第14話 とある密会にて
歴史あるライデンカレッジにはたくさんの隠れ家なるものが存在する。そこは教師に見つかってはマズいことをするために生徒が作ったものや趣味のための場所、中には教師の作ったものもある。入り口は巧みに隠されており、その管理は先輩から後輩へと脈々と受け継がれている。それをわざわざ学園内で口にする者はおらず、出入りする者がその場所を知ったきっかけも様々。中にはその存在をひとつも知らずに卒業する者もいる。複数の場所を知っている者はいてもおそらくその全ての存在を知る者はいない。
とある廊下の肖像画。そこを開くと現れる階段を降り、長い通路を進むと見える3番目のドア。位置にして第3寮の地下に当たるその場所には年代物のウイスキーや洋酒の並ぶオーセンティックバーがある。もちろんバーテンダーを務めるマスターは専門的なお酒の知識と技術を有している。ここで起こったことは全て他言無用。そしてここに来る客でさえ、このバーがいつからあって誰が運営しているのか、どこから酒を仕入れているのかは知らない。
「マスター。ホワイトレディお願い」
「かしこまりました」
重厚なドアを開けてカウンターに腰掛けた女は美しい白髪を耳に掛けた。
「今日ね、1年生の遠足の日だったの。すっごく面白かったからマスターにも見てもらいたかったわ」
「えぇ、その話は私も伺いましたよ。お隣の紳士から」
「相変わらずだな。シャル」
「大人っぽくなったでしょ?貴方も変わりなくて何よりよ。デイヴィッド」
「学園生活はどうだ?」
「それは生徒として?それとも……」
「両方だ」
「生徒としては楽しいわね、なんだかんだ。少し物足りない気もするけど……もう片方に関しては驚いているわ。生徒のレベルが低すぎて」
「へぇ?」
「少なくとも1年生はね。デイヴィッドだって感じているでしょう?悪いところだけは引き継いでいるようだけれど、肝心なものが何一つ残っていない。だからあの遠足の内容に変更したんでしょ?」
「さぁな。そこに関しては学園長の独断だ」
カクテルグラスを持ち上げて、シャーロットはため息をついた。
「未成年飲酒を教師の前でするとはいい度胸だな?」
「ここはライデンカレッジよ?それより……今年の首席のルカ・フェイマス」
「アイツがどうかしたか?」
「変だと思って。……やっぱりいいわ。それより要件は何?雑談しに呼び出したわけじゃないでしょう?」
デイヴィッドはグラスを飲み干すと声を掛けてきたマスターに同じカクテルを注文した。
「今日のゴーレム。魔法協会のやつだろう?」
「よく知ってるわね。私もさっき知ったのに。新型のゴーレムで羽が付いてて軽いから飛べるんですって、まだ開発段階らしいけど。従来の土だけのでは重すぎるから転送しづらいんでしょうね。でもその分脆くて助かったわ」
「ミラーも全く知らなかったらしい。学園長の使い魔も分身だから問題はないが、どういう目的だと思う?」
「知らないわ。大方品定めと試作品の実験ってところかしら?転送経路に関しては内通者でも使ってやったんでしょうね。もうとっくに協会も気付いてるわ」
「もう少し具体的に。アルにも言われてただろ?お前の思考に誰でもついて行けるわけじゃない」
シャーロットはきっちり3口で飲み終えると「チェックで。彼の分も」とマスターに声を掛けた。
「……は?」
彼女に払わせるわけにはいかないとデイヴィッドは止めるが、時すでに遅くマスターはカードを受け取り彼の分まで会計を済ませてしまった。普通ならデイヴィッドに確認を取るところだが、マスターはこれが彼女の嫌がらせだと知ってそれに乗ったのだった。なにせマスターは彼女の味方なので。
「おい、」
「だって折角おめかししたのにつまらない話ばかり。マスター、今度ゆっくり飲みに来るね」
「いつでもお待ちしております」と頭を下げるマスターに手を振って、彼女はバーを後にした。
残されたデイヴィッドがその後一人で寂しくこれでもかと飲み続けたことを彼女は知らない。
「おい不良娘」
「あらレイ。御機嫌よう」
バーを出てすぐの地下通路にはジャケットを羽織り不機嫌そうにしているレイモンドが立っていた。彼は談話室でルカたちからシャーロットがめかしこんで出て行ったと聞いて急いでやってきたのだった。
「仕方ないでしょう?呼び出されたんだから」
「そのまま帰るつもりなかっただろ」
「折角だからカジノでも寄ろっかなって」
「……はぁ。俺も行く」
2人はそのままさらに下層階へと姿を消していった。




