」


司会がその静寂を破るとみな解き放たれたように歓声と罵声を上げ始めた。おそらくほとんどがテイラーが勝つ方に賭けていたのだろう。


この結果にはさすがの教師たちも目を見開いていた。

しかし、1番驚いていたのは観客よりも教師よりも、戦ったテイラーだった。


「なんだ、今の……?」


一瞬、体が動かなかった。

まるで筋肉が凍ってしまったかのように。


「驚いた?」


シャーロットがニコリと笑う。

2人が立てた作戦。


自分に向けられた魔法に敏感なテイラーにどうやって攻撃をぶつけるか。向かってくる魔法に敏感なら直接テイラーの体に作用する魔法を掛ければいい。

もちろん、意識を別のところに向けさせることも。


「……無茶苦茶だな」


魔法の基本は自身の魔素を放出して特定の事象を起こすこと。一見違って見える魔法陣だって結局は描いた魔法陣に魔素が吹き込まれることで発動するものだ。だから魔法師にはエネルギーである魔素とそれをうまく変換して魔法を具現化する能力が求められる。


故にその場や物に直接作用する魔法は難易度が高い。

何故なら自分の魔素を使用せずに空気や土地に宿る魔素を増幅させて事象を起こす必要があるからだ。まず、自分以外の魔素を操ること。そしてそれを具現化させることは容易ではない。


果たしてこの観客の何割がこの事実に気が付いているのだろうか。

レイモンドの魔法陣で動きを止めてシャーロットがカフスを付けた。そうつい錯覚してしまうほどに完璧なタイミングと位置だった。正直同じことが自分にできるかと問われたとき、このプレッシャーや経験の浅さを跳ねのける自信はない。どこが平凡だ。十分化け物じゃないか。


「結局、彼も特別か……」


自分でもびっくりするほど乾いた笑いだった。


「なんの話?」

「別に……」


ヒールをはいて、ヒラヒラの制服を着た女。長い髪。

私の欲しいものを全部当たり前に持っている女。


「そういえば、私のお洋服とアクセサリーあげるわ。使ってないのが多くて」

「そんなもの……」

「いつも羨ましそうに見られてたと思ってたんだけど……違った?」

「……私の存在、知ってたんですね」

「?当たり前でしょう?」


貴方によく似合うと思うわ。

一切悪気を感じない美しいほほ笑み。そうか、この女は私が女だったことを知らないんだ。知らないうえで、この話を馬鹿にせず平気でしてくるのか。

やっぱり彼女のことは好きになれない。彼女に何の非もないことはわかっているけれど、この羨ましさと嫌悪感は理屈じゃないから。彼女が彼女であり続ける限り嫌いだし、私の努力も知らずのうのうと苦労せず生きていることも腹が立つ。けれど……


「流石に強かったな」

「でしょ!?聖騎士はすごいんだよ!」

「5人でかかってやっとだもんな」

「そうそう!ルカも僕と一緒に聖騎士目指す?」

「うーん……でもカッコいいなとは思ったよ。オーラから違うっていうか」


なんだか吹っ切れた気がする。

私は彼女みたいにはなれない。彼女のような特別には。

だけど、私が得たもの、今持っているものは決して無駄ではないとも思える。


「せっかくのお心遣いですが、お断りさせていただきます」

「どうして?好きなものを着れば……」

「自分で買うことにしますので」


シャーロットが目を見開いた。言葉が見つからないのか固まったままの彼女に、この人も人間なんだなと呑気に思った。数秒経ってから、そう、と短い返事をして彼女はいまだ騒がしい会場に背を向けて歩み始めた。しかし、しばらくすると思い出したかのようにこちらに振り返った。


「強かったわ。とっても」


目頭が熱い。だけどそんな言葉一つで揺さぶられるのは癪だったから必死に上を向いた。

遠くに聞こえる喧騒。澄み渡るような青空。青い季節の熱さを胸に宿したまま会場を後にした。


こうしてレベルブラック、チームエドワード・ウィンナイトの実技試験は幕を閉じた。この様子は後日クリス達率いる第3寮によって販売されたが、それは学内で飛ぶように売れ、過去最大の実技試験映像の売り上げを記録した。まさかの勝利の上に大穴シャーロットがカフスを付けたことによって大量の紙ごみを手にした者ととんでもないリターンを得た者。この試験は伝説としてまた一つ語り継がれることになる。


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