第38話 とある学園祭にて
11月。少し肌寒くなってきたこの季節。学年末考査を控えた彼らに訪れる息抜きのイベント。
ライデン学園祭。
とはいえライデンには珍しく質素なイベントで、参加者は学内の生徒と関係者のみである。そのため無法地帯ともいえるが。
メインストリートを歩けば明らかにぼったくる気しかないであろう屋台や喧嘩賭博、学内飲酒禁止どころが未成年ばかりの学校という場所においてバーが堂々と出店しているのはいかがなものか。とはいえ11月ともなればそれに順応してしまっている自分もおり、一目見てあぁやっぱり出てるんだ、くらいにしか思わなかった。しかし爆竹や花火の音が鳴り響き、屋台で売られているものも酒のつまみばかりのこの場所は学校の学園祭だと言われてもライデン以外の人間はきっと信じないだろう。スラムだと言われたほうがまだ信じられるに違いない。
そしてこの学園祭の目玉イベント。
ライデン伝統の美少女コンテスト。もちろんライデンに女などいるはずもない。いわゆる女装コンテストというものだ。被害者……もとい出場者は各寮から2名選抜され順位は投票によって決まる。優勝者には豪華賞品が用意されているとかいないとか。
そして今回その犠牲になったのが。
「死にたい……」
「何言ってるの?すごく似合ってるわ!」
半泣きのアドラーと瞳を輝かせるシャーロット。
第2寮の出場者の1人として選ばれたアドラーはヒラヒラとしたドレスを身に纏っていた。
すでにコンテストは始まっており、会場からは「可愛いー!」「お前絶対実は女だろー!!」など応援なのか野次なのかよくわからないものが飛び交っている。なぜか一眼レフカメラを構えた人間が多いことはアドラーには黙っておこう。
コンテストの参加者はそれぞれ自己紹介と自己アピールを行う。自己アピールではダンスを踊ったり、楽器を演奏させられているものが多いが基本的にかわいさを競うコンテストであるがゆえに黒歴史になることはほぼ確定である。参加者も下級生が多く、完全に先輩や同級生たちの玩具にされているといっても過言ではない。明らかにいじめのようなイベントだが、それを止めるような教師はライデンにはいない。何ならマーフィーはこのイベントで撮られた参加者の写真を毎年ご丁寧に雑誌にして後日販売している。
「続いてエントリーナンバー5番。第2寮に舞い降りた妖精、アドラー・ルイスーーー!!!」
男たちの野太い声に迎えられアドラーは舞台へ上がった。今にも泣きそうな赤い顔は本人の意思とは反してかわいらしい印象を観客たちに植え付けた。
「そういえばアドラーって自己アピールで何するんだ?」
「さぁ?あれって推薦した先輩たちが決めてくれるんでしょう?ルカ知ってる?」
「聞いてはいるけど……いや、まさか。信じられない」
相当な事を指示されたのだろう、と察した2人は黙ってカメラを構えた。大事な友達ではあるけれど。だからこそしっかりと笑ってやらなければ。ここはライデンなので。
なんだかんだ血の通った先輩たちは、大抵流行りのダンスを可愛い衣装を着せてやるよう指示をする。だから観客も当然それを期待していたのだが。
「……え?」
覚悟を決めたように後ろ向きにポーズを取るアドラー。可愛いイントロと共に始まったのは、有名なアニメの主題歌。可愛い振り付けが特徴的で観客たちは盛り上がるが、彼が振り向いた瞬間みな目を見開いた。
「生歌?」
「地味に上手いんだけど」
「てかなんでアイツ原キーで歌えんの?」
「あいつから恥ずかしさの欠片も感じないだけど」
さながらアイドルのように、原曲のキーのまま、そして恥ずかしさなど微塵も感じていないかのような弾ける笑顔に観客は混乱した。しかしそれも一瞬で、第2寮の人間はみな示し合わせたかのように完璧なコールをし始める。
「優勝は第2寮所属、アドラー•ルイス!!!」
アドラーは当然のように優勝を掻っ攫い、コンテストは幕を閉じた。アドラーはしばらく妖精と呼ばれ続け、密かに妖精ファンクラブなどというものも出来たらしい。アドラーには副賞として1ヶ月学食無料券が送られたが、ルカにはアドラーが失ったものの方が多いとしか思えなかった。




