第16話 とある提案にて
「で?どんな競技を提案したわけ?」
「サバゲ―だ」
「え?」
「サバイバルゲームよ。仮想空間の中で魔法でも武器でも何でもありのサバイバルゲーム。最後まで生き残った生徒の所属する学校が優勝。分かりやすいでしょ?」
「俺は止めたからな。そんなの協会からのお咎めが来るに決まってる」
魔法や魔術に関する一切を取り仕切る魔法魔術協会。彼らは近年のテロや重大な魔法事件を過激な高等教育にあると考え、数年前から魔法の実践教育を減らし高等魔法の禁止を掲げた。
「ライデンがこれだけ実践教育に力を入れられるのは、ここが唯一の王立のカレッジだからだ。太陽王には流石の教会も手を出せないからな」
「テロを起こす人間なんて教育の有無にかかわらず危険な魔法を使うじゃない。その時抵抗する術を持たず殺されるだけの市民を作るなんて意味が分からないわ。これは警鐘よ」
「……シャルにそんな真面目さがあったとはね」
「アドラー、もしかして馬鹿にしてる?」
「いや、今までの自分の行動振り返ってよ」
相変わらず授業には出ないし、夜な夜などこかに出かけることも多い。そもそも周りに興味のなさそうなシャーロットがそのような考えを持っていることも寮長会議に乗り込む行動力もアドラーにとっては信じられなかった。
「それで採用されたのか?」
「えぇ、来週には正式に告知が出るはずよ」
嘘だろ。まさか通るとは。
ルカとアドラーは開いた口が塞がらない。
「そろそろ失礼するわ。ルールの詳細を考えなくちゃいけないの」
御機嫌よう。ニコニコと去っていくシャーロットの後ろ姿を3人は黙ったまま見つめた。
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それから1週間が経ち、各校に大会の概要が告知された。
ある生徒は筋トレを始め、ある生徒は有力な選手を片っ端からリンチしていた。ライデン生にとってこれほど素晴らしい競技はない。気合の差ことあれど、学園はこのチャンスに色めき立っていた。
しかしとある晴れた日の昼下がり、危惧されていた事態は突然やって来る。
『校内にうさぎさんが遊びに来ました。遊びたい人はニンジンを持ってエントランスホールに来てください』
全校中に流れたライデンには似つかない可愛いアナウンスは、にぎやかな食堂を静まらせるには十分だった。血気盛んな上級生たちはアナウンスを聞くなり嬉々としてエントランスホールへと向かっていく。
「え、なに?」
「ウサギ?」
一方、1年生は訳が分からないと言った表情で先輩たちを見つめる。
すると食事を続けていた上級生のうちの一人が親切に説明した。
「うさぎって言うのは魔法魔術協会のことで、ニンジンは杖のこと。つまり協会の人間が学校のセンサーに反応してて多分もうすぐ乗り込んでくるから暴れたい奴は杖持って戦いに来いってさ」
1年に一回有るか無いかだけど、乱闘になって戦闘許可が下りる可能性高いからストレス発散したい奴は行くといいよ。過去に死んだやついるけど。
そこまで聞いて立ち上がる1年生はいなかった。そして彼らは心底先輩たちがイカれていると思った。(しかしこの中の半数は数年後嬉々として戦闘に参加する側に向かう)
「兄貴に聞いたことある。昔はもっと多かったらしいけど」
「今のライデンは協会に盾つく機会が減ったからな」
「今回のはもしかしなくても私のせいね」
「行かないのか?」
「絶対嫌♡ルカこそ行って来たら?首席様は授業で習う魔法が物足りないって言ってたじゃない」
好きなだけ魔法使えるかもよ?という問いかけにルカはノーセンキューの姿勢を貫いた。
しばらくすると協会の人間が侵入した旨のアナウンスが流れたが、いつまでたっても戦闘が行われているような音はしなかった。
数分後にウサギさんが無事帰っていったという放送で食堂は胸をなでおろす。
「何かしたのか?」
「なんのこと?」
ほぼほぼ乱闘騒ぎになる事態が魔法の1つもなく終息したことに疑問を感じたレイモンドはシャーロットに問いかけた。とぼけるシャーロットにレイモンドは鋭い目を向けた。
「はぁ……ただ事前に学園長が聖騎士長に報告して許可の書状を貰ってたってだけよ。陛下の分と合わせてね」
「陛下?」
「太陽王」
「「……は!?」」
ルカとアドラーは驚きの声を上げ、レイモンドは頭を抱えた。
「別におかしいことでもないでしょう?そもそもこの学校は聖騎士や陛下とも近い学校だし」
協会を黙らせるには一番じゃない。
そう言ったシャーロットを彼らは呆然と見つめていた。
アスカニア帝国皇帝ゼウリス・ヴィルヘルム・エウリクス。神の持つ創造の力を与えられこの世界を作ったエウリクスの末裔で、世界を統べる太陽王。民間人を主に魔法統制を行う魔法魔術協会は数ある国家機関のうちの1つに過ぎず、太陽王とは明確な上下関係が存在する。
そして世界で最初に創られた魔法魔術学校であるライデンカレッジは太陽王の下で働く聖騎士の育成を目的に創設された学校であり、ほとんどの学校の管理が魔法協会に一任された今でも太陽王及び聖騎士団の管轄下に置かれている唯一の学校である。
しかし、だからと言って一々いざこざを解決させるために呼び出せるほど容易い相手ではないことはこの世のすべての人間が知っている。太陽王こそがこの世界の現人神であり、聖騎士団は神の使いなのだ。世界で最も尊い人だと言うことはたとえ5歳児でも知っている。
「だから学園長だってば。私じゃないわ」
「俺なら恐れ多くてその話聞いた瞬間心臓止まる」
「……?それは言いすぎでしょう?」
「とんでもない女……」
彼らは先3日、生きた心地がしなかった。




