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第27話 とある追悔にて

「今度のコンペ出ようよ」


コンペの締め切り2週間を切った時期とは思えない発言から始まった。

4年生の10月。本来ならインターン先から帰ってきて卒業試験と国試に備えながら企業の面接やらを受ける時期。しかし珍しくほとんどが聖騎士希望だったこの学年では試験まで余裕をかまして暇している人間が多かった。単なる暇つぶしだった。他人が1年かけて成し遂げた功績を2週間で踏みつぶしたら面白いよねなんて言うライデン生にありがちな思考。


天才たちは彼に賛同した。これまた珍しく仲のいい学年だったから、研究は信じられないほど順調に進んだ。学生とは思えないレベルの研究にライデンの教師たちはお前たちを卒業させることが教師人生一番の功績だと言った。当然コンペは優勝。その賞金で卒業後も楽しめるように各寮の地下を大規模に改造したのは記憶に新しい。


1番の問題児だったけど、1番の天才集団。

それが私たちの肩書だった。


だから学校を壊そうが、勝手に地下に寮を増設しようがそこで闇金を稼ごうが退学にはならなかったし、そもそもバレるなんてヘマはしなかった。例年十数人の聖騎士合格者が何十人というレベルで採用されると誰も信じて疑わなかった。


世界のすべてが自分の思い通りになると思っていた。

だから驕っていたのかもしれない。


国試を異例の全員合格で終えて、あとは卒業試験を残すだけで卒業となったとき。

ライデンを有する島の近くで起こったテロ。ニュースで見たときの説明は魔法社会の歪さ、ひいては太陽王の正当性を疑った者たちによる大規模なテロだったと記憶している。多くの民間人が巻き込まれ、魔法職者もテロに加担しているという事実から現地の魔法執行官も苦労しているとのことだった。


「行こう」


誰が言ったのかは覚えていない。もちろんまだ資格すら持っていない学生に出動要請など出るはずもないが、そんなものはどうでもよかった。私たちは天才だから。聖騎士になる優秀な人材だから。


向かった現場はまさしく戦場で多くの人間が逃げ惑い、あちこちで魔法が飛び交っていた。だが、聞いていた情報とは異なることが一つ。市民たちが逃げている相手はテロリストではなく聖騎士だった。彼らは見境なく市民を攻撃していた。抵抗も見せない市民を躊躇なく。

聖騎士に魔法をいきなり向けられて対応できる人間などいるはずもなかった。

住宅街で救助に当たっていた同期はその状況を理解する間もなく即死。仲間だと杖を降ろした瞬間に散っていった。


生き残ったのは作戦立案と住民を逃がすため待機していた班の人間ばかり。大虐殺の現場をただただ見ていることしかできなかった。涙も出ず帰ってきたのは記憶に新しい。


後から生き残った現場救助班からあの事件はこの世界を根底から揺るがすある事実を知ってしまった研究者たちを始末するために陽光の国の学者島の人間を皆殺しにするべく仕組まれた聖騎士たちの自作自演だったと秘密裏に知った。死体を持ち帰ることも許されず、生き残りたければおとなしく帰れと言われたあの瞬間は生涯忘れることはないだろう。

あの現場で見たことへの口封じと言わんばかりに、学校に戻った後その件に関して私たちは英雄になっていた。覚えもない功績と何も知らない周囲からの称賛の声は大半の生徒の心をこれ以上ない不快感と聖騎士や太陽王に対する反逆心へと変えた。


その時改めて思い出したのだ。

聖騎士とは太陽王のために存在するものであって、決して正義の味方ではないということを。


生き残った人間はほとんど全員国試で最高ランクを取得したが、実際に聖騎士になったのはたった3人だけだった。多くが聖騎士とは関わらない職を選んだ。そして卒業と同時に彼らの墓を作った。退屈をしないようにたくさんの施設を備えた美しい場所を。私たちが最後に作り上げた美しい夜空の再現魔法を掛けて。


星空が照らす第0寮の裏口を進んで川を渡った並木道。並ぶ墓石を通った先にあるクラシカルなガゼボ。


「シャーロット」

「……ん?」

「寝てたのか」

「そうみたい」


ここは変わらない。いつ来ても。

だからこそ思い出してしまう。


「絶対ここにいると思った」

「コンペの話になったから、思い出したかもって?」

「あぁ」

「私ね。自分たちが馬鹿だったとは思ってない」


暇を持て余していたから、コンペに出る。問題を起こす。テロ現場に赴く。全部1番の問題児で、1番の天才集団だった私たちにとっては必然だった。聖騎士になることも考えればなおさら。


あの頃を思い出すのは夜中にアイスを食べるのと似ている。ワクワクキラキラとした思いと少しの罪悪感。別に生き残ったのが申し訳ないとか、タラレバを気にしているとかそんなのじゃないけれど。なんとなく心が引っかかる。


「俺も今でも時々思う。アルが生きてたらどんな感じかなって」

「少なくともここにはいないでしょうね」

「ははっ、間違いない」


どちらが言ったのでもなく2人とも立ち上がった。

並木道とともに並ぶ墓石に刻まれた名前になんとなく視線をやりながら歩く。


「今日も紫の星はないわね」

「……あぁ」


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