第31話 とある学内コンペにて
いよいよやってきた学内コンペの日。
とはいっても緊張感などない。なぜならコンペとは名ばかりの書類審査だけなので。
論文を指定の日までに提出して、選ばれれば本選出場。本来はドキドキなはずの結果発表の日。
ミスティーはすでに模型の制作を始めていた。
なんとか論文を形にしても、コンペにはその模型というかデモ機を作る必要があるので。なお落ちるなんて心配は全くしていない。
知らされた朗報にも特に驚くことはなく、彼はコンピューターに目を向けたままだった。
論文の執筆は彼にとって苦痛でしかなかった。なぜなら天才過ぎて凡人がわかるように1から10まで解説する必要があるから。彼からすれば論文の執筆作業とは人が座ることをいちいちまず椅子を引き腰を下げて……など動作からすべて説明しているようなものなのである。
それに比べ今はひたすら自分が組み上げたプログラムを改良し、そのデータを処理しうるハードを作り上げるという素晴らしい作業の真っ最中なので彼の眼は3徹目とは思えないほど輝いている。
アドラーはそんな彼を見て、学者ってやっぱ人じゃないんだなと思った。三代欲求がすべてにおいて機能していない人っているんだ。
とはいえアドラーとて正気ではない。なぜなら彼も寝ていないので。
素人でも手伝える雑用にルカたちも駆り出され、いよいよ監禁されていた。授業なんて最後に受けたのいつだろう。コンペに参加する人間は公欠になると聞いたが今は何より授業を受けていたころが恋しい。
借りなど作りたくなさそうな秋の人間にしては変だと思えば、「勝った賞金で借りは返す」とのことで全くもって人にものを頼んでいる人間の態度ではない。
一方論文に自分の名前を載せることを拒否したレイモンドとシャーロットは、さすがに監禁とまではいかず2人だけ血色がよい。
「そういえば衣装って用意してるんですか?」
レイモンドの問いかけにルカは首を傾げた。
秋のコンペは世界中から多くの学生や学者が集まる正式な場。終わった後には当然パーティーもある。ドレスコードこそないけれど、参加者は当然フォーマルな装いを求められる。制服でも問題ないが、やはり注目度が高いこともあってそれぞれ服を仕立てて参加することが多い。
「……え?いる?」
ところがこの男ミスティー・ブルーはそんなこと気にも留めていなかった。
何せこの男昨年ジャージで出場しているので。せめて制服で出ろよ。
「いるでしょ!絶対!」
声を上げたのはアドラーだ。
ルカは珍しいとは思ったが、そういえば聖騎士も見に来るって言ってたなと思い出し納得した。お兄ちゃんたちが来るかもしれないもんね。
「いやでももう時間ないでしょ」
コンペ当日まであと1週間。この学校は外出許可を取るのが世界一難しいので既製品ですらすぐには買いに行けそうにない。とすれば誰かに借りるか、それとも……
「第1寮に依頼しては?」
開いた扉から現れたのは第3寮寮長のクリス・マグノリアだった。彼は車いすをゆっくりと動かしてこちらにやってくる。
「コンペは数ある行事の中でもメディアからの注目度が高いものですし、優勝候補の衣装ともなれば誰かしら引き受けてくれるでしょう」
「それなら……」
「君らに頼んだ」
「……え?」
「見ての通り俺忙しいし。衣装って参加メンバーの俺とルカちゃんアドラーちゃんの分だろ?君等行ってきてよ」
悲しいがその通りなのでルカとアドラーが行くことになった。道連れにしたシャーロットとレイモンドを添えて。
だって第1寮に知り合いなんていないし、そもそも彼らは校則に「春の奴らは差別主義者だからいじめろ」と書かれるレベルの人間の集まりだ。そもそもあんまりほかの寮と関わるところを見たことがないしよそ者を寄せ付けないオーラがある。
「それにしてもクリス先輩がグループに参加してなかったのは意外だな。名誉とか好きそうなのに」
「賞金だけもらう契約らしいよ。得る名誉よりも奪われる時間と労力のほうが大きいって」
「流石だな」
レイモンドの疑問にアドラーはげっそりした様子で答えた。この様子を見るだけでもクリスの判断はあながち間違っていないことが容易にわかる。
第3寮を出て、第1寮のゲートに到着する。
若干の緊張とともにゲートをくぐると、そこには麗らかな春の空気が漂っていた。たくさんの花や桜が咲き誇り、目の前にはレンガ造りの大きなお屋敷。おそらくこれが第1寮だろう。
第1寮に向かうべく、足を踏み出した瞬間、4人は動きを止めた。
「おいおいおい、誰の許可で人の寮に踏み入ろうとしてるわけ?」
向けられた5本の杖。
当然ながら全員春の寮生だ。おそらく御庭番といったところだろうか。
「いや、僕たち第1寮にお願いしたいことがあって……」
「お願い?ウチにはアポなし客は即死って寮則があるんだわ」
そんな寮則あってたまるか。
4対5、先輩相手なら厳しいか。ルカがそう考えていた時。
「はいはい、やめやめ。そいつらクリスのお使いやから」




