第26話 とある秋の巣窟にて
「少しお話よろしいですか?」
そう声をかけてきたのは首元に虎のタトゥーが目立つブルーブラックのセンターパート。ワインレッドのベストを見るに第3寮の所属であることは間違いない。そしてこの上着を見れば彼がただの生徒ではないことが容易にわかる。だとしたらこの髪色も。
「これは染めました。大した実力があるわけではありませんよ」
整った造形で営業スマイルを振りまく彼にはこちらが思わず身構えてしまうほどの圧がある。無理もない、だって。
「車椅子……」
「昔から足が悪いんです」
こんな弱肉強食のライデンで車いすの人間が一つの傷もなく堂々と寮長のジャケットを身にまとっている。
「クリス・マグノリアです。第3寮の寮長をしています。2人にお話があるのですが……一緒に来ていただけますか?」
人間観察が苦手なアドラーにもすぐにわかった。逆らったら殺される、と。
言われるがまま第3寮へ向かうと案内されたのは美しいゴシック様式で作られたスチームパンクの城。の奥に隠されたエレベーター。地下何階かもわからないほどの場所で降ろされると、長い廊下を歩いて応接室に通された。そこにはたくさんの本が積み上げられていて中心には大きな機械時計。丸い窓の向こうには研究室のようなものが見えていた。
「お、噂のルカちゃんじゃん」
「お前が欲しいっていうから連れてきたんだよ」
「流石は寮長様。仕事が早い」
ソファーに座っているとやってきたのは長髪を乱暴にまとめた背の高い男。ベストの上から白衣を着ている。だるそうにやってきた彼はこちらを見るなり態度を変えた。
「ミスティー・ブルーです。3年で秋の副寮長やってる」
「僕は……」
「あーいいって、知ってっから」
「なんで僕たちのこと……」
「厳密にいえばお前じゃなくてそこのルカちゃんなんだけど」
「俺……?」
「そ。あの3校戦の魔法、なに?」
ニコニコしていた表情が一変し、真剣な瞳がこちらを見つめた。3校戦の魔法、と言えば1つしかない。
「あれは……」
「失礼します」
ルカの言葉を遮るように入ってきたのはシャーロットとレイモンドだった。心底機嫌の悪そうなシャーロットは空いていたソファーにドカッと腰かけた。
「なんで2人が?」
「呼び出されたのよ。そこの寮長様に」
「君たちは使えそうだからね」
「使われる気はありませんよ」
「ともかく、僕たちがしたいのはルカ・フェイマスが3校戦で使用した魔法の研究です。それを今度のコンペで発表したい。いささか時間が足りないためルカ君は勿論君たちにも手を貸して欲しい」
聞けばもともと研究していたテーマではコンペを勝ち抜くのは難しいと思っていたところ、ルカの魔法を見て研究したいとのことだった。
「言っときますけど、俺の魔法はあの時とっさに出たもので俺自身もあれが何なのかわかっていません。だから研究するといっても」
「だからですよ。君も使い方がわかればうれしいでしょう?攻撃系の魔法はコンペでも評価が高い。建前上最優秀作品賞に選ばれることは難しいが、過去には聖騎士団から買い取りの打診が来た例もあります」
「俺は面白そうってだけだけどね」
第3寮といえばコンペ優勝の常連。ミスティー・ブルーといえば学内で魔法工学において右に出るものはいない、秋にあるという地下のビックデータの管理人というのは噂に過ぎないと思っていたが、この地下施設を見ればあながち嘘でもないのだろう。すでにアドラーは乗り気だったし、このところ先輩たちも彼と組みたいとぼやいていた。勝ち馬に乗るとはこのことだろう。
「わかりました」
「僕もやります!」
「ありがとう」
「私は嫌」
ここにきてもシャーロットの態度は変わらなかった。それはレイモンドも同じ。
「どうして?」
「どうしても」
失礼します。
2人はこちらの制止も聞かず立ち去ってしまった。




